21
紅蓮の炎が全てを包み、轟々と燃え盛る家屋。
家の前には泣き叫ぶ少女がいる。ひたすら泣いていると、突然現れた人間が少女の首を締めた。
一目で分かる。この人間は、少女を殺そうとしているのだ。
少女は足掻いて足掻いて、…最後には。
いつも中途半端な所で終わるこの夢。変若水を服用した山南総長の姿を見てから、ずっと見続けている。起きた時、私は尋常じゃない汗を流して、息を切らしていた。沸々と胸に沸き上がるのは、憎悪。何に対しての憎しみなのかは分からない。だけど、憎くて憎くて…どうしようもない感情に駆られるのだ。
『……なんなの、一体』
私はポツリと呟いた─…。
* * *
西本願寺に屯所を移転してからの三カ月は特に気にするような事件は起こらなかった。…移転の理由は、隊士が増えて生活に困ってしまっているという事。それに…薬を飲んだ隊士、「羅刹」を率いて生きていくという山南総長を隠す為だった。
「山南さん。食事の準備ができました。」
「ああ、雪村君と青山君…ありがとう」
『いえ…』
羅刹化してからの山南総長は日を避けるようになった。薬の副作用だという。今日も、丁度いい日差しで、風が暖かくなりましたねと千鶴が言うと総長は「今の私には、風より陽射しのほうが癇に障りますがね」と言った。それを聞いて、千鶴は寂しそうな顔をした。
影から影へ、陽を避けて移動する山南総長を見て、千鶴は小さく呟いた。
「…あの日の事が夢だと言われれば、納得してしまうね…」
『……そうだね』
「…沙樹、私…」
『……』
「………ううん、やっぱり何でもない…」
『…うん』
目線を落とし、ギュッと拳を握る千鶴の瞳は、不安げに揺れていた。
(あの日、血に狂いかけた山南総長が近くにいる…。)
そんな事実が、千鶴の心に暗い影を落としていたのだった。
20100710
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