放課後の憂鬱



今日はおれの家で勉強してかない?

…そう誘われ、ゆーちゃんこと渋谷有利君の家に行く事になって。学校ではよく話すものの、放課後までゆーちゃんとご一緒した記憶はない。ゆーちゃんって呼ぶなって言われてるんだけど、絶対ゆーちゃんの方が可愛いと思うのよね!私と数センチくらいしか身長差が無い隣のゆーちゃんを見て小さく笑った。


「なに笑ってんだよ」
「別になんてことないんだけどね、一緒に帰るの初めてでしょ?ドキドキしちゃうなあー(…嘘だけどさ)」
「どっ!?ば、馬鹿じゃん!何でお前がおれにドキドキなんてすんだよ!まあ、おれはさ?凛央も知ってのとおり、彼女居ない歴イコール年齢だけどお前はどうせ清楚なお嬢様をウリにして何人も彼氏つくってんだろ!」
「…清楚なの?」
「え、違うのか?」


私はもしかして、ゆーちゃんに誤解されているのだろうか。まず、清楚ではない。普通に元気に遊ぶ子だし、それから彼氏はいないと言うよりも欲しいと思ったことがないからお付き合いはした事がない。今日もそんな誤解の所為なのか学校を出る前にゆーちゃんには、門限って何時?とか母親迎えに来てない?とか、ましてや彼氏待たせてるんじゃねーの、とか質問攻めにあってしまったのだ。我が家の両親はどちらも放任主義だから門限なんてないし、彼は私に対してどんなイメージがあるんだか…。確かに、学校ではかなり真面目な雰囲気を取り繕ってきたから仕方ないといえば仕方ないのかもしれないけど。でも真面目とお嬢様は違うんだよ、ゆーちゃん。


「でもさあ、凛央、進学校通った方が良かったと思うけどな。その成績でこの学校は勿体無いとか教師に言われないのか?」
「言われたけどこの学校がいいんだよ。…この学校じゃなきゃ、ダメなの」
「なんで?」
「……ちょっと古くからの友人との約束でね。ところでさ、ゆーちゃんって帰るとき、いっつも慌しく教室飛び出して行くけど、何かしてるの?」
「う、うん。違う学校の親友と会う約束してるから」
「違う学校?」
「そう。すっげえ頭イイ奴でさ!村田っていうんだけど」
「へえ…」


村田、ね。暫く会ってないけど、さすが四千年の知識フル活用してちゃっかり親友の位置にいちゃってるんだ。二人がくっついて私だけ仲間外れにされるのはちょっと…寂しいな。
そうこうしている間に、目的地である渋谷家に到着していた。


「ただいまー」
「お。おかえり」
「ゆーちゃんの…お兄さん?」
「…誰だ、お前。ま、まさか…ゆーちゃんの、彼…女!?お兄ちゃんは認めません!お前に彼女なんて百年早い!」
「違う!てかそれじゃ死ぬまで彼女できないじゃねーか!…友達だよ」


ゆーちゃんのお兄さんは、ブラコン。強烈な印象がここで脳に刻まれた気がする。見目麗しいお兄さんと、少し幼さの残った可愛い弟、一見美しい兄弟愛に見えるけど、やってることは恋人のそれと同じ…。あ、…いいな…。


「…禁断の……薔薇ぞ」
「あの、凛央?」
「え、あ…なに?」
「いや、今なんか兄貴、…の勝利みたいなこと言ったような気がしたからさ」
「俺をこんな女と一緒にすんな!」

もしかして同属…?

「お兄さん、コンタクトと眼鏡、どっち派ですか」
「眼鏡に決まってんだろ!俺は…、あのずり落ちそうになった眼鏡をかけて上目遣いで見上げる女の子が好きなんだッ!コンタクトなんてこの世から消えればいいんだ!」
「そうかなあ。コンタクトの子が休日のデートの時だけ、"勝利以外の人の前で眼鏡って恥ずかしいから…"なんて眼鏡で来たらどうします?お兄さんってギャップ萌えしないんですか?」
「…そ、それ…も、悪くはない…が。っていうかお前…!」
「はい」
「……俺の部屋来るか?」


――――


何言ってんだよ勝利ばっかじゃねーの!ゲームオタクのあんたの部屋に女の子が入りたがるわけないだろ!ってか、勝利、さっき凛央の事追い返そうとしたよな、なんで誘ってんだよ!ていうか、その誘い方おかしい!誤解もしたくなるもんだって!何、おれの友達を横から奪おうってのか!?ちくしょう、勝利の彼女は二次元限定なんじゃねーのかよ、凛央は渡さないからなっ!
ダメダメ、凛央、おれの兄貴は狼だ、着いていっちゃいけません。必死に凛央の肩を押さえて引きとめようとした。


「あ、あの、お兄さんさえ良ければ、是非」
「よし、イイ事教えてやろう」
「え、だ、だめ!凛央、行っちゃダメだ、馬鹿!」
「ゆーちゃんが心配するような事は無いし、大丈夫よ」


だから、その心配するような事が起こってしまいそうなんだよ…。なんで、気付かないんだ。


「お前は多分来ない方がいいと思うから、部屋で待ってろ」
「は?おれ行っちゃダメなの?」
「…来ない方がいいんじゃないかな」
「……」


絶句した。なんていっていいかわからない。大体、凛央がうちに来たのは初めてなはずで、当然勝利と顔を合わせるのも初めて、だと思うんだけど。なんで、こんな数分の間に親しくなっちゃってるんだろう。おれの方が同じ学校で、よく勉強とか教えてもらったりで仲はいいはずなのに、くそ、なんかもやもやする。これはあれか、友達を奪われたって言うよりも娘が親離れした感覚に近いっていうか。きっとそんな感じだ。
勝利に肩を抱かれた凛央がそのままそっちの部屋に入って行ってしまった。…凄く、絵になってるんだけど、どこかやらしい。なんで…、勝利ってこういうことするやつじゃなかったよな。おれ、兄貴としてじゃなく人としてどうなんだとちょっと思ってしまった。
このまま部屋に戻っても絶対落ち着かない。だからと言って覗き見はしたくない、んだけど、気になる。とりあえず、勝利の部屋の前で待機する事にした。変な物音がしたらすぐに出動だ。
あんまり聞こえないな、聞こえないに越した事はないんだけど。中で何やってるんだろう。


「あっ、それはダメです…!」
「なんで、俺はこっちの方がイイと思うんだが」
「そうなんですか。それなら、勝利さんの好きにして下さって構いません…けど」
「じゃ遠慮なく」
「ちょっと…え、やっぱりダメ!」

……え、

「へえ、意外にイイ道具持ってんのな」
「ちょっと、人の持ち物勝手に見ないで下さい。言っておきますが使わせませんよ、高かったんですよ!?」
「知ってるよ。でもさ、道具ってのは使うためにあるんだぜ、ただ持ってるだけの何がいいんだ」
「並べて、眺めて、いい気分、みたいな」
「じゃあ使わせてもらうぞ」
「だ、だからダメってば!」


我慢できなかった。なんか、よくわからないけどこれは止めに入らなくてはいけないんじゃないかと、本能が叫んでた。バンッ!と思ったより凄まじい音を立てて開いた扉の先、凛央と勝利はベッドの縁に並んで腰掛けていた。あ、あれ?なんかもっとこう、ヤバイ感じかと思ってたんだけど…。


「…ゆーちゃん?」
「お前、なんで勝手に入ってきてんだよ」
「い、いやなんか、やらしい会話聞こえてきたから、危ないと思って…ですね…、じゃなくて、何やってたんだよ!」
「「ゲーム」」


またおれは絶句する事になった。
おれが知らなかっただけで、凛央は実はゲーマーというか、勝利と同じタイプらしくて。だから勝利と似たような、おれにはよくわからない言葉を言っていたわけだ。確かに、おれは来ない方がいいのかもしれないと言うのはそうだった。いつも勝利はやってるギャルゲーを見ろとしつこく言い寄ってくるから嫌がってるし。
凛央は、丁度持って来ていたゲームの倒せない敵を勝利に倒してもらったのだという。ゲームの話だとわかれば、道具だって、ああ…回復アイテムね、と思うし。これは、おれの妄想力が悪いのか?


「しかし、この会話をやらしいなんて、ゆーちゃん何考えてたんだ?」
「え、っと…あの…いや、」
「仕方ないですよ、本人も言うように健全な男子高校生ですからね」
「そうだなあー」
「健全で悪かったな!」


勉強会をするつもりだったのに、凛央は煮詰まっていたゲームが進められるからと帰る事になってしまった。家でやってけばいいのに。


「私、ゲームは一人で集中してやりたいタイプなのよね。勉強はまた次の機会にでも教えるから」
「まあ…いいけどさ」
「じゃあ、お邪魔しました、またね、ゆーちゃん!」
「じゃーなー」


玄関の扉を閉じたおれは、その場に崩れるように座った。なんか、どっと疲れが出てきた。


「凛央か、なかなかいい友達を持ったじゃないか」
「…認めませんって言ったのはどこのどいつだよ」
「彼女は認めないって言っただけだぞ。また連れて来い」
「え……っ」


今度一緒に飯食いに行くかと呟きながら部屋に戻っていく勝利におれは唖然とした。え、なにこれ…フラグ?勝利って凛央みたいな子、好きなの?てか、年下だけど好きなのか?眼鏡っ子でもないしツンデレでもないけど好きなのか?驚きとよくわからない悶々がぐちゃぐちゃになって頭がパンクしそうだ。





誰夢にすべきか迷ったのですが、勝利に頑張ってもらった有利夢にしました。凄く微妙な所。
20090527




 


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