交わされる黒と黒の瞳



有利の部屋で現在、お勉強会が開かれている。今日は私が先生となって有利にとりあえず眞魔国の基本的な事を頭に叩き込むのがメインだ。私は四千年前のあの時以来眞魔国には殆ど戻ってないから、歴史はギュンターにお任せするけれど、そのほかの事は是非私に、と魔王陛下直々に"おねだり"されたので断るわけにもいかず、付き合っている。


「じゃ、眞魔国の正式名を言ってみて」
「えーっとー……、い、偉大なる眞王とその…民たる魔族に、さ…さか、栄えあれ…?」
「疑問系にしないで!でもそこまでは合ってる」
「…その先が覚えらんない」
「ああ、世界のすべては我等魔族から始まったのだということを忘れてはならない。ここまでは覚えやすいと思うけどね」
「よ、よし」


頭に入れるには、日本語で書いたほうが絶対要領がいいはず。きっと有利には読めないだろう字にはしっかりふりがなも書いて、ここ数十分はこのことしか勉強していない。まあ…ギュンターの教え方は無駄に眞王陛下への愛を叫んだりとにかく無駄が多い。有利は飽きるに決まっているでしょうに。
私を教師に選んだのが何故なのかと、今更ながらに考えてみた。大体、教えるなら私よりも健ちゃんの方がいいと思う。頭は彼の方が格段によろしい。コンラッドは、有利がなかなか理解できなくても、丁寧に親身になって教えてくれると思うし、あとは…あと、は…グウェンなら要点だけをわかりやすくまとめて教えてくれる気もするし。


「…うん、私じゃなくてもいいんじゃないの?教えるの」
「え!?なんでー?俺は凛央がいいよ」
「そ、…そう、なの?」
「うん!声もさ、俺聞いててすっげえ心地良いし、なんていうのかな…上手く言えないけどやっぱり凛央だから、かな」


馬鹿!と照れを隠そうと有利の肩を叩くと、肩は野球選手にとって命と等しく大事なんだぞ!と彼も彼でまた顔を赤くしてあからさまに照れていた。なんだかな…、有利の一言は直球過ぎていつも平静を保っていられない。健ちゃんが有利を気に入ったという理由が改めてよくわかる。大賢者様さすがでございます…ッ!


「じゃ、じゃあ、聞くけど…、私以外の人って考えられる?」
「はあ?なんつーこと聞くんだよ…!」
「だって有利って臣下の殿方にモテモテだし、私だって女として少しは不安になるし…、」
「いや、それは無い、断じて。ギュンターは汁撒き散らして大惨事になるし、コンラッドに勉強教わってもなあ…、俺、絶対に野球したくなるし。ヴォルフラムに至っては…なんか、勉強にならない気がするし」
「じゃあ健ちゃんは?」
「もっと無理!絶対俺の事いじめて遊ぶし!」


私もよく、優しそうな見かけとは真逆の、いや寧ろ見た目カラー通り真っ黒な性格の大賢者様にいじめられました。そして眞王様にもいじめられました。懐かしくてなんだか…泣けてきた…。
と、ふいに適当に宙を彷徨わせていた視線が強制的に有利の方へと向かせられた。頬を包むように有利の両手が添えられていた。こういうときの有利は、たとえ此処が日本でもやっぱり格好いいなあ…なんて思う。私がギュンターと同属じゃなくて良かったと心底安心しました。


「凛央の瞳ってさ、綺麗だよな」
「そう?有利と色は同じだけど」
「俺なんかより、もっと澄んでるっていうのかな。とにかく綺麗」
「瞳の綺麗さなら健ちゃんには敵わないよ」
「…お前、さっきからっていうか一々村田の名前を出すよな。そんなに好きなのか?」
「そりゃ、好き、だけど」


刹那、包まれていた手の片方が私の後頭部に当てられぐいっと、体ごと有利の方へ引かれた。気付いた時には唇に柔らかい感触があった。こういうとき、目を開けてはいけないと誰かから聞いた記憶があったけど、そんなの気にしてる暇がなかった。驚きに目を思い切り開くと男の人にしては大きな目と視線が交わった。


「……俺だって、嫉妬すんだかんな」
「う、うん」
「わかればそれでよし」


そこで頷いて見せると満足そうに視線を机に戻して、ぶつぶつと文章を繰り返し読んでいた。こういうところ、好きだなあー…。




20090330




 


あきゅろす。
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