Silver wind.01



ここで働き始めたのは、ほんの些細なきっかけというか…自分の趣味からきたものだった。私は、両親なんて嫌い!なんていう周囲の友だちに比べるとかなり家族が好きで、幼い頃は 「頑張れば褒めてくれる」 という喜び、希望の為に勉強もスポーツも何でもこなしてきた。…皆が思うほど自分は真面目じゃないし、本心は遊びたくてたまらなかったのだけど。でも、両親は私の頑張りが当たり前だ、と捉えていたみたいで次第に私の頑張りに対して目も向けてもらえなくて、今までのソレが無意味だと気付いた。
随分前のこと、だけど。

それから、元々好きだった娯楽にのめり込んで、時間があればインターネット、ゲーム、漫画。学業をサボった憶えはないのだけど、自分が熱中するものは呑みこみが速いもので、いつしかゲームを、自分の思うまま作ってみたいという大きな目標へと発展し、ゲームグラフィックデザイナーの職に就いていた。寝不足も続くし大変なんだけど、苦に感じないのはやっぱりキャラクター、ゲームへの愛なのだと思う。最近は、キャラクターなんていうひと括りでその登場人物を表す事ができないほどの重症になっているのを自覚している。二次元でなくて、リアルに会いたいと思う。末期だ、知ってる。


「由恵ちゃん、メニュー画面の方のデザインはどう?」
「…あ、如月さん!えっと一応レイアウトはこんな感じなんですけど、如何ですか、私の神羅的なイメージでまだアバウトですが」
「そうだねえ、確かに神羅っぽいしいいと思うよ」


如月さんは、私の先輩の人です。如月、なんてユフィと同じ名字でいいなあ…と羨望の視線をこっそり送っている、そんな先輩に認められるのは私にとっては素直に嬉しいこと。昔から本当に好きな作品 FINALFANTASY 7 の過去の話をテーマにしたゲームの製作に今回私は関わっている。夢のように幸せなことで、FFソフトの製作に携わる事が私の最大の目標だったから気合の入り方から違うんだ。
タイトルは CRISISCORE-FINALFANTASYZ- まだ完成度は半分くらいだけど、完成したら発売日よりも先に手に入れて誰よりも早くクリアするつもり。そのためには期限までに私が担当しているデータを完成させて、とにかく発売予定日までの日を長く空けたいと思っている。FFのためなら残業だって惜しくない、給料のためじゃなくて好きな物のために。きっとそういう気持ちで製作に取り掛かっている人もいると思う。


「っていうか時間も時間だし今日はもう終わりにした方がいいんじゃない?あたしは今日残らなきゃいけないけど由恵ちゃん、このところ頑張り過ぎだと思うし…」
「あっ、当たり前です!一番にゲームしたいんですもん!」
「あっははははッ!そっか、そうだったね。それじゃあゲーム完成する前に体調崩さないように由恵ちゃんは帰りなさい」
「え…、あの」
「 ね ? 」


先輩にあたる如月さんの半ば命令な発言にはNOとも言えないので、お言葉に甘えて帰宅の準備を始めた。あの笑みには逆らっちゃいけないとさらに上司の方に言われていたりもした。馬鹿みたいだと嗤われるかもしれないけどゲームをしたり、それに携わったりすることは私の生きがいといっても過言じゃなくて。だからこのビルから出たその瞬間に私の瞳に映る世界は急激に色褪せて、緩く笑んでいた表情も色を無くしてしまう。どこまで私はこの世界に飽きているのだろうと自嘲してしまうくらい。つまらない、淋しい人だと思われているかもしれないし寧ろ自分でもそうだと思っているけど、二次元世界なしの自分は有り得ないとそれも自分で自覚している。だから、会社と自宅を繋ぐ道を歩くのが嫌だ、早く家に帰りたい。嫌になるほどの人ごみを掻き分けるように早歩きで進む。こういうときの自分の足の速さに驚嘆する。…自分凄くないか。

… と、急にどこかから腕を掴まれた。強くてぎしりと重くて …離せない。


「な、なに、何なのこれ」


あまりに強いソレの握力、腕の骨が軋む音がやけに響いて。身体中に広がる痛みと恐怖に思わず目を瞑ってしまった。ぜんぶぜんぶ、それがいけなかったのかもしれない。ふ、といきなり緩んだ力に安堵した私はゆっくりと目を開いた。夜なのになんで明るいのだろうと思ったその瞬間、 なにも な い、真白な世界が360度覆っていた。塵ひとつない輝きが再び私の不安を煽った。夢でも見ているのかなー、なんて考えたけど腕に残っている痛みが現実を物語っていて。 「 お い で 」 よく聴こえたのにそれは声じゃないみたいで耳から聴き取ったわけではなかった。かわりに直接頭に囁かれるような言葉。こんなの初めてなのに何か知っているぬくもりを感じた。誰かの手が私の目の上に当てられて目を瞑れと促されていた。相変わらず周囲は真白で手といっても、姿形はない。でも、それに私は抗うことなく眠った。この優しさは彼だ、と身体が訴えていた



Silver wind.01
(包むように吹いた風は確かに銀色だった)

200812








あきゅろす。
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