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加害者被害者
「ふふふふふふふ。はーっはっはっはははは!!」

 ここは常昼の地エニエスロビー。外はまだ明るいが、時計はAM2時を指している。そんな中エニエスロビーに響き渡る高笑いは迷惑極まりない。だがしかし高笑いを発する本人はそんなことなど気にするような人物ではない。彼女の名前はアリシア。アリシアはCP9のメンバーの一人であったがマッドサイエンストとしても有名でその発明は変なものが多いためアリシアを敬遠するメンバーも少なくなくなかった。まともに相手をしてくれるのはカクくらいである。さて、そんなアリシアは、本業であるCP9のほかに政府付の科学者として活躍していたりしている。今日も今日とて彼女の高笑いの原因はその副業である科学者としてのものであった。

「ついに出来たぞ!やっと、やっとできたっ!!!!」

 アリシアの手には小さなフラスコがあり、その中には真っ青な色を光りながら発す液体が入っていた。これはアリシアが長年研究し続けてきたある薬であった。アリシアはつけていた防護ゴーグルを外すと、さっそく自身の研究成果を親友であるカクのもとへ報告にいこうとまたもや周りの迷惑を考えずどたばたと足音を立ててカクの部屋へ走った。

「カクぅぅぅぅぅぅ!のわっ!」

 だが、研究室の扉を開けた瞬間に目の前にあったなにかにぶつかってしまった。あまりにも勢いよくアリシアが研究室から飛び出たせいで、アリシアは反動で倒れこみ持っていた薬品から手を思わず離してしまった。薬品は半円を描いた後、見事にこぼれた。

「ちょっとぉぉぉぉ!こぼれちゃったじゃない!」

 床に広がる青い液体とフラスコをみて彼女は泣きそうになった。

「三日三晩寝ないで、任務も無理やりフクロウやジャブラに押し付けてきたのに!」

 私のこの苦労どうしてくれるんだ!とアリシアがぶつかった何かをにらみつけようとした瞬間、アリシアは固まってしまった。目の前にいたのはCP9リーダー、ロブ・ルッチだったのだ。しかもアリシアが作ったあの薬品を頭からかぶっていた。

「や、やばい……」

 尻もちをついた状態でアリシアは思わず後ずさった。薬品がかかった状態のまま何も言わないルッチにアリシアの背中には冷汗が流れる。

「あ、あのールッチさん?」

 ルッチから離れること十メートル、その距離で聞こえないだろうというくらい小さな声でアリシアはたずねた。しかしルッチから反応はない。アリシアはますます身の危険を感じた。彼の性格からしてこんな失態をしたアリシアを普通の罰くらいですます訳がない。

「………あ」

 アリシアはいきなりぶつかってしまったことで薬の効能をすっかり忘れていた。そう、アリシアがつくっていたのはいわば惚れ薬で、服用者が初めてみた人を好きになるように開発したものである。いくら飲んではいないとはいえ、いくらCP9リーダーで人間離れしているロブ・ルッチ氏とはいえ、見られたらきっと惚れられてしまう。アリシアの背中にはまた違った冷汗が流れた。

(私、ここから早く離れなくちゃ!)

 だが時すでに遅し。

「美しい……。どうしてこんなに俺の心を痛ませるんだ」

「いやぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 いつの間にかルッチはアリシアの背後からアリシアを抱きしめていた。それだけにとどまらず愛おしそうにアリシアの髪をすいたり、うなじにキスまでしてこようとしてきたのでアリシアはとりあえずアッパーをかましておいた。だがそれしきのことでルッチがどうにかなるわけもなく、再び抱きつこうとアリシアに接近する。アリシアにはとにかく走って逃げることしか方法が残されてはいなかった。

「カクぅぅぅぅぅ!!!!助けてぇぇぇぇ!」

 廊下を叫びながら走りまわるアリシアとアリシアに愛を囁きながら追いかけるルッチは瞬く間にエニエス・ロビー中の海兵たちを目覚めさせることとなった。









「で、どうしてこんな状態になったの?」

 カリファは馬鹿馬鹿しいとはおもったが、この状態ではルッチが使い物にならないため仕方なくことのあらましをアリシアにたずねた。

「そ、それが酢パンダに惚れ薬を飲ませ、そしてルッチに惚れさせることでルッチに対する嫌がらせに使おうとおもってずっと惚れ薬を作っていたわけよ」

「任務も他人に押しつけてね」

「うっ。そそ、それでようやく今朝出来上がったわけよ」

「あの高笑いはそれじゃったのか」

「そうなのよ、カク。で、それをカクに報告に行こうとした矢先ルッチとぶつかってしまって……」

「それをルッチにかけてしまった。そういうこと?」

「はい……」

 アリシアはうつむき忌々しげに自分のお腹をさせる手をにらみつけた。あのあと散々ルッチとの追いかけっこを繰り広げた末に体力の差から捕まってしまったアリシアはいまルッチの膝の上という状況だ。そんなルッチとアリシアの様子をみてカリファは今日で何回目かのため息をついた。

「まったく。で?解毒剤くらいあるんでしょ?」

「そ、それがそんなのつくったらルッチへのいじめが長続きしないなぁと思って……」

「作ってないのね?」

「……はい」

 カリファは再び溜息をついた。

「仕方がないわね。ルッチの解毒剤を作れるまで貴女はルッチとコンビで任務にあたってもらうことになるわね」

「や、やっぱりそうなっちゃいます?」

「あたりまえでしょ?貴女がそばにいないと暴れまわること確実よ彼」






加害者被害者

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