出来ないと要らない、の違い


どーも、俺、渋谷有利原宿ふ……いやいやいや、ただの有利。眞魔国で魔王として頑張ってはいるけど、地球では普通の高校生で、ちゃんとテストだって受けなくちゃいけない。とは言っても、あっちじゃグウェンダルが執務を怠るな!と鬼の形相で迫ってくるものだからテスト勉強がなかなか出来ず、とても、いやかなり不安なのです。村田に教えてもらえばいいんだろうけど、頼んだら笑顔でお断りされた。

「テスト勉強まで僕に頼るのは魔王として喜べたものじゃないよ」

地球ではただの村田健って言ったのはどこのどいつだよ!?単に面倒なだけなんだよな、俺それがわからないほど鈍くはない。そういうわけで、仕方なく勝利に教わる事にした。あんな兄貴でも頭はいいし、地球の魔王だし。今日は俺より勝利の方が早く学校が終わったみたいで、玄関開けると勝利の靴があった。それから、隣にお袋のではない黒の底が厚めな靴がある。誰だろう。


「勝利ー、しょーりー?」
「……だからさ、」
「意味解らないわ!」

「…ん?」


勝利の部屋へ行こうと階段を上がるとその目的の部屋から、本人と別な声も交じって聞こえてきた。女の子だよな、多分。いや、女の子って…今まで勝利が家に女の子連れてきた事なんてないしあれか、ギャルゲーのキャラクターが喋ってんのか。そうだよな、うん、絶対そうだ。なんて、自分に言い聞かせてから何故か深呼吸をしたくなり、扉の前で数度それを繰り返した。ゆっくりとドアノブに手を掛けてドアを引くと。

なんと、ゲームの中の女の子ではなく、勝利のベッドの上に、本物の女の子がいたのです。仰向けになっている女の子の上に勝利が、跨って、またがっ……て、


「って、な、何やってんだよ勝利!」
「お兄ちゃんと呼べと言ってるだろう」
「そうじゃなくって!その子嫌がってるだろ!?」
「そうなの…!嫌って言ったじゃないの!あの、貴方って有利君、だよね?ごめん、助けて!」


やっぱり嫌がってた。平然と俺に話し掛けてきた勝利は当たり前のようにその女の子を押し倒していたらしい。いけない。そんな無理矢理なんていけない。勝利を押し退けて俺の方へふらふらと少し危なっかしい足取りで倒れこんできた女の子を、俺は背後に隠すようにした。俺が睨み上げると勝利はムッとした表情になった。


「…有利、お前どういうつもりだ」
「どうも何も、女の子が嫌がってるんだ、助けるに決まってんだろ!こないだ買ったゲームでバッドエンドになってむしゃくしゃしてるからって、当たるなよ!」
「それは誤解だ。大体、むしゃくしゃなんてしてないし、凛央は俺の彼女だ。何が悪い」


…は?
勝利は、俺の兄上は何と仰いましたか?かの、じょ…!?ゆっくりと後ろを振り返ると、その凛央さんと言った女の子というか、女性…が、複雑そうに笑っていた。そんな笑顔も凄く綺麗です、凛央さん。俺はできない、勝利はいらないと言って生まれてから彼女なんていなかった勝利がこんな美人さんとお付き合いしているなんて。


「とりあえず、勝利、変な事はしないでね」
「…俺はマジだったんだが」
「えっと、私は凛央って言います。有利君のお兄さんと同じ大学行ってるの。よろしくね!」
「は、はい…ッ!」
「ということで、ゆーちゃん、わかっているとは思うがこいつに手は出すなよ?」
「わかってるって」


いや、眞魔国の超絶美形な人々にはある程度免疫がついたとは言え、こっちは地球だ。あちらとは違った美人さんで、素敵な笑顔を向けられれば男なら誰だって照れるに決まってる。別に俺、兄弟で女の子と三角関係になるような勇気も無いし、綺麗だけど…。


「勝利から聞いてたけど、本当に有利君可愛い!なんか…こう…抱き枕にしたいわ。あの私もゆーちゃんって呼んでいいかな?」
「えっ、あ、どうぞ!」
「だったら俺の事も、しょーちゃんって呼べ」
「…勝利は、勝利って感じだし…。有利君は可愛い弟っていう感じで」
「…やっぱり凛央を家に呼ぶんじゃなかった」


現在進行形で俺は凛央さんの抱き枕状態だ。なんだか、柔らかくていいなあ…。思わずデレりとしてしまったものの、思いっきり勝利に頭を殴られて我に返った。俺、初めて本気で殴られた。彼女ができると男は変わるもんだねえ…、勝利の弟でありながらなんだか父親になった気分だ。


「とにかく、有利は下行ってろ。用件があるなら後にしてくれ」
「え、ちょっと待って、ゆーちゃんは此処にいていいから!ね、いいでしょ勝利」
「じゃあ何だ、お前は俺がメイド喫茶に行ってもいいって?」
「それは…嫌だけど…」


暫く二人の言い合いが続いた。俺は傍観していた。簡単に纏めるとあれか、勝利がメイド喫茶に行っていると知った凛央さんは、それが嫌だった。だから行かないで、と勝利に告げたところ、じゃあ俺のお願い聞いてくれたら行くのはやめてやる!っていう感じか。聞いてると無関係な俺が恥ずかしくなってくるような痴話喧嘩で。だんだん、二人の仲を見せ付けられているように思えて惨めだ。俺だって…、婚約者はいいから彼女が欲しいよ。



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有利が可哀想な回。
20090326




 


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