発展途上キャンバス5




ここに来たいって、子龍様に会いたいって願った。
だから、帰りたくない、子龍様と一緒にいたい。
そう願えば…。



発展途上キャンバス*





私、考えてみると趙雲とこうしてデートしてる間、夢主になりきってるなんてこと全くなかった。勿論恥ずかしかったり照れたりしてはいたけど、それでも自然体だったと思う。それなのに彼は私に疑いをもつような素振りを見せなかった。趙雲って確かに戦と言う場面でないときは少し鈍そうな印象はあるけど…。


「あのさ、私見て変だなあって思うところある?」
「篠乃を、か。朝起きて目覚めの口付けをしてくれなかっ」
「違う違う違うーっ!そうじゃなくって、ほら、いつもと行動のしかたが違うとか、違和感があるとか…」
「………少し、落ち着いた所で話すほうがいいか」


急に話を遮って、人気のないような場所を探しながら歩く趙雲。顔をちらりと覗いた限り、怒っているわけではなさそうだけど…真面目な話だと察してくれたのだろうか。ちょっとした心遣いがホッと嬉しくさせてくれた。




****




しばらく歩くと商店街から離れた場所にある小さな丘に辿り着いた。そこで腰を下ろすと、趙雲は少し考えてからポツリと声を零した。彼は、やっぱりと言うか私の行動を不思議に思っていたらしい。それをはっきりと疑問に思わないのは、趙雲らしいけれど。

まず、私を抱きかかえた時のこと(え、ちょ…)。夢主は寝相が悪い、とまではいかないものの、眠っているのに少し抵抗するのだという。それが無かった、のがまず最初に??となった場面らしい。
それから、朝。夢主って実はよく食べる子だと趙雲は言う。…食べる癖にこの体系ってすごい罪、ずるい。うらやましい。
そして、夢主はほしいものがあっても多少遠慮はするけど、先程の私のように全力で拒否するような感じではないらしい。

そんな性格があったなんて、このストーリーを作っていた私でさえ知らない。やっぱり面倒な部分は省いたりしてたし、多少書かなったとしても小説に影響はないし…。でも小説なのにこうして時間が流れているって、考えてみるとなんか不思議だよなぁって思う。


「…でも何故このようなことを?」
「あの、ね、私って実は…『 本当の篠乃じゃないって…言いたいのかな 』わかってたの!?」
「いや、なんとなくだな」


もう半分かまをかけられた、と言うか。でも、言おうか言わないでおこうか、迷っていたときだったので確信を突かれて動揺してしまった。言った趙雲の表情は悲しげでもなく、かと言って殺気立ってもいない。


「おこらな、いの?」
「うーん…私もよくわからない。貴女は篠乃ではない筈なのに、私には篠乃といるように感じる。双子、家族、そういう問題ではなくて本当に同じ人物としか思えない」
「そ、っか」
「貴女も篠乃も同じ雰囲気や香りが伝わってきて、違うけど、同じ存在……うまく言えないが、貴女も篠乃で篠乃も貴女だと…こう感じるのはいけないことだろうか」


まぁ確かに私が夢主の親だしそれもそうなんだけど。趙雲はきっと何を言っても受け入れてくれると思って、大まかにだけどここに来た理由とか、話してみることにした。


「………なるほど。未来、か。そして私たちを元に書物のようなものを作ろうとしていたのだが、話の続きが思い浮かばず悩んでいたら…ここに来た、と」
「うん。…子龍に会ってみたいなって思ってたし」
「なんだか貴女が本当の篠乃の姿、みたいな感じだな」
「変なの!私、本当の篠乃ちゃんじゃないのに」


ここに来た理由は、ただスランプで小説のネタが浮かばなくてどうしようって、どうにかならないかなっていうものだったのに。もう、なんか帰りたくない。会って間もないのに、キャラクターとしてとても好きだった趙雲が、一人の男性として、こんなに想い慕ってしまっていた。私の住む世界は本来、ここではないけど、でも、このままここにいたい。寧ろ、私の本当にいるべき世界はここだったりしないかなって思いたい。趙雲に「帰りたいか?元の世界に」そう問われても頷ける訳、ないでしょう。ずっといたい、の一言で口を閉じた。


「貴女が好きだ、篠乃。帰らないで…くれ」
「だいじょうぶ、ここにいたいってお願いすればきっと、ずっと、いる」





(ここから先の物語は、私ですらもう、わからない)
5:20080528








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