兄弟、でもそれ以前に


有利に思いっ切り懐いた凛央に嫉妬心丸出しで、俺は兄としての余裕が全く無くなり、今振り返るととても有利には情けない姿を見せていた様にも思えた。
当初からの予定で凛央に我が家の夕食をご馳走することになり、ご馳走するという事イコール親に凛央を紹介するという事になる。予想通り、というか、本当に予想通りお袋は凛央を褒めちぎり、激しく可愛がっていた。その内着せ替え人形にされるんだろうなと、少し苦笑してしまった。凛央は客であるから、当然の如く今夜の夕食はカレー。凛央も美味しいとテンポ良く口に運んでいた。お袋は食わせすぎ。何事も限度があるんだぞ、限度が。


「美子さんって凄い人なのね」
「まあ、お袋は女の子供が欲しかったとかずっと言ってたからな」
「なんかお母さん!っていうパワーを貰った感じがする」
「はは…、凛央の家のお袋さんは違うのか?」
「…一人暮らしって、言ったでしょう?両親、いなかったから」


あまり言いたくない事なのかもしれない。だから深くは聞かない事にしておきたいが、それでも溜め込まずに俺にぐらいは話して欲しいと思う。すぐにでなくてもいいから。頭を撫でてやると、嫌がる素振りは見せず、ただ小さくありがとうと言う言葉が聞こえた。


「ああ、そうだ。お袋が言ってたんだがな、今日泊まってけって」
「…え…!?」
「別にいきなり家に来て変な事するわけじゃないから、安心しろ。俺は別な部屋で寝ればいいし」
「ううん…そうじゃないんだけど、いいの?」
「俺は構わないよ」


この時間に一人で外歩かせるのは危険だし、どうせ一人暮らしなのなら家に帰らなくても大丈夫だろうと言ったのだ、お袋が。俺は、初めて彼氏の家に来た女が泊まっていくのってどうなんだと思ったんだが。
風呂の場所を教えて、お袋から着替え等受け取るように言ってから自室のベッドで寝転がっていた。なんだか落ち着かない。家に来たのが初めてというわけじゃないが、親と顔を合わせたのは今日が初めて。しかもなんか、あっさり親は俺たちの関係を認めてくれているし、何より同じ屋根の下で一晩過ごすと言うのが俺にとっては物凄くドキドキするのだ。ゲームじゃよくあるシチュエーションでも、それが実際に起こるのは初めて。何もしないと言ったものの、なんだか色々と変な想像をしてしまって、俺自身が気持ち悪い。


「…勝利」
「げっ!ゆ、ゆーちゃん…いつからいたんだ」
「さっきから」
「すまん、気付かなかった」
「だろうな。勝利、なんか今頃になって思春期真っ只中の男子中学生みたいな事してるし」
「わ、悪いか!」
「いや…もう、なんでもない」


あまりにも初々しくて、なんだか生暖かい気持ちになるよ。そう言われて、俺は思いっきり顔を赤くした。とりあえず謝りたい気分で、ベッドの上で正座をして頭を下げた。黙って俺の気持ちを察してくれ。
しばらくして、凛央が風呂から上がり戻ってきた。替わって今度は俺がシャワーを浴びる事になる。自分が有利に凛央の相手を頼んでおいておきながら、戻ってくる頃には親密な関係になっちゃいました、みたいな展開になったらどうしよう、と落ち着いて湯船にも浸かっていられなかった。冷静になるつもりで向かった風呂は逆効果だった。


「あ、お帰り、勝利」
「ああ。ゆーちゃん、ありがとな、お前はあと部屋に戻れ」
「はいよ。じゃあ、凛央さん、おやすみなさい」
「うん、楽しかったよ!」
「俺もです」


…やっぱり仲良くなっていた。駄目だ、俺の弟で、二人が恋仲じゃないのはわかっている、わかっているがそれでも感情が抑えられない。


「…有利と何話してたんだ?」
「大した話じゃないわよ」
「ちゃんと教えて」
「恥ずかしいんだってば」


言った凛央は顔を赤くして俯いた。何の話をしていたのかわからない俺は、当然の如くよからぬ想像をしてしまい、一瞬、理性がぶつりと切れて無意識の内に凛央を己の腕の中に閉じ込めていた。すまん、こんなことするつもりで家に呼んだんじゃないんだぞ。


「あの、勝利…?」
「ちゃんと、話してくれ。俺、本当独占欲強くてさ、弟の有利にすらこんなんだ」
「…でも有利君可愛いもんなあ。仲良くするなって言われたら頷けないけど、でも勝利と有利君の好きは別物だし、有利君に浮気するっていう気持ちは無いから、それはきっぱり言っておくわ」
「ああ」


そういいつつもきっと、有利にはこれからも嫉妬する日々が続きそうだが。善処はする。と、凛央が早々と俺のベッドに潜り込んだ。そんなに疲れていたのだろうか。


「もう寝るのか?」
「違うけど、ほら、勝利も入って!今日は、一緒に寝よう」


俺、涙が出てきましたよ。


「変な事したらゆーちゃん呼んで抱き枕にするからね」
「…了解」
「よし。あ、そういえば明日学校休みよね、欲しいゲームがあるから一緒に見に行こうよ」
「わかった。俺も気になるタイトルがある」


とりあえず、俺は理性を保たせる為に俺はしばらく必死になることになる。有利に凛央をやるわけにはいかない、あいつだって年下でも男だ。だから我慢だ、我慢しきれ、俺。



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有利の方が大人の余裕があるようです。ほら、ある程度免疫があるから。
20090326




 


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