鼓動高鳴る笑顔




今日も私は、馬超様付きの女官として忙しなく城内を走り回っていた。竹簡を処理する早さがとても遅いので期限ぎりぎりになって届けて来いと言われ、走らなければいけないのだ。
馬超様は、戦の時とは比べ物にならないほど、普段の女癖が悪い。だから、それに耐えれるような、且つ、彼に媚びない様な女官がいいと、馬岱様から推薦してもらったのだ。元々、友人として仲が良かったと言うのもあるのだけれど。


「篠乃!ねぇね、馬超様の様子どうだった?」
「どうって…すごい眠そうだったけど…」
「やーん、欠伸してる馬超様って絶対素敵よね!」
「「ねー!!」」
「…はいはい」


途中で引き止められたのは同じ女官のお友だち。馬超様に限らず蜀の武将様は顔立ちが端整で人気がある。だからこそ、その人気武将様の中の一人である馬超様付きの女官の私から情報を得ようと色々質問攻めをしてくるのだ。
忙しいんだけどな…。振り切ろうにもがっしりと腕を掴まれた私は身動きがとれず、結局満足のいくまでその輪の中に閉じ込められてしまった。


「………そろそろ行く、ね!早く行かないと諸葛亮様にも怒られるのよ…っ!」
「あ、そっか…うん、じゃあまたね〜」


馬超様よりも、実は、諸葛亮様のほうが怖い。なぜって、じりじりと人の精神を追い詰めるような恐怖があるからだ。底知れない黒さを持っていて、いや、あれに打ち勝てる人がこの世にいるかもわからない。
さあ急げ私。急げ急げ。
しばらくして、漸く目的の部屋へ繋がる曲がり角へさしかかった。


「ああもう、これで怒られたらどうしよ…」


――ドンッ!!…お決まりなのかな、これ。結構な衝撃を受けました。


「ご、ごめんなさ…い…」
「いえ、こちらこそ…大丈夫ですか?」
「私は大丈夫です!それより、本当にごめんなさい!えっと、姜維様、ですよね」


ついこの間、天水から蜀に来たお方だと馬超様から聞いた。なんでも諸葛亮様の弟子になられたとか。実際見るのは初めてだったりする。ていうか…綺麗……。
そもそも、武将様が女官に気を遣ってくれると言うところで嬉しかったりもする。私は武将付きだからそれなりに身分は高いけれど、でも私たちは武将様のために城で働いているのだから小さなことでも私たち女官の方が謝るべき立場になる。蜀の武将様は優しい方が多い。だからこういうのは当たり前かもしれないけど、でも、なんかやっぱり嬉しいものは嬉しいのだ。それに諸葛亮様の弟子の方がこんな素直そうな人なんて…!!ちょっと感激していた。


「…あの、そういえば、こちらは丞相の執務室しかありませんが、丞相に御用ですか?」
「はい。馬超様付きの者ですが、諸葛亮様に竹簡を届けにきました…」
「そうでしたか。では、一緒に行きましょうか」


断るのも惜しくて、言われるままに二人で諸葛亮様の部屋へ入った。怒られること覚悟だったのだけど、姜維様のおかげなのか、すんなりと帰らせてもらえた。やっぱり常時笑顔を浮かべていた諸葛亮様、こわ…っ。そういえば、姜維様って何か用があったんじゃないのかな。不思議に思って聞いてみた。


「あぁ……私、ここに来て間もなくて、ずっと丞相の部屋に篭りっきりだったんです。だから昼食を摂ろうにも場所がわからなくてどうしようかと少し出歩いていただけなんです。なかなか声を掛ける機会もなかったので…」
「…そう、ですか…。あっ!わ、私でよければ案内しましょうか?図々しい…かもしれませんが」
「本当ですか!是非、お願いします!ぶつかったのが貴女でよかった……それでは、早速行きましょうか…?」
「!……そ、うです、ね!」


そんなに喜ぶことでもないと思ったりもした。けれど、魏からこちらに来た彼はきっと心細かったんだろうなと思う。聞けば姜維様はまだ十九歳と言っているし。でも、なんだろう、比べたいわけじゃないけど、馬超様のところにいるせいか姜維様が信じられないほど誠実な人に見えて仕様が無い。もう、溜まっていた疲れが吹き飛んでいくみたい。


「あの…お名前、伺っても良いですか?」
「えっと、私、篠乃って言います」


きゅっ、と手を握って微笑んでくれた姜維様の笑顔。とくん、と心臓が高鳴ったのがわかった。





(鼓動高鳴る笑顔:1)

やっぱりセクハラキャラになってしまう馬超さん(!)きょいには是非とも嫁になってもらいたいものでs←
20080613








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