ブースターの充電器


この頃、渋谷家にお世話になりっぱなしだったりする。勿論自宅に戻る事はあるけれど、学校帰りは勝利に渋谷家に強制連行させられるし。それに、美子さんが、

「女の子が一人暮らしなんて危ないじゃないの!それに、賑やかな方が楽しいでしょう?いっそのこと早くしょーちゃんのお嫁さんになってこっちに住んじゃいなさい!」

…と、どうにも反抗する気が失せる素敵な笑顔で言われてしまえば、恥ずかしいけど頷くしかないし、隣にいた勝利も何か考え事をしながら、頷いていた。何を考えていたのかは知りたくないけど。迷惑をかけてばかりでいるのが私は嫌なので、美子さんの手伝いをしたりしていると、それはそれで楽しい。美子さんはお友だちの様に接してくれるし、それに勝利のお母さんでもあるから、ずっと母親がいなかった私には新鮮であり且つ、懐かしい気分になれる。


「なあ、お前がそれ着てくれるのは嬉しいのだ、が…。ずっと嫌だと言っていなかったか?」
「言ってたよ。っていうか今も嬉しくないけどね、大人しくこれ…メイド服を着ないと後々どんな仕置きされるかわからないよ?って言われたの」
「い、一応!聞くが…誰だ」
「…健ちゃん」


顔色なんて見なくても大体わかるけれど、それでも勝利を見上げると眉間に皺を寄せて不機嫌そうにこちらを見ていた。なんとなくわかっていたけど勝利と健ちゃんはあまり仲が良くない。性格が合わないみたいで。というか勝利が健ちゃんを嫌悪しているように見える。勝利だったら主従関係とか好きそうだと思うんだけどなあ…、過去の私と大賢者様はそんな大した主従ではなかったけれど、上下関係はんたーいみたいな人なのかな。


「凛央は、俺から見たら誰かの下に就くようなキャラに見えないし、そもそもお前が仕えていたのは今の有利の友だちではなく、四千年前の異世界の大賢者だろ?魂は同じだとしても何故そんなにあいつに仕えるんだ。今は、俺の凛央だろ」
「…うん。もしかして勝利ってば拗ねてるの?」
「う、うるさい!お前にコスプレ着せるのも脱がせるのも俺だ!後は認めん!」
「ちょっとっ!それは自分でやるわよ!…あのね、」


四千年前の話。
大賢者様は眞王様と並んで立っている事が多かったのも手伝ったのか、双黒と淑やかな顔立ち、御召しになっていた漆黒の服が、元々男性の中ではほっそりとした体格の大賢者様をより一層儚げに形作っていた。とは言っても勿論、見た目どおり弱々しいかといえばそうではなく、尊敬するほどの頭脳や厳しくも優しい眞王様へのお言葉。
でも、プライベートの時間でも大賢者様に付き添っていた私だからわかるけれど、自分の部屋に戻られるとかなり疲れている様子が多々見られた。そこで、魔力を持っていた私が少しでも大賢者様の疲れを癒してあげられないかと、己のソレを彼に分け与える訓練を始めた。


「で、凛央は大賢者様の体力充電係になったわけか」
「…充電っていうほど楽にしてあげられていたかはわからないけど」


しかも大賢者様は体力がないのを自覚しているのに、私は眞王の魔力ブースターですから、なんて言って事あるたびに眞王様の力に自分の魔力を注いでなんていう、無理ばかりしていた。無茶ばかりするから、私もどんどん大賢者様の私生活への指摘をするようになったのだけど。心配だったからだ。
小さな戦争があるたびに、眞王様と一緒に向かう大賢者様は必ず眞王様に無理をさせないようにと、自分が無理して魔力を分け与えるので、せめて表では皆の士気を下げぬように私が彼に魔力を分けて倒れないように支えなくてはいけない。でも、その時代の双黒といえばあまり良いものと思われていなかったから、お互い双黒の身だった私たちは変な絆みたいなのができていて、大賢者様の役に立てる事は自分にとっての一番の喜びでもあった。


「でも、お前等は恋仲ではなかったんだよな、な!?」
「あのねえ、必ずしも仲が良ければ恋人なのかっていう考えはやめたほうがいいと思うわ」
「……すまん」
「続けるよ」


私は彼以外に頼れる人は、あと眞王様ぐらいだし、彼らには絶対的な信頼と忠誠を誓っていた。当時はまだ創主との戦いの起こる前だったから眞王様だって凄く偉いという訳でもなかったから私なんかを大賢者様と同じように扱ってくれたし、皆仲が良かったと思う。
だからこそ、私だってできる限り役に立ちたかったのに肝心な創主との戦い、その時に二人は私のことを置いていった。何故かはわかる、邪魔なのではなくきっと心配してくれてたのだ。頭では理解しているのだけど、やっぱり一緒に戦いたかった。
だから、こうしてまた再会ができた大賢者様、今度こそ彼の役に立ちたいと思った。


「成る程な、まあそれと有利の友だちのお願いを聞くのは別だと思うがな」
「そうかな…」
「きっと大賢者は、凛央にそんな風に考えて欲しくないと思う。それに、今のあいつは大賢者の記憶を持っていても、村田健なんだぞ。あんまり気を遣わなくていいんじゃないか?」
「う、うん」


なんとなく、しんみりした雰囲気になり何を言うべきか困っていた時、丁度どこかに出掛けていた美子さんが戻ってきた。


「まあ…!しょーちゃんと凛央ちゃんが並ぶとやっぱり夫婦に見えるわね。そうなると凛央ちゃんはメイド服じゃなくてエプロンの方が似合うわね!」
「お袋、それならピンクのフリフリで頼む」
「はいはい、持ってくるわ!」
「そっちも嫌だな…」


勝利を睨んでもあんまり効かないのはわかっているけど、それでも三次元の女にそんなファンシーなエプロン着せても可愛くなんてないとか言ってた癖に、何人に着せようとしてるんですか、と目で語ってみた。


「ハハハ、お前には似合うから自信持って着ろ!」
「…しょーりぃー」
「とにかくさ、今は今。お前は俺の愛しき三次元彼女なんだぞ。あんまり大賢者大賢者言うなよ、忘れろとは言わないから。そうじゃないと、」


…ちゅ、
と、言うリップノイズを上手に響かせて気付いた時には勝利の唇が自分のものと重なっていた。こいつは何故、恋愛は二次元主義者だったのにキスが巧いのだろう。


「凛央の口塞ぎます」
「…わかりました」



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全ては私の願望です
20090401




 


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