乙女心の空模様



放課後の生徒会室。私は役員ではないんだけど、とある理由で出入りを許可されてる生徒なわけで。その理由の共犯者的な位置にいるのが隣でせっせと資料作りに努めている佐介です。その佐介は、共犯者のくせに入ってくるな!公私混同は駄目だ!と言う。だから許可をくれたのは安形さん。


「佐介ー」
「後にしろ」
「結婚しようよー」
「お、名前ちゃん大胆発言!」
「僕は忙しいんだ!」
「だってよ」
「安形さん、酷いと思いませんか?」
「思う思う」
「会長!名前と喋ってる暇があるなら手伝ってください!」


仕事熱心なのはいいんだけど、あまり構ってくれない我が彼氏。どうやって付き合ったのか…は覚えてるけど、不思議なくらいだ。寧ろ普段のノリの良さだけなら安形さんの方が好きなんだよね、普段なら。


「椿、こーんな可愛い彼女放っておいちゃだめだろ?」
「……そんな可愛くはないですが彼女が五月蝿いから早く終わらせようとしてるんですよ」
「う、うわ、佐介それ、なに、少しは可愛いって言ってるの?それとも大したことねーやつだって言いたいの?す、すごい…自信無くなってきたんだけど」
「名前ちゃん、泣くな!」
「いいです。もう、グレてスケット団に入ってやるんだから。藤崎君に泣きついてやるんだから!」


佐介の肩がびくりと大きく動いた。藤崎、っていう名に過敏反応するのは知ってる。少しそれを狙った。だって、見向きもしてくれないんだもの。決して本心じゃない。色々言いつつもやっぱり佐介が好きで、嫌いだったら生徒会室に来たりはしないだろうし。
なんて考えていると、がしっ、と両肩を掴まれた。睨まれた。


「そっちは駄目だ!天地が引っ繰り返っても許さない!」
「…わ、わかったわよ」
「フン」


また作業に戻ってしまった。つまらない。


「じゃあ、そっちが駄目ならこっちにしよう」
「こっちって?」
「私、安形さんと結婚する!!!!!!!」
「ブッ!」
「かっかっか、いーぜ、さっさと式の準備始めるか」
「そうですね!」


安形さんが案外乗ってくれて、私も楽しくなってきた。密かに鞄に滑り込ませてあったブライダルの雑誌。まあ佐介をからかうネタになるかな、っていうのと単純に見るのが好きだっていう理由で持ってきたんだけど、ここで役に立つとは思わなかった。


「安形さんは和洋どっちがいいですか」
「あー、そりゃ断然和風だな」
「やっぱり!そんな感じしますもん」
「だろ?」
「でも私、ウエディングドレスも着たいです」
「じゃあお色直しで何回か着るか!」
「あ、それで!」
「……グスッ」


変な啜る音が聞こえ、そしてその直後、どこかにポタ、と水が落ちるような音が耳に入った。まさか酷い鼻風邪で鼻水が床まで垂れたなんてことはないだろうし、そもそも風邪引いたっていう話今日は一度も聞いてない。もしかして…と安形さんと顔を見合わせた後、佐介の方へ視線を向けた。


「う、…ぅ…っひぐ」
「椿いい!?」
「ぐずっ、会長…僕と名前が別れればいいんですよね?」
「じ、冗談だから泣くな!男前が台無しだぞ!」
「そうよ!結婚なんて嘘だから、ね!」
「…う、ぅう…」


本気にしてしまうとは。いつも冷たいくらいで、私は寂しい思いをすることもあるから、こういう時ぐらい仕返ししたかったのに、なんだか私が悪いことしたような気持ちになってしまう。
佐介の泣き顔可愛いんだもんなあ…。


「落ち着いた?」
「…」
「あの、ごめんね」
「いや僕も悪いから気にするな。女心を一つ学んだ気がする」
「本当?もうぞんざいにしない?」
「善処、す、る」


顔が赤い佐介は、絶対私なんかより可愛い。思わずぎゅっと抱き締めてしまった。が、思いっきり抵抗され、所々殴られてしまうはめに。
まだまだ、ぞんざいだと思います。





椿可愛いですね、すごく可愛い。
20090622




 


あきゅろす。
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