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34・「三日目の終わりには」



トン、トン、と包丁がまな板に当たる音が勝手場に小さく響く。さっきまでの原田さんの寂しげな様子は無く、元気に(?)夕餉の準備をしていた。

反対に私は、ついさっき言われた言葉の意味を考えてしまって、困っていた。悲しそうに微笑んで、「惚れた女も守れない」…って。どう理解したらいいんだろう。冗談だったのかな。と、どぎまぎしていると、いつもと変わらず話してくれる原田さんに、そんな考え込まなくてもいいのかなとも思い始めたけど、やっぱり……




「よし、盛り付けて運んで終わりだな」

『……あ、そうです、ね』

「さっきみたく転ぶなよ?」

『だ、大丈夫ですよ!』




こう冗談を言って場を和ませてくれる原田さんに、そんなに気にしなくていいのかなと安心して、一日に三回も転ぶはず無いですよ!と笑った。そうだな、と原田さんは御膳を一つ持ち、先に勝手場を出た。

一生懸命運んでる姿が、何度見ても可愛らしくて。ふふ、なんて微笑みながら御膳を持って原田さんの後を追う。今度は、転ばないようにしなくちゃ!と気張って勝手場の入り口を跨いだ。

………けれど。

どうも今日は、厄日らしい。




『……わっ!』

「あ?…っ千鶴! 」






『…え?』




ふわりと身を包むような感覚。しっかりとした安定感。いつも側で感じている、あの人の匂い。何事かと目を開けば、不安を吹き飛ばすその大人な笑顔がそこにあった。原田さんが持っていた御膳はこぼさず床に置いてあって、私が躓いて飛ばした御膳は原田さんが持っていた。…神業みたい。

って、そうじゃなくて!




「……は…。お前、本当に今日は良く躓くな」

『す、すみません…。でも原田さん、元に戻りましたね!良かった…』

「ああ。そうみたいだな。俺も元の大きさに戻れて安心したぜ」

『小さいままじゃ不便ですもんね』

「んまあ、それもあるが…小さいまんまじゃ、想いを伝えたって冗談に聞こえちまうみてぇだからな」

『…え…』




原田さんの言っている意味が分かって顔が熱くなるのを感じる。そんな私を見下ろして、原田さんは、ふっと目を細めて微笑んだ。うわあ…。元に戻って、あの原田さんの色気が漂い始めた。な、なんて言ったらいいんだろう…!とりあえず、なぜか恥ずかしい!原田さんに見下ろされてるの!

というか私、躓いてから原田に支えてもらっていたままだった。ここは廊下。いつ人に会うかも分からないのに、こんな密着していたら怪しまれる。そう思って、ありがとうございます原田さん、もう平気ですと離れようとすると、原田さんは腕に力を入れて私を離してはくれなかった。

……あれ?顔、近い…!




『原田さ…っ』

「しー…」

『………っ!!』




強張って目を閉じると、ちゅ、と短い音と共に唇に熱が降ってきて。それは短いものだったけど、とても熱くて甘かった。そっと目を開ければ、微笑む、原田さんがいた。

…やっぱり原田さんには適いません。





左之助の苦悩
(あー!!左之さん何抜け駆けしてんだよ!)
(へ、平助くん!!?)
(早いもん勝ちだ、平助……って、さ、斎藤…!)
(あああ!!危ねぇよ一君!刀振り回すなぁぁぁ!!)


20101204

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