そんなことぐらい、


勝利の好きな所を挙げろと言われたら、真っ先に心が落ち着けるからと私は答えると思う。

私の通う大学がエリート校と言えどゲーマーは沢山いると思う…けど、そういう女の子に話し掛けられたとき、言葉には表せない微妙な違和感があって、どこか会話するのに気を遣ってしまう。人と話すのに、ましてやゲームの話しをするときに一々疲れるのなら、そんな友だちはいらないと私は思っていた。好きな趣味の話くらい自然体で行きたいし。そういうわけで、一人でいることが多かった大学生活中に、もうベタ過ぎるぐらい運命的に目が合ったのが、今の彼である勝利。


「多分俺、リアルに好きな子できるの初めてだから至らないところあるかもしれないけど」
「私も…だし、大丈夫よ。…きっと」
「きっと、かよ…」


初対面だけど、何かを感じたのは嘘じゃない。いきなり告白されてもそれをすんなりと受け入れられたのは同属だからなのかな。

好きな男の子の前では良い子でいたいと思うのは当たり前だし、その為に結構頑張っているものの、相変わらずギャルゲー漬けな勝利には嫉妬が止まらなくて。しかも女の子の名前に私の名を使うし、本人は良かれと思って付けてるんだろうけど、なんか…同じ名だからこそ嫉妬してしまう。だって二次元の女の子って可愛いし…ッ!


学校の帰り道、近所である私と勝利は基本的に一緒に帰る。多分、周囲からしたら私たちはただの友達ぐらいにしか見られてないのだと思う。そんな甘ーい雰囲気なんて醸し出してはいない…だろうし。でも甘い雰囲気を出すとして、どうすればいいのだろう。そんなの今までやっていたゲームの様にしてみればいいのだろうけど、いざそれを勝利相手にやってみろと言われたら、わからなくなる。そもそも、恋人同士ってどういうことすればいいんだ…あれ、わからない。
ごめんなさい、恋愛をした事が無い、寧ろしようと思った事すらない私にはとてもハードルが高いです。


「凛央、今日は俺の家で晩飯食っていかないか?」
「いいの?」
「ああ。お前一人暮らしだろ、偶にはしっかりしたもん食わないとな」
「…ありがと」


私より20センチは軽く長身な彼を見上げて笑ってみると、大抵勝利は口元を押さえて何かを堪えている。言わなくても私だからわかるけど、そんなに勝利のツボを突いていただろうか。ただ笑っただけだけど、毎回毎回これでは私が無表情でいなくてはならない。それは…嫌だなあ…。
ふと、私たちの後ろを歩いている学生の女の子二人の話が耳に入った。地獄耳だと知った私。


「ねーねー、この前さ、あのxxxっていうメイド喫茶の前通ったんだけど、渋谷君いたんだよね」
「マジ?渋谷ってあの…渋谷?」
「うん、吃驚したよ、メイドさん好きなんて!」



聞こえてしまった。


「…ね、勝利。メイド喫茶行ったなんて聞いた事無いんだけど」
「お、れがメイド喫茶行っちゃまずいのか?」
「そうじゃないよ、いや…イメージ通りだし、そうなんだけど、でも、」
「ん?」


なんて言えばいいのだろう。私が嫉妬したなんて、そんな恥ずかしいこと、言いたくない。ゲーマーというか、勝利ならメイド喫茶でもツンデレ喫茶でも行ってしまいそうだけど、わかっていても嫌なものは嫌なのだ。
諭すように少し屈んで私を覗き込む勝利に、話してしまいそうになるけれど、それを言って、もし勝利に呆れられたら、その方が嫌。


「凛央、言いたくないのかもしれないが俺に非があるのかもしれないだろ?それなら、直したいし、溜め込んで辛いのはお前だぞ」
「………あの、わ、私だって勝利が着て欲しいって言うなら、貸してくれるなら、メイド服着るし!それなりに私もゲームやってるから、どうすれば勝利の望みどおりになるかもなんとなく、わかるから!」
「あ、ああ」
「だから、その…メイド喫茶なんて行かなくていいから!本当、行かなくて……いいから」


駄目だ、恥ずかしくて顔が熱い、絶対真っ赤になってる。しかも、今の私の顔は勝利に見られていて、隠せなくて、その羞恥の所為で泣きそうだ。
思わず、逃げようと一歩足を踏み出した瞬間、ぐい、と強く腕を引かれた。勝、利?


「あの、なに」
「嬉しいよ、俺にとっては。絶対お前そういう服装嫌いだと思ったからさ。嫌いというか見る専だと思ってた」
「そんなことは…」
「俺、普段からメイド喫茶使ってることが多いからあんまり気にしなくていい。それに、俺が好きなのは凛央、な?」
「公衆の場で言うのやめてよ…!」


べしべし叩いて反抗して、睨んでみた。けれど、何やっても勝利はへらへらと浮かれてて聞く耳も持ってくれなかった。今度メイド服を買ってやると言われたけど、別に着たいわけではないですよ、勝利さん。コスプレが趣味なわけでもないですよ。でも、メイド喫茶行くなんて言われたら着てしまうと思う。きっと。



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実はラブラブです。
20090325




 


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