最初の問題


ひとまず冷たい噴水の水を浴びたままでは風邪を引きかねない、と血盟城に移動する事になった。ただ、有利君が此方に来るのはわかっていても私と勝利は予想外だった為、二人分の馬がなかった。私はべつに徒歩でもいいんだけど、さすがにバスタオルだけでは危険だと言われた。…寒い、から?


「…ていうか、何でコンラートの後ろに凛央乗っけてんだよ」
「ショーリは一人で乗れるんだろう。でも相乗りするほど上手には見えないし、いいだろ?」
「良くない!絶対良くない!」


いくら過去の記憶持ちと言えど、最後に馬に乗ったのはもう数百年は昔だから感覚を忘れてしまっていて。有利君はヴォルフラム君の後ろに乗り、私はコンラッドの後ろ。そんなに相乗りしたいなら、早く馬術を上達させなさい、と勝利に言ってやった。他人の事言えないんだけどね…。
眞魔国の空気も暫く吸っていないけれど、なんとなく身体が懐かしがっている。帰って来た、と言うには時間がかかりすぎてそれこそ健ちゃんのように他人事のように思ってしまうけど、それでも私は母国に帰ってきたんだ。


「ああそうか、つまりお前はコンラートと行きたかったのか」
「そういう風には言ってないでしょ?」
「…俺にはそう聞こえたんだっ」
「はあ…。だから私、暫く乗馬なんてしてなかったから、不安定な馬に乗るのは怖いのよ。でも…、勝利が頑張ってくれたら、一緒に乗りたい、かも」
「凛央…」
「はいはいはいはい、痴話喧嘩はそこまで。二人とも、血盟城に着きましたよ」


勝利の舌打ちが聞こえた。


「リオ様!陛下にショーリ様、お疲れ様でございます。先ほどの、ええと…せぇーらぁ?服ですか、明日には出来上がると思いますので、今日は別なお召し物でお過ごし下さい」
「…ねえ、ギュンター。まさかと思うんだけど、それってツェリ様の服とかじゃないよね?」
「……まさかでございます。リオ様に合った服と言うと上王陛下ぐらいしか思いつきませんでした」


でん、とギュンターさんに見せられたソレ。元々私も肌を出すような服を着る機会が多かったけど、それを軽く上回るセクシーなデザインのワンピース。有り得ない!私こんなの、着なきゃいけないの!?黒の、地球で謂うチャイナドレスの形状をしていて、太腿の上あたりまでしかない裾にギリギリまでのスリット。普通の下着じゃ見えてしまうくらいで。なんというか、恥ずかしくて…死にそう。


「着たくない…、これだったら有利君とかの服でも借りるからいい!絶対着たくない!勝利だって嫌でしょ!?こんなの着たら胸のとこ余るの必至だし、似合わないし…」
「……凛央、俺に無理矢理着替えさせられるのと、観念して自分で着るのどっちがいい?」
「は、…は!?待って、勝利、何言ってるの」
「だからー、恥ずかしいだろうけど、凛央さんならこの服も似合うだろうし、着ろ!って勝利は言いたいんだよ」


もうやだ、なんで私の周辺には男の人しかいないんだろう。メイドさんとか、城内にはいる筈なのに、いない。血盟城もまた、久し振りになのに懐かしむ暇も無い。この客間の出入り口はコンラッドが塞いでるし、他の扉といえば、あとは奥の個室のみ。つまりそこで着替えろと。窓から逃走できる自信も勇気もない私は、仕方なく、残された扉を開いて、がっちり鍵を閉めた。
上王陛下ということは、有利君の前の魔王。こんな凄い服も着てしまう人なのか。私の周りにはいなかったタイプのような気がして、ちょっとだけ不安になった。
それにしても…裾が短い。ハイソックスとブーツのような物も渡されたから、まだ、いいんだけど、勝利の馬鹿。

………


「……き、着替え、たよ」
「っあ、阿呆っ、リー、え、ちょっと待てウワアアアアマジで着たのかよ!」
「着ろって言ったのはそっちでしょ!」
「そうじゃなくてだな!ちょ、ちょっとこっち来い、人目に触れたらいかん!有利、俺が前に使ってた客間あるよな、そっち案内しろ!」
「え、あ、うん」


普段の数倍くらいの強さで腕を引っ張られ、ずかずかと進む勝利に、私は半ば引き摺られるようにして着いて行く。


「よし、ありがとな、ゆーちゃん。他の奴等には入ってくんなって言っとけ」
「わかった…」
「じゃ、じゃあね、有利君」

ドアがバタン、と閉まってから、なんとなく近くにあったソファに座った。

「やっぱ駄目だなそれ。もう少し普通の服借りた方がいいかもしれない」
「…何言ってるのよ」
「とにかく、あいつらの母親の服は危ない」


勝利の言う母親っていうのは恐らく例の上王陛下の事なのだろうけど、誰の母親なのだろうか。バタバタしすぎて聞く暇もなかった。
それよりも。
チャイナ服を着ろ、とか言ったのは勝利のくせに、どうしてさっきから頭ごなしに否定ばかりするんだろう。少し悲しくなってくる。


「…あの、勝利」
「何だ」
「そんなに似合ってない?」
「え?」
「だって私には駄目なんでしょう。確かにこういう服はもっと大人の女性じゃないと似合わないかもしれないけど…」
「あ、いや、その…だな…」


黙り込んだ勝利に、首を傾げてみる。彼の眉間に皺が寄ったり、視線を左右に彷徨わせたり、顔を赤くして恋話に花を咲かせてる女子高生みたいな表情をしたり。こんな状況じゃなければ面白がるんだけど…。
などと考えていると、急に勝利が立ち上がり目の前まで歩み寄ってきた。


「凛央、前も言ったけど、男からどんな目で見られているか、解ってんのか?」
「…う、うー…」
「だから、駄目なんだ!…その、服は、似合ってる。すげー似合ってる、セーラー服もいいがチャイナ服も捨てがたい。だけど、露出した部分をな、他の男に見られるのはやなんだ、俺が!だから駄目なんだ!」


つまり、妬いて、くれてる。
多分、勝利に負けないくらい私の顔も今、凄く赤い。なんて事をこの人は言うんだ。ゲーム中のキャラにはそういう事サラッと言えるけど三次元じゃ口下手。だからそのギャップなのかな、勝利が言った事が信じられないくらい恥ずかしくて、それに嬉しい。


「じゃ、じゃあ…セーラー服受け取るまで、勝利の服着てるよ」
「…だから…お前は…」


また、私…何か言ってしまった?



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ツェリ様、チャイナ服って持ってるんでしょうか
20090602




 


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