戸田北合宿物語
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そう、結局最初の夜は
「何で抵抗しねーの、お前?」
の元希さんの問いかけに答える事も出来ず、こんがらがった思考のまま目をそらすのが精一杯の抵抗だった。
「目ェそらしてんじゃねーよ、こっち見ろよ…。」
視線がかさなり─。
言葉が出ずに─。
視界が揺れた…。
そんなオレを探るような目つきで一瞥した元希さんは、最後にもう一度俺の体を強く抱き締めたかと思うと、不意にオレの上からスッと離れた。
離れ際に「泣くこたねーだろが…」と呟いた声が聞こえたと思うと、もうオレの方には構いもせずに──何事もなかったように、さっさと自分の布団に戻ってしまったのだった。
唐突に離れていった熱に特に未練は感じなかったが、元希さんが触れていた自分の首筋を指でなぞるとチクリとかすかな痛みが走る。
──んだよこれ…。
ジワリと瞼がかすんだ。
そしてかすんだ視界のまま暗闇に目をやると、当の元希さんは静かな寝息すら立て始めたものだから、今度は不意に怒りがこみあげてきた。
──し、信じられねぇ…!
暗闇に盛り上がった影に、ふざんけんなよ!と布団に手が伸びかけたけれど、もしまた元希さんがあんな行動に出たら…と思うとそれ以上の動きが止まる。
(ハァ……。)
音に出ないため息をひとつ──。
そして──規則ただしい呼吸音を聞いているうちにオレのまぶたも次第に重くなってきて、気付けば眠りに落ちていたのだった。
***********
そんなことがあった翌朝。
目覚めた時には既に元希さんの姿は隣にはなくて、他の部員の中に混じって寝ているのを見たときに沸き上がった感情。
それはまぎれもなく、寂しいという気持ちに似ていて。
だけれどそれがどういう種類の寂しさであるかは、この時の自分にはわからなかったのだけれど…。
2009/11/22UP★
→続く。
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