追想と孤独


セーラー服を着た凛央はえらく可愛くなった。美人とかじゃなくて可愛くなった。ぽろりとそれを口にしてしまえば、イコール幼くなったという事なのか?とあらぬ誤解を生む事になるのだが。
つまり凛央は綺麗なのだ。美しくも可愛くもなれるくらい。本人は謙遜してるが、ゆーちゃん馬鹿で女たらしっぽいコンラートでさえ目をつける程なのだから。


「でも、なんかこのセーラー服、サイズ小さい」
「採寸した訳じゃないから仕方なくないか?」
「そうだけど…こうやって馬に乗ると下着見えそうで怖いのよ」
「じゃあ跨るな、横向きに乗ればいいんじゃね?」
「だって、落ちそうになるんだもん」


結局、俺は一晩中必死で乗馬の特訓をした。とりあえず凛央を乗せて駆け足になれるくらいには。そして、今日は凛央と乗馬デート中。こんなの地球で簡単にできる事じゃないから。
なんというか、凛央のスカートの短い丈から覗く太腿っていうのは目の保養どころか悪い意味でなく目の毒になり兼ねない。俺も人様には見せたくない。
リオの太腿は、おれのものだもん。最近この異常な独占欲が頭角を現してきたように思える。


「まあなんだ、その…俺の前に乗るか?腕に寄りかかるように座ってもらえば少しは安定すると思うしな」
「え、いいの?」
「凛央が嫌じゃなきゃな」
「それは、い、いいけど、なんか恥ずかしいね、これ」
「っだあああ、言うな!俺まで恥ずかしくなるだろ!いいんだよ、恋人同士の戯れなんだから!」


初々しいというか、もはや痛々しい程ピンクなオーラを出してる俺たち。馬を走らせているこの道が平原に続く静かな通りで本当に助かった。どこに出かけようか、と考えた結果、誰もいない落ち着ける場所がいいとなったのだ。天気も良いので、俺は凛央の命令どおり日向ぼっこでもして日焼けするとしましょう。


「さて、着いたぞ」
「うん。わ、いいね!こういう見渡す限り草と木しかない所」
「だな。とりあえず、座ろうぜ」
「そうね」


持ってきておいた布…というかレジャーシートを敷き、適当に靴を脱いで座る。


「なんか…やっと、帰ってきたって感じ」
「そうか」
「あのね、私、今が一番幸せだって思えるの。勝利がいて、健ちゃんがいて。そして、今この世界には創主の脅威を感じない」
「お前、そういうのわかるんだな」


そういう辺りで、凛央が只者ではないという事を思い知らされる。眞魔国を懐かしむような、どこか哀愁漂う表情は、きっと何千年も転生を繰り返した凛央だからできるものなのだろう。


「…私、ずっと必死だった。四千年もの間、ずっと。だって、大切な創主との戦いに限って助力できないし、私を護ろうと戦いから遠ざけてくれた、それにありがとうって、言う事もできなかったの。最初はそれを言う事が自分の使命だと、生まれ変わってから死ぬまで、何度も世界中を探し回ったわ。だけど、見つからないし」
「凛央は村田…いや、大賢者の魂の持ち主を探すためだけに生きていたのか?」
「そう、かな」


生きて、死んで、転生して。それを繰り返しながらもずっと、身体中を大賢者へ伝えたい言葉と、支えられなかった未練という名の責任で縛って、生きてきた。そんなの、楽しくなんてないし、それだけの為に生きるなんて人形も同然だと、俺は思った。


「最初は使命、私の生き甲斐。だけど、途中から判らなくなってきてね。だって、どれだけ探しても見つからなくて、私のやってることは無駄なのかなって。そう思った時、ふと周りを見たら、誰も、いないの。一つの事に囚われてたせいかな、世界中を歩き回っていたのに世界の事に疎くなっちゃって」
「大賢者と離れ離れになってからは、ずっと地球にいたのか?」
「…それも判んないの。おかしいでしょ?だけど、それに気付いた途端に、物凄い、孤独感に襲われて、寂しくて寂しくて…。だから後はもう、私の孤独を癒してほしくて、縋る思いで探したわよ、私の大賢者様を」


自嘲めいた笑みを浮かべる凛央は、涙こそ流していないが、俺には泣いているようにしか見えなかった。隣り合って座っていた凛央の脇に腕を通して引き寄せるように動かした。抵抗も無しに俺に抱かれた凛央は、それだけ大きな孤独を隠していたという、事なのだろうか。


「そんな感じでずっと生きてきたから、結局あれよ、勝利って、大賢者様と離れてからの私の数多の生涯の中で始めてで一番大切な人っていうのかな。勝利と会った時も、私、あの大学に今で謂えば健ちゃんを探しに入学したようなものだから」
「そう、だったのか。あー、なんか、やっぱり俺の最大の敵は村田だな」
「なんで?」
「俺を愛してくれる人を奪って行くやつだから」


凛央は唖然とした表情で俺を見上げた。冗談で言ってるの?そんな事を言いたげだ。違うよ、本気だよ。


「俺、さ、この通り愛想の欠片も無い男だから。決して有利を嫌ってるわけじゃないぞ。だけど、有利の兄っていう位置を失うと、俺に存在する意味が無くなってしまうわけで」
「意味…?」
「…ただ頭が良くてもな、駄目なんだよ。有利を見りゃわかる、愛想と人を惹きつけるカリスマ性が俺には無い。俺と比べたら凛央に失礼かもしれないが、俺だってずっと孤独だったさ」


大切にしてくれているのはわかってるんだ。だけど、家族の愛情が一番に俺に注がれる事は無かった。不満はない。不仲でもない。辛くもない。
でも、孤独という言葉は常に俺に付き纏った。一々泣いてるほど弱い人間でもなかったから、きっと周囲の人間は気付かなかっただろうが。


「苦悩の重さは他人と比べるものじゃないわ」
「そか」
「うん…あのね、思ったんだけど私たちがこうやってるのって、最初はオタク仲間だね、そうだね、みたいな感じだったけど、違うみたい」
「…今考えればだけど」
「お互いの孤独が引き合わせて、それを埋め合う為だったのかなって、今は思える」


今日ここに来て本当に良かった。初めて凛央の事を理解したような気がする。今がスタートなんだ、俺たちの。


「勝利は納得してくれないかもしれないけど、健ちゃんは私の生きてきた中でたった一人の友人、って言ってもいいくらいで、大切な人なのは当たり前なのよ。だから、その…私のそういう想い、あんまり否定しないで欲しいな」
「それは俺と村田が男で、お前が女である限り…いや、そうでなくとも、納得するのは無理だろうな、きっと。でもま、そこまで必死になったから今俺の目の前に凛央がいるって、そう考えれば受け入れざるを得ないな」


それでいいよ、と笑う凛央は、ようやく今日一番の笑顔を見せた。少しだけ帰るのが勿体無くて、そして怖かった。今は俺だけに向けてくれる色んな表情、愛情を、別なやつに分ける事になる。
こんな思考が嫌になる、けど、止められない。



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夢でもちょっと病み入りになってきました。当初はこんな話書くつもりなかったので、はっきりいうと、このシリーズは話が通じてない部分が多いです。シリーズだから、と見逃してくだされば、助かります…。
20090607




 


あきゅろす。
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