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リセット-榛準- T
今日は榛名と会う日で、
いつもの様に学校を出ると校門にはあいつの姿。


(今日はどこ行くんだろ)


あいつん家かなぁと思いながら校門へ向かい歩みを進める。
榛名まであと数メートルという所で


「榛名ぁ」


と、呼べばいつもすぐに振り返り、不満げな顔しているのに。

今回はなんか違った。


呼ぶと振り返りはするが不審そうに眉を顰めて俺を探るようにみる。

…、というか睨まれている様な気がしなくもない。

(なんだよ、今日は早く出たのに…)

俺もムスッとした顔で近付くと、あいつは俺に向き直り口を開く。


「…お前、誰だ。」


どんな言葉を投げ掛けられるかと思ったら…



(…。なんかすげぇムカつく)

「はいはい。遅れて悪かったな。」

ここでつっかえると後々面倒臭いのは前科があるから知っていた。
だから此処は俺が大人にならないといけないわけだ。

しかしあいつはと言えば…

「は。だから誰だって言ってんだろ?」


…しつこい。

今日はいつにも増して機嫌が悪いのか知らないが、いい加減に我慢するのも疲れる。

「…今日何処行く?お前ん家?俺ん家?」

「無視すんな。つか馴々しいな、見ず知らずの他人を家に上げる義理も上げられる義理もねぇよ」

あいつは苛立ちを見せつけるかの様に頭を掻く。

「チッ…。なんで此所来たのかわかんね…帰ろ…」

ふらりと後ろに向き返ると、本当に帰り始めたから俺は驚く。

(なんか…おかしくね?)

呆気にとられていたがすぐ我にかえって榛名を追った。


「…」
「…」
「…、」
「…」

「なんで着いてくんだよっ」

駅の改札へ入った所で、思いっ切り振るから、俺は思わずたじろいだ。

(なんでって…)

「もうお遊びはやめにしようぜ、いい加減大人になれよ、榛名。」

溜め息交じりに言い放ってはみたが…
相手はと言えば、「はぁ?」という顔をしてこちらを見ている。

いや本気で…、今目の前にいる榛名は、榛名なんだけど…
なんか榛名じゃない気がする。

「なぁ榛名、どうしたんだよ?」

俺が心配そうに尋ねるとまた不機嫌そうな顔に戻って

「…だからてめぇは誰だよ、名乗りやがれ」

「は?」


しばしの沈黙。


新手の嫌がらせか、何かか?
これは俺がキレてもいいのか?

頭の中はだいぶ混乱していた。


取り敢えずは、

「…俺は高瀬だよ、高瀬準太。」

そういえば榛名は吹き出して、笑って、冗談だよ、て…

いつもの様に、戻ってくれる期待をしていたのに。


「知らねぇな。」


冗談もなく、真顔で、俺に投げ掛けられる。
電車がホームへ到着したから榛名は当たり前のように、俺なんか一切気に掛けずに乗り込むもんだから慌てた俺も一緒に乗り込めば「なんでお前も乗ってくんだよ」と睨まれた。

榛名は帰るつもりなんだろう。

これが全部演技だとは到底思えない。
だとしたら俺は榛名を褒めるよ。


「なぁ榛名?どうした…何があったんだよ…」

俺は急に不安になった。
一人、置き去りにされた感覚。

「何もねぇよ、高瀬っつったっけ?お前は何、…まさか、俺のファン?」

冗談混じりに笑いながら話す榛名に、怒りと言うよりは、絶望感を覚える。

「榛名、本当に俺の事わからねぇの…?」
「知らねぇな、どっかであったか?俺人の顔と名前覚えんの苦手だからな、」

う〜ん、と考え込むも、答えが出なかった様で「やっぱ、わかんねぇや」と悪ぶれる様子もなく答えた。


(これ、なんかやばくないか?)


俺は色々考えた結果、ふざけているという可能性と、こいつは記憶喪失なんじゃないかという可能性を含めざるを得なくなった。

そんな中、榛名の地元駅まで着いたから俺らは下車した。

(この場合どうしたらいんだろ…、医者か?でもそんな大事になっても困る…かな?)

俺は何の解決策も無く、榛名の後を追って歩いて居た。

その前に、

「お前、自分の事はわかんだな?」
「は?わかるに決まってんだろ、記憶喪失じゃあるめぇし」

自分で記憶喪失じゃないって言ってやがった…

どういう事だ。


「榛名?」

途方に暮れていると何処からか、榛名の名を呼ぶ声が聞こえた。
榛名と俺も振り返ると、そこに居るのは俺の知らない顔だった。
しかし榛名は親しげに「よぉ」と手を上げた。

「だれ?」
俺が聞くと面倒臭そうに答える。

「捕手の秋丸。」
「へ〜」

武蔵野の、榛名のチームメイトか。

俺を差し置いて秋丸の所へ歩み出す榛名に、なんだか気分が悪かった。
親しげに話す姿をみるともっと。

(…ていうか)

なんでだ?
俺の事わかんねぇのになんでチームメイトはわかんだよ?
記憶喪失じゃねのか…?

「あの人って…。あ!桐青の高瀬準太…なんだ榛名、仲良かったんだ?」
「ん〜いや、全然。てかあいつ有名なの?」
「桐青の投手だよ、そんくらい覚えておけって。」
「へいへい」

聞こえる会話がなんだか胸をチクチクと刺した。

(なんなんだよまったく…)

この場から逃げ出したかったけど、ここで逃げたら、なんだかもう二度と榛名に会えなくなるんじゃないかって、そういう思いが俺の足を此所に止どめていた。

「榛名、行こう。」

耐え切れず、俺は榛名の腕を掴んでいた。

「は?何処へ…」
「う…」
実際何も考えてないのでとっさに出たのが
「俺ん家」
だった。

榛名の捕手は空気を読んでか、「なんだ仲良いんじゃん?それじゃあまた、高瀬さん、榛名をよろしく」と、にこやかに言い残すとその場を後にした。

なんか、榛名の捕手は見た目から伺えるが、中身も良い人だった。


「なんでお前んち行かなきゃいけねんだよっ!」

折角地元に戻って来たのに、と口を尖らせた。
榛名の腕を引っ張るが足取りは重くなかなか一歩を進んでくれない。

「榛名…っ」

俺が、もはや泣きそうになりながら見つめたものだから流石の榛名も目を反らして、

「わぁったから、離せって」

と言うのと同時に俺がパッと手を離したから、今まで力を入れていた榛名はよろけながら1、2歩後ろに下がった。


「―っのわっ!」

榛名のものではないであろう声が、その榛名の後ろから聞こえた。

「ん?」

俺と榛名は同時にその声のする方に注目するとそこには、何処かで見た顔があった。


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