あめ色の日々
08
その後は手早く昼食をかき込み、なにやら小難しい話をしている小牧教官達を放置して午後の訓練の準備をするためにそっと席を立った。
「お先に失礼しまーす」
「あれっもう食べたのか、早いね。…ああ午後は選択格闘技だから?」
「そんなとこです。では」
俺も後から見に行くよ、と背中に声をかけられる。それに対して適当な返事を返し俺はそそくさと基地食堂を出た。
ーーーーー
バン、と竹刀の小気味いい音が広い剣道場に響く。今は剣道の訓練時間だ。
と言っても今現在対峙しているのは俺と剣道競技教官の不破教官一組だけである。つまり俺は試合、その他の選択者は見取り稽古というわけで、
「(なんか…流石に不平等な気がッ)」
しなくもない。
ていうかいくら剣道に自信持ってるからってね、流石に10年ちょっとしか経験を積んでいない若造と30年近く剣道に携わっている者とでは違いが大きすぎる。
正直、不破教官の一打はとにかく重くて平均体重ギリギリか足りないかってとこの俺はともすればぶっ飛びそうだ。…訂正、ぶっ飛ばされそうだ!
「ぐッ…!!」
「どうした森川、足が止まってるぞ」
「すいませ、んッ!」
こんな力の差が歴然とした相手と持久戦なんて馬鹿げてる。
なら―――
俺は遠間から一気に間合いを詰めると、ぐんっと瞬間的に竹刀を絡ませて体制を崩しにかかる…が、そう簡単に崩れてくれる人でもないのでそこは予想の範疇だ。
しかしそこで出来た一瞬の隙に捨て技を打ち込んで教官に当たり、なんとかして防御を崩して渾身の力で引き胴を打つ。が、一本にはならない。
くそう。
やっぱり筋肉が足りない。体重も身長も何もかも足りない。
同年代の奴らとやり合うなら十分なのだろうが、俺の周りには大人しかいない。それに俺が命をかけて戦う相手はメディア良化委員会だ。…遊びではない、試合でもない、本当の戦い。
だから、だからもっと強くなりたい。今のままでは満足できない。
その刹那焦りのあまり気の入ってない中途半端な攻めになる。
「っえ、」
その結果俺は物凄い衝撃を食らったと同時に宙に舞うこととなり、
「、森川!!」
背中にも同じく衝撃が走る。
息が詰まる。
どこか遠くで小牧教官の声を聞いた、気がした。
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