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トン、トン、と包丁が野菜を切る音が勝手場に響く。忙しなく私が動き回っていると、勝手場の角の方で座っているあの人の声が飛んでくる。その声には退屈と少しの罪悪感が含まれていた。




「…千鶴、本当に手伝わなくていいのか?俺に出来ることならするぜ」

『いえ、大丈夫ですよ。もう少しで終わりますし』




ニコッと言葉を返すと、彼は「悪いな、」と申し訳なさそうな顔をして言った。

こうして話している原田さんは今小さい。小さい原田さんは、前の二人と同様に可愛くて。あの大人の色気は、無いに等しい。…とりあえず、可愛い。

そして、こう言っては失礼かもしれないけど…小さい彼は、きっと私よりも非力だから、色んな意味で家事をやらせるわけにはいかない。まず、流しで作業をするには身長が足りない。そして御膳を運ぶのも…出来るかもしれないけれど、ちょっと、心配だ。

…もし子供が出来たら私、こんなに過保護になるのかなあ。

そんな事を思ってるうちに料理は終わり、御膳を運ぶだけとなった。御膳は残り二つ。…私もいれば、安心して原田さんにも持ってもらえるかも。




『原田さん、御膳、一つ持ってもらってもいいですか?』

「…おう、」




…心なしか、元気がない気がするけど…。気のせい、かな?

小さな疑問を抱えながら、私と原田さんは勝手場を出た、途端に。


ツンッと足に何か引っかかり、前のめりになる。




『あ──』

「っ!?」




転ける。いや、それよりも…
御膳が、飛ぶ─っ…




20101010

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あきゅろす。
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