VIVID 18──らしくねーよな… むすくれている悠心に、弘樹は更にビールを仰ぎながら言う。 「だってそうじゃんかよー。桜井見かけるとすぐに慌てて髪整えたりしてさぁ。マジ乙女。つか乙男?」 「うっせ。別にいいじゃねぇか、んなもん」 揶揄の混じった弘樹のにやにやした笑みに、悠心は顔を赤くしてそっぽを向く。 わざわざ言わなくてもいいだろ。 桜井の前ではウブな乙女の様になってしまう自分を、悠心はわかっていた。 桜井を見かけると、心臓が跳ねてそわそわと落ち着かなくなるし、桜井がいたら少しでもカッコいい自分が目に映るように、身嗜みをきちんとしたり。 うう……だってさ、しょうがねぇじゃん。 何か心臓痛ぇし、顔熱くなるし……。 「ぶくくっ。マジでウケるわー」 「〜〜うっせーコラァ!」 桜井前にすると、どうしていいかわかんなくなるんだよ、ばーろー! 逆ギレした悠心は、テーブル越しに弘樹に掴み掛かる。 胸倉を掴まれた弘樹は、真っ赤な顔で怒る悠心に怯えながら何度も謝罪を口にした。 「ひいぃ! すいません!」 悠心の“照れ隠し”は分かりやすく、しかし今にも殴りかかられそうなので、弘樹は慌てて宥めようと手を振る。 「……はぁ。お前らうるせーよ。また怒鳴られんぞ。後からいろいろ言われるの俺なんだからな」 その時、那智の溜め息と共に吐かれた言葉に、悠心も一旦落ち着き、弘樹を離した。 すっかり伸びてよれよれになってしまったカラーシャツを見てげんなりする弘樹。 悠心は少し頭が冷えて、小さく「わりぃ」と呟いた。 くそっ…。 桜井のことになると、周りが見えなくなってしまう。 悠心は反省して、大人しく席に座り直した。 「……にしても、マジでビックリだよな。あの悠心がここまで大人しくなるなんてなー」 弘樹がしょぼんとした悠心を見て、皿に盛られた柿ピーを一口摘む。 「前はセフレだろうと何だろうと、もっと淡白だったのにさ」 そう言ってぽりぽりと柿ピーを租借する弘樹に、悠心は小さく唸る。 「……俺も、わかんねーけどさ。何か、今までのとは違うんだよ。なんつーか、桜井は特別、みたいな」 「ふーん?」 言葉にしてみて、改めてそうだと感じた。 今まで関係を持った人達とは、全く違う。 以前は、体を繋げようが抱き締められようが、心はどこか客観的で、もう一人の冷静な自分が静かに見ていた。 しかし、桜井のことは、最初出逢ったあの日…。 あの電車の時から、体の芯から震える様な、何とも言えない感覚に陥り、自分をコントロールすることができなくなってしまった。 マジの恋って、こんな制御できねーのな。 生まれて初めての経験に、悠心は頭をがしがしと掻き、唸った。 「──だぁー! もうっ! ぜんっぜん俺らしくねー!!」 なんだ、この女々しい野郎は! こんなの俺じゃねぇ! そう思って頭を抱える悠心の頬は、林檎の様に真っ赤だった。 それに悠心は気が付かないまま、うんうんと唸る。 こんなのは自分じゃない、らしくない。 そう思うが、そんな自分が嫌いじゃない自分がいた。 そう認めてしまえば、何だか気恥ずかしい様な、何とも言えないむずがゆさに襲われて、悠心は痛む腹も忘れてバタバタと足を揺らした。 [*前へ][次へ#] [戻る] |