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戸田北合宿物語
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そう──あの夜元希さんは抗議の言葉を言おうとするオレの口をいきなり利き手で塞いだかと思うとそのままグッと体を寄せたまま今度は首筋におもいきり噛み付いてきたのだった。

「…ぅう…うぐッ」

声にならない声が思わず口をついて出たが、元希さんによって塞がれたままの状態ではカエルがつぶれたような音しか出ない。

いきなり何しやがるこの野郎──!と反射的に抵抗はしたのだが、おさえつけてる手が左手だということに気付いてしまった。

いまいましいことだが、左は元希さんの利き手だった。

豪速球を投げることの出来る投手の手。

元希さんなんか実際ものすごくオレ様な奴だし、いつだって自分本位な奴だしオレのことなんか都合のいい単なるパシリ程度にしか思ってないってわかっていてもやっぱりオレにとってはかけがえのない大事な投手だった。

そう、べつに元希さんの性格がどうのこうのじゃなくて、スゲー球を投げれるってことに関してだけはやっぱり尊敬もしてたし、ある意味憧れてもいたし、純粋にカッコいいって思っていたから──。

だからその手で抑えられたらオレも本気で抵抗なんか出来なくて。

しかしそんなオレの中途半端な抵抗を抵抗とすら思わなかったのか調子に乗ってさらに何度も噛み付いてきやがったのだ。

二度、三度と重ねて噛み付かれているうちに次第に首筋の感覚がひりひりと熱を帯びたものになってくる。

噛まれているのか、吸われているのか、もう何だかどうでもよくなってきたのも事実で、とにかくこの嫌がらせ行為にとっとと飽きてオレから離れろ…と心の中で思っていたのだが、それでも一向に終わりそうな気配がない。

ちょっと──いい加減離れろよ…と思い、半分以上のしかかっている状態の体を手をのばして押し返そうとしたら今度はその手を掴まれた。

密着する体と体。

元希さんの左手はオレの口を塞ぎ、オレの左手は元希さんの右手によって封じ込まれているというとんでもない状態だった。


唯一、自由を許されているオレの右手が助けを求めるように空を泳いだ──。

続く。


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あきゅろす。
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