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慶応元年 閏五月
千鶴が平助と共に巡察に出かけ、非番だった私は仕事をしていて一日中部屋に籠もりっぱなしの土方副長を無理やり休憩に誘い、お茶を啜っていた。ず...と啜る音が聞こえる。
「チッ…こんな事してる暇ねぇんだがな…」
『駄目です。少しでいいから休憩してください。みんな、心配してますよ』
「ったく…」
副長は、なんでそんな頑ななんだよ、と呟きながらまたお茶を啜る。私からすれば、副長の方が頑ななんですけど…と言いたい気持ちはお茶と一緒に飲み込んだ。暫くすると、副長が話し始めた。
「今度、将軍が上洛する」
『将軍様が…?』
「ああ、」
そうだ、と土方副長は頷いた。それから、俺たち新選組が二条城の警護に当たれと会津藩から要請が来た、と言った。その事実に近藤局長も張り切っているという。心なしか副長も嬉しそうに微笑んでいるように見える。
「…俺たちみてぇな浪人集団が警護…か」
ポツリと副長は呟いた。いつも眉間にシワを寄せている顔とは違う穏やかな表情で持っているお茶の水面を見つめている。
私の知らない、今までの経緯…過去を、思い出を、思い出しているのかもしれない。
(…少し、寂しい)
でも、それは当たり前の事だ。私が彼らの過去を知るはずもないし、逆に言うと彼らは私の過去なんて知らないのだから。ただ、今の副長を見る限り、大変な苦労をしてきたのだと思った。
『…今まで副長は、局長を筆頭に新選組の隊士たちを引っ張って、自ら憎まれ役の鬼と呼ばれる存在を買ってでて…頑張ってきたんですね…』
「……お前、」
『…!え、あ、す、すみません…』
でしゃばってしまった。少し驚いたような表情をしている土方副長に見つめられて居辛くなった。その時、玄関から平助と千鶴の声が聞こえ、私は「し、失礼しました」とどもりながら部屋を出た。
「…………。」
(お前が俺の何を知ってんだ…って思われたかな…)
20100727
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