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思わず飛び出してしまったけれど、総長は大して驚かなかった。チラリと横目で私を一瞥して、「君ですか」と呟いた。変わらぬ穏やかな表情で。だから私は思った。今、私が制止しても総長は薬を飲んでしまう、と。総長の目は覚悟の色を帯びている。何としてでも止めなければっ…




『き、聞いて下さい総長。確かにあなたは剣客である事は出来なくなりました。ですが、新選組では他に居ない程の論客でもあるんです!』

「…そういえば土方君にも、似たような事を言われましたね…。」

「山南、さん…」




ふわりと優しい笑みを浮かべる山南総長。まだ、駄目だ。総長は赤い小瓶を離さない。私は、後ろにいる千鶴に小さな声で「副長にこの事を伝えて」と言うと千鶴は頷き広間から急いで出て行った。今、部屋には二人きり。土方副長がこちらに来るまで、なんとか総長に薬を飲ませないようにしなければならない。私は必死に言葉を繋げた。




『私は、ここに来てまだ二月程しか経っていませんが、山南総長のお気持ちは察しているつもりです。私も、…剣士ですから。でもやっぱり薬なんてっ…』

「君に何が分かるのですか!君は今剣士だと言いましたね、ならばあなたは剣を握れなくなった事はありますか?腕が動かなくなった事は?…無いでしょう。……この気持ちは、君には分かるはずがない」




いきなり怒鳴り声を上げた総長に怯むと、彼は申し訳なさそうに眉を顰めながらまた和やかな口調に戻った。

確かに、私は腕が使えなくなった事なんてない。どれだけ傷を負っても、腕だけは動いた。それは、他の怪我が治ればまた刀を振ることができるという事だ。それなのに私は、総長の気持ちが分かるなんて簡単に言ってしまった。私はつい、黙り込んでしまった。




『……』

「──…雪村君だけでなく君にまで同情されるとは、新選組総長が聞いて呆れますね…」

『っ!だ、駄目っ…』




私が目を逸らした内に

赤く不気味な液体が




「ぐぅっ…!」




総長の体内を、巡った




20100611

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