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戸田北合宿物語
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昨日、元希さんに言われたことをオレなりに考えてはみたが、いまいち意味がわからないまま、合宿も三日目に突入していた。

そして、オレがあの時言われた意味にようやく気付いたのが銭湯での一件があってのことだった。

合宿中は近場の(といってもバスで5分はかかる距離だ)古びた銭湯に、だいたい2交代制で入りにゆく。

もちろん順番は運動部独特の縦社会割りで、上級生がまず先に入り、下級生はその後に入ることと決まっている。
だからたとえバッテリーを組んでいようといまいと関係なく、オレは今日まで元希さんと同じ時間に風呂に入るなんてことはなかった。

それに…男どうしだし、別に裸を見せるのにも抵抗はなかった。
実際そんなの部室でもしょっちゅう見ているものだったから。

確かにそれなりに気恥ずかしい部分はあっても、他人の身体をそんなにジロジロ見る奴なんかいなかったし、オレも同じだったから。


しかし中にはそうでない奴らもいて──


「タカヤ。その首の赤いの何?蚊か何かに噛まれたん?」

とニヤニヤした顔で言ってくる連中が何人かいたのだ。

「…え、どれ?」

「それそれ、首についてるその赤いの」

と首のあたりを指差されて、風呂場の鏡で確認すると…うっすらと赤みをさした、傷ではない『ソレ』


昨日、元希さんに呼び出されたときには何のことだか気付かなかったけれど、初日に元希さんに吸われた部分がうっすらと充血していたようだった。


「……!?」

あの時、元希さんに言われた「服…ちゃんとしろって話だろうが…」って言葉の意味が今頃になってわかってしまい、一気に羞恥が襲い、首筋まで真っ赤になった自分を感じた。

しかし幸いにも?場所が風呂場ということもあり、羞恥に染まってるだろう身体はなんとかごまかすことが出来たように思う。


そしてオレは当然何も応えられない。
いや、こたえない…はずだったのに──。


それでも何も言わないオレの様子を見て

「なぁなぁ、ソレ何だよ?」

としつこく尋ねてくる連中がいたのもあって、思わず「何でもねーよ!」と返してしまった自分の大声とか、うろたえた様子とかが面白かったようで追求の手はますますエスカレートしてきたのだった。


「タカヤ〜。ソレってさ、アレなんじゃねーの?」

「アレってアレだよな…?」

「ちょっと前から気になってたんだけどさぁ…」


とニヤニヤ顔でさらに何人かが寄ってくる。


『んだよ!ソレとかアレとかって!意味深な言い方すんな…!』

と言い返したいところだったが、あまりにも思い当たることがありすぎて何の言葉も出て来ない。

そんな自分を、なおもニヤニヤ顔で眺める連中が気にはなりはしたが、そこはもうグッとこらえて我慢したのだった。

でもきっとぜったい気付かれていたんではないかと思う。

まぢ恥ずかしさで死ねる…そう思ったときだった。


「おい、お前らいつまでも入ってんじゃねぇっつーの。ほら終わったんならとっとと行けよ。」

と聞き慣れた声が風呂場中に響いた。


続く。
2010/8/26UP

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