Re1:The first sign
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『またお前か!!クソアマッ!!』
うるさいな。
『我々とて、一度起こしたクーデターからあっさり引き下がる訳には行かないのですよ』
付き合ってられない。
『見ろよ、中々いい女だ』
ジロジロ見ないで。
『…レジスタンス組織に女を入れるのですか?』
入りたくなんか、ない。
『お前…誰?』
「――…っ!!?」
勢いよく起き上がると、そこは見慣れぬ部屋だった。
古く狭い個室の小さな寝台の上で、少女――…アイリスは小さく溜息をつく。
「夢…じゃないんだよね」
悪い夢にうなされてしまった所為で、身体中に嫌な汗をかいてしまった。
けれどその悪い夢は、全て現実にあったこと。
平穏だったアイリスの日常は、このジルクスに来てから180度変わってしまったのだ。
「ここは、レジスタンス組織のアジト。そしてあたしは雑用係か…」
自分で口にしてから、落胆してしまう。
コンコンッ
「…はい?」
突然聞こえてノック音に、アイリスは恐る恐る返事をした。
「…おはよー…、ございまーす…」
「あんた…!!」
ゆっくりと扉から顔を覗かせたのは、昨夜彼女に手を出そうとした男。
身の危険を感じたアイリスは、即座に威嚇するような構えを見せた。
「ま、待て待てっ!夕べは悪かったって!!」
「何しに来たのよ!?」
「ルツキさんに頼まれて、あんたの服を届けに来たんだよ!ほらっ!!」
勢いよく放り投げられた紙袋を反射的に受け取ったアイリスは、疑わしげに中身を確認する。
中にはシンプルな黒のパーカ、白いタンクトップ。
更にはベージュのショートパンツに立派な革のブーツも入っていた。
「…なんで新しい服なんか持ってくるの?」
「あのなー…昨日みたいなダッサい服着て誰かに見られたら、目立つだろ?」
「ダサくて悪かったわね!!」
都心から離れて住んでいた田舎娘には、若者の流行など全くの無縁だった。
「んじゃ、着替えたら朝メシの準備頼むぜ」
「え、私が作るの?」
「当たり前だろ?ざ・つ・よ・う」
意地悪な笑みを浮かべる男に、アイリスを思いっきり不快な表情を浮かべる。
その心情を知ってか知らずか、男は上機嫌に笑っていた。
「んなあからさまにイヤそーな顔すんなって!俺の名前はジィト。よろしくな、アイリス♪」
「…はぁ」
出来ればよろしくなどしたくない所だが、ここで否定は出来ない。
曖昧に返事をすると、ジィトは鼻歌を歌いながら部屋を出ていった。
不自然なほど上機嫌だ。
「…何なの?」
閉じられた扉をしばし不審そうに見つめた後、アイリスは渡された衣類に手を掛けた。
*・*・*・*
開店前の酒場には、クロウディ派のメンバーが集っていた。
人数はおよそ三十名ほどの少人数グループだが、平均年齢も若く勇ましい青年ばかりだった。
騒がしいその空間に、ジィトは上機嫌に入っていく。
「お、ジィト!どうよー新人の娘の様子は!?」
「やっぱ警戒はしてたけど、ちょっと話せばすぐ打ち解けられそうだぜ♪」
「マジかよ!俺も挨拶しよ!!」
メンバーは次々とジィトに群がり、噂の新人についてを質問する。
「歳は?いくつだって?」
「まだ詳しく聞いてねぇけど、俺の推測によると十代後半から二十代前半ってとこだな」
「顔は?一番重要だぜ!」
「田舎モンで服装がダサいのを置いとけば、文句なしの美人だ!」
沸き起こる男達の歓声。
一人静かにカウンターでグラスを吹いていたルツキは、その騒がしさに苛立ち始めていた。
するとその時、静かに奥の扉が開いた。
「…おはようございます」
現れたのは、新しい衣服に身を包んだ噂の新人雑用係、アイリスだった。
昨日までの彼女とは打って変わり、動きやすさを重視し流行を取り入れた服装は、より女らしい雰囲気を醸し出す。
皆が見取れているその間に、ルツキは何の動揺も見せずに声を掛けた。
「おはようございます。早速奥のキッチンで朝食の準備を始めて下さい」
そんなルツキの提案に、アイリスはぎくりと肩を震わせた。
「…あの、私…料理あんまり得意じゃなくて…」
「年頃の娘が何を言ってるんですか。簡単な物で構いませんから、お願いしますよ」
「…分かったわよ」
渋々、アイリスはキッチンの方へと歩いて行く。
すると突然ピタリと立ち止まり、ルツキや皆の方に振り向いた。
その表情は、とても引き攣った笑顔だ。
「…死んでも、恨まないでね?」
「「ちょっと待って下さい」」
その爆弾発言に、その場にいる全員が制止した。
目に見えない何かが、彼女をキッチンに入れるなと訴えているように感じたのだ。
「…分かりました。料理が出来ないのは、この際大目に見ます」
「ホント?良かったぁ!」
途端にアイリスは表情を明るくし、大きく伸びをした。
「良かったー!こんなに大勢の人の命を奪ったら、それこそ軍に捕まっちゃうもんねっ♪」
「………」
一体、彼女の料理はどのような殺人兵器なのだろう。
「ではアイリスさん、ノアを起こして来て下さい。今日は大事な作戦があるので、準備を整えるように伝えて下さいね」
「作戦?」
「貴女には関係のないものですよ」
ルツキの少し冷たい言い草にムッとするが、正直な所、関係などこれっぽっちもない。
連中のしている事や“作戦”について、興味が全くないとは言い切れないが、これ以上、関わり合いにならない事が最優先だ。
「昨日の部屋でしょ?ちゃちゃっと行ってくるわよ」
去り行く彼女の後ろ姿を、少年達は放心状態のまま見つめていた。
そんな腑抜けた彼らを正気に戻す為に、ルツキは声を荒げる。
「いつまでボケッとしているつもりですか?貴方達もさっさと支度に取り掛かりなさい!」
「えっ…俺らの朝食は?」
「見て分かりませんか?私は開店準備で忙しいんです。食べたければ何処かで調達して来なさい」
ルツキはそう言って、この上なく恐ろしい笑顔を浮かべる。
少年達は「はい…」と素直に返事をする事しか出来なかった。
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