雨のち、晴れ



私は、凌統付きの女官。今日も凌統がこなした仕事の報告書を孫堅様の所へ持っていくために廊下を早足で進んでいる。ふと、窓の外を見ると、凌統が見知らぬ女性と楽しそうに話していた。いつもの光景なはずなのに足を止めてしまう。凌統は身分関係なく多数の女性と関係を持っているのだ。それは私が凌統に四六時中付いているからだと思う、けど…。しばらく様子を覗いていたら、軽い接吻を交わしているところが目に入った。あんなもの、彼にとっては挨拶同然なのに…。私だってあの関係を持っている女の一人でしかないのだろうか。凌統のことは信じてるけど、「凌統の彼女」という言葉に不安を感じることがとても多い。

今は、そんなこと考えてる場合じゃない、そう言い聞かせて逃げるようにその場を去った。


「…ただいまー、」
「ああ、お帰り。少し遅かったんじゃない?」
「別に」
「ふーん。………さっき、俺のこと見てたんでしょ。知ってるよ」
「、っ!」


執務室に戻ると、待ち構えていた凌統。いるのは当然だけど、あの光景を見ただけに顔を合わせたくなかったのに。しかも行き成り痛いところを突いてくる。…彼はそういうのが得意だ。ズキリ、と胸が軋んだ。すると、凌統はこちらへと歩を進めて、私の顎へその長い指を添えてクイ、と私の顔を上に向けるように動かした。目、あわせたく、ない…。


「なんでそんな悲しそうな表情するワケ?可愛い顔、台無しだよ」
「…それ、何人の女性に言ったの」
「うーん……多分、みんな」
「そ、う」
「でもさ、それって可愛い顔してりゃ皆に言える事でしょ。篠乃が落ち込む事じゃあない」


凌統は、私には全部隠さずに言ってしまう。それを聞けば自分が傷つくの知っていて私は聞いてしまう。私を遊んでいるだけなのだろうか。以前、私が仕事をしている時に偶然耳に入ったことだけど、とある女性が「凌統は、どれだけの女性と付き合ってきたのか」と言った感じの質問を彼にした。そしたら、凌統は「君以外と付き合った事は無い」なんて、バレバレの嘘を吐いていた。私は、そんな嘘ですらついてくれない。


「だ か ら さあ、落ち込む事じゃないって言ってるだろ?」
「でも…、…!」


それ以上、弁解をさせてくれなかった。凌統は穏やかな雰囲気を纏っているけど、口付けをする時、物凄く激しいものをする。本当に酸欠で倒れそうになる。いつも、舌を深くまで絡ませて。必死に凌統の胸板を叩いて、離せと口の代わりに訴える。


「…っ、はぁ、…は、あ……」
「あのね、こういうの篠乃にしかした事無いの、知ってる?」
「信じられない、」
「ま、いいや。後はね、出掛けたときとか、俺から何か買ってあげるのってアンタだけ。愛してるって言った事あるのもアンタだけだよ。聞いたことあるんじゃない?」
「それ、は、…うん」
「だからさあ、あんまり疑わないでよ。本気で悲しくなってくるから」
「うん」


確かに前、女官たちの話を聞いたとき、愛してるって言って欲しい、なんてずっとそんな話を繰り返していたのを覚えている。だから、彼の言っている事はやっぱり本当なのだろう。信じる、そういえば凌統はいい子だね、と頭を撫でてくれた。ようやく、心の陰りが消えた。




20081226





第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!