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矛盾と無情の中で
柴先輩と付き合う事にしたのは、
俺の独占欲が強いせい。



葵は柴先輩が好きだから取られるのがやだった。


俺だって、好きなんだ。


気付いてないんだろ、葵。


俺が好きなの、お前なんだ。


葵が柴先輩の事好きだから

柴先輩に葵をとられるのが恐くて

俺は柴先輩と付き合い始めた。



矛盾と無情の中で。




ワックスとスプレーで少しかたい髪に触れると、微かに微笑んでくれる。


普段じゃ一切微笑まないくせに、その微笑みは俺に向けられたものなんだよな、
と思うとなんだか特別な気がしてで悪くはない。

「どうした、涼?」

「別に…」


離そうとしたその手を掴まれたと思うと強く柴先輩の方に引かれた。


「え。  、…ふ」



目前に先輩の顔。
疑問を吐き出そうとした口は柴先輩の唇で塞がれてしまった。

この人のキスは、見掛けによらず優しいキスだな、と思う。
なにもかも許してしまいそうで、
なにもかも言ってしまいそうで、
恐いから


静かに手を回した柴先輩の背中にぎゅっとしがみついた。
その行動を不審に思ったのか一旦唇を離すとゆっくり俺の後ろ髪を撫でる。


「いつもっちゃいつもだがよ、変だぞ、何かあったら言えよ」


そんでもって、優しい人だと思う。

付き合い始めてから柴先輩の新しい一面を何個か発見した。


葵はもう知ってたのかな、だから柴先輩を好きになったのかな。

なんて嫉妬心に駆られたりもする。

でも、柴先輩の事は嫌いじゃないからこそ、キスやセックスのような、恋人だっ
たら当然の行為はできる。


でもそんな事してて葵を手に入れられるかと言うとそうではないのは自分でもよくわかっ

ていた。


じゃあなんで?

ただ恐いだけなんだ、
葵を取られてしまうのが。


もし告白したのが涼じゃなくて葵だったら、柴先輩はどうした?

葵の事、どう思ってんの?

俺が葵の事好きだって知ったら、それで柴先輩と付き合ったんだってこと知ったらどうす

る?


聞きたい事なんて篩いをかければかけるほど出て来る。

そこに残るのは不安でしかないのに。



「あーぁ今日は寒いなぁ」
柴先輩の肩に顎を乗せまたぎゅっと抱き締める。
先輩の熱を感じると寒いなんて縁遠いものになる。
「ん?…」

はぐらかされているのがわかるのか、どことなく納得いかない様子で俺の背中にも手を回

して抱き締めてくれた。

「せんぱい、もし、俺じゃなくて葵が先輩に告白していたら先輩はOKした?」


一つの疑問を篩いにかけてみた。


「何言ってんだよ、どうかしてるぞ?」

俺は柴先輩から少し体を離すと、至近距離で見つめた。

「真面目に聞いてるの」

「…。俺はな、お前と付き合ってんだよ。葵じゃない、涼とだ。だから、そういう質問は

すんなよ」

はぐらかされてる?
と、気付くと顔を歪ませた。

「先輩のバカ、なんで?葵じゃない、俺の事が好きだって言ってよ。葵じゃない、俺だけ

しか見てないって…言って…」

先輩のシャツをぎゅっと握り締める。
自分でも一体何言ってるのかわからなくなっていた。

この不安の渦をどうにか晴らしたい。

先輩は困ったように俺を撫でた。

「何嫉妬してんだよ、俺は涼が好きだ。双子だっつても、葵と涼は全然違うだろ。俺は涼

に惚れたんだ」

俺は顔を上げて先輩を見ると、そこには真直ぐな視線で俺を見つめる姿がある。

(葵と涼は全然違う)

初めて言われたような気がした。


「先輩、好き。」

首に手を回すと己から勢い良く口付け、先輩を床に押し倒した。






「俺だけを見て。」

「これからもずっと。」







それに答えるかのように、先輩は俺を精一杯愛してくれた。










何処までが演技で、




何処までが本気?







矛盾と無情の中で、変わり始めようとする何かを必死に堪えているのは誰?








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