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Re1:The first sign
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 ファリナセア中央大陸のど真ん中に位置する都市ジルクスは、世界最大の規模を誇る軍治国家だ。
 都市直属の軍隊が国を治める政治の要でもあり、同時に国民の治安も守っている。
 軍治だけでなく様々な事業を展開し、今やジルクスは世界の支柱とも言える大規模な存在として君臨している。
 どんな田舎者でもその名を知らぬ者はいないだろうし、各地方からも若者が挙(こぞ)って兵士に志願する者も少なくない。

 此処は、そんな大都会の中枢でもある場所。
 兵隊の育成所も含め、大規模な施設を構えている為、広さも計り知れない。

 そんなジルクス軍本部のフロントでは、田舎者丸出しの少女…もといアイリスが、美人な受付嬢を前にまたもや騒いでいた。

「は? いないって、どういう事ですか!?」

「ですから何度も申し上げた通り、お探しの方は我が軍の兵士に登録されておりません」

 登録されていない。
 つまり、探し人は軍に在籍していないという意味だ。

「そんな筈ないっ!もっとちゃんと調べて下さい!」

「そう言われましても…」

 どうにもならない事で急かされ、受付嬢も困ったような表情を浮かべる。
 そんな相手の心境を察し、ようやく諦めたアイリスは肩を落としながらその場を去った。

 よろよろと覚束ない足取りでロビーのソファーに腰掛けると、この世の物とは思えない、深い、深い溜息をつく。
 まるで、ミンテでも危険だと名高い難所、鳴原(ナキハラ)の崖から突き落とされた気分だ。

「…いないって、どういう事なの?」

 北の果てから遠路遥々、たった一人で来たのに。  場所は特定しているのだから、広い都会でもすぐに見つかると思っていたのに。

「どうしよう…出鼻をくじかれたわ」

 そう呟いて、再び気分を沈めてしまうのであった。


 今、アイリスの脳裏に浮かび上がるのは、たった一人の男の子。
 気が小さくて、いつも自分の後ろを付いて回っていた男の子。
 幼い頃からずっと一緒で、家族のように育った男の子。
 まぁ実際、家族であったようなものだが。

 そんな彼がある日、自分を変えたいと言って自らジルクス軍隊に志願した。
 離れてしまうのは寂しかったけれど、初めて彼が自分の意志で決めた決断。
 駄々を捏ねたい気持ちを抑え、アイリスは笑顔で見送った。

 彼は『すぐに帰ってくる』と言い残して旅立った。
 すぐって、いつだろう。
 そんな気持ちを抱いたまま、馬鹿正直にアイリスは待ち続けた。
 だが、そうしていつの間にか十年という月日が経ってしまったのだ。


『――…速報です!西区の居住エリアにて反ジルクス組織のテロ活動が行われている模様です!』

 ふと聞こえてきた声に反応し、アイリスは顔を上げた。
 ロビーに設置された巨大なスクリーンの前には、いつの間にか大勢の人が集まっている。
 野次馬につられてアイリスもフラフラとそこへ足を運んだ。
 まだショックは癒えていないようだ。

『犯人と思われるテログループはセルディス派と見られており、ジルクス側も応戦している模様――…』

「…セルディス派?」

 アイリスは、先程バーテンが言っていた言葉を思い出した。
 酒場で暴れていた大男も、セルディスの刺青がどうとか言っていた事を。

「…ったく、バカ騒動起こせば軍の権力も下がると思ってやがる」

「こんな事しても無駄だってのになぁ」

 考え込んでいた時、アイリスは一般兵と思われる二人の会話を耳にした。
 東部地方には“聞くは一時の恥、知らぬは一生の恥”という詞がある。
アイリスは躊躇う事もなく、直ぐさま彼らに声を掛けた。

「ねぇ!あのテロを起こしてるセルディス派って、何者なの?」

「はぁ?…君、どっから来たの?」

「田舎者で悪ぅございますね!いいからさっさと教えなさいよ!」

 決して人に物を聞く態度ではないが、彼女の剣幕に圧倒されたのか、二人は顔を見合わせて口を開いた。

「せ、セルディス派ってのは反ジルクス活動をしてるレジスタンス組織だよ。野蛮な奴らが集まって、各地で暴力沙汰起こしてるってわけ」

「このテロ活動には軍も頭を抱えてるんだが、他にも片付けなきゃならねぇ組織があってどうにも解決しねぇんだよ」

「…その組織って?」

 更なるアイリスの問いに兵士は口篭った。
 だが彼女の続きを急かす無言の剣幕に押され、渋々答える。

「――クロウディ派。こいつらは過激なテロ活動は起こさないけど、ある意味セルディスより厄介だ」

「…どうして?」

「すまんな嬢ちゃん。こっから先は軍の重要機密で口外禁止なんだ」

 これ以上の詮索は無駄だと判断し、アイリスは彼らに礼を言った。
 兵士達が足早にその場を去った後、一人その場に残されたアイリスは深く考え込む。

「ジルクス、セルディス、クロウディ…三つの派閥争い、か。都会の人間って案外ヒマなのね」

 そう呟いてから、アイリスは再びスクリーンに目を向けた。
 現在テロ活動が行われているのは、西区の救急センター。
 この本部からは、そう遠くない場所だった。

「…よし、ちょっとお灸をすえてやるか」

 そう呟くと、アイリスは子悪魔のように悪戯な笑みを浮かべた。




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あきゅろす。
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