スタツアデビュー


眞魔国と他国の問題などはようやく一段落ついた。しばらくは地球で穏やかに暮らせそうだと思ったのだが、たまに眞魔国にも顔を出せという有利や村田に連れられて、行く事もある。だから俺は、急なスタツアにも何とか対応はできるのだが、ここにいる凛央は全くだ。魔族でも、地球で育った彼女はスタツアも初めて。

(羞恥など感じてる場合か!)

唇の位置を確認してから、そっと、苦しそうにしている凛央に口付けた。違う、酸素をおすそ分けだ。考えてみれば今の俺らの身に付けているものは、それぞれ腰、胸元を隠すタオルが一枚ずつだけ。だが、今は一応緊急事態で、すぐにあちらに到着するだろうがそれまでに凛央の息が止まることがないとも言い切れない。水の抵抗を受けないようにぎゅうっと線の細い凛央を抱き込んだ。

二次元美女がいればあとは何もいらないと言っていた俺を嗤ってくれ。ああ、思う存分嗤うがいいさ!見えてきた眩しい出口。その直後、バシャッ!という効果音と共にようやく新鮮な酸素を吸い込む事が出来た。


「げほ、っはああ…有利、急にダイブすんのやめろよ、危ないだろ!」
「ごっ、ごめん!っていうか…あの、凛央さんは大丈夫、なの?」
「ああ。とりあえず大丈夫だ。凛央、おい、」
「……しょ、…り…」


肩をぽんぽん、と叩いて刺激を与えると、少し間を空けてから、薄っすらと目を開いた。何か異変を感じ取ったらしく、その直後バッ、と起き上がり辺りを見回している。


「とりあえず勝利と凛央さんの着る服用意して貰わないとなあ。多分、おれ達がこっち来てるのわかってるだろうし」
「だな。凛央、寒くないか?」
「それは、大丈夫だけど…。あの、もしかして…ここって、眞魔国じゃ…」
「そうだよ、よくわかったね、凛央さん」


眞王廟の中庭にある噴水の中で。有利がそう言った後、集まってきた巫女さんたちのそのまた奥から叫ぶような声がこちらまでよく響いた。三人の声だ。まあわかる。ユーリー!陛下ー!へぇーいかぁー!という三種類だ。


「お帰りなさいませ、陛下っ!本日のお召し物もまた麗しく…ぶふっ」
「ちょ、ギュンター、汁、汁!」
「お前は空気の読めないやつだな、全く。会議の途中だったのにユーリが来たから中止になったじゃないか、このへなちょこめ!」
「…悪かったな!だったらヴォルフたちの用事が終わってから来りゃよかったじゃんか」
「う、うるさいっ!」


なんというか、いつもの光景と化していると言えばいいだろうか。さすがに水に浸されたまま十数分は経過すると寒くもなってくる。俺はまあ、なんとかなるが、丁度俺の膝の上に乗っかる形で座っている凛央なんかはかなり寒そうだ。暑がりだと言っていたが、それも自称だ、肩の辺りが震えている。


「余分にタオル持って来ておいて良かった。はい、ショーリ…と、こちらの女性は?」
「入浴中に来てしまったようだが…、こいつも双黒なのか。しかしなんでまたこんな女まで眞魔国に来たんだ?」
「こんな女言うな!」
「そうですよヴォルフラム。ああ…こちらの女性もまた美しい…っ!」


露出の激しいマイ彼女を見られるのはいい気持ちがしない。ムッとコンラートを主に睨み上げると、まるで人を馬鹿にしたように苦笑しだした。


「すまない、女性に対して失礼だね。ショーリの…」
「あ、えっと。一応…その恋人って言うんですか。私」
「一応言うなよ、お前…」
「じゃあ、恋人で!」


まるで俺と付き合ってることに不満があるように聞こえたのだ。ここは訂正すべきだ。話していると、有利の臣下三人が驚いた目で此方を見ている。此方、というか、凛央を。


「君はこちらの言葉がわかるのか?」
「あ、はい。まあ当たり前と言えば当たり前なので」
「そうか。いつまでも君と言うのも無粋だな、名を、聞いても?」
「私は、凛央って言います」
「コンラート、オ レ の 凛央だからな!やらんぞ!」
「……今、リオって言いました?」


またしても魔族三人の顔が驚きの色に染まる。知り合い…ではないと思うんだが。


「双黒で、リオという名の女性…、あ、あのつかぬ事をお伺いいたしますが…、貴女様はもしや、」
「はい、多分皆さんが思っている通り、その凛央です」


やっぱりー!!!!!
有利の婚約者と汁王佐はこの上ないほどに叫んだ。凛央はシャワーを浴びる際に洗髪もしていたので、タオルで隠された髪は少ししか見えない。大きなバスタオルを纏って、いくらか露出が押さえられた凛央は立ち上がって頭を下げた。


「この女が…、あの双黒の美姫…。てっきり有利の浮気相手だと思ってた…」
「違います。私一人ではこちらには戻れなくて、でも有利君の魔力が力を貸してくれたんですね、きっと」
「ああっ、その様に畏まらないで下さい、姫様!貴女様はあの眞王陛下や猊下と並ぶほどの女性でっ!」


ギュンターは力説するが、凛央こそ畏まられるのは気分が悪いだろう。この世界では偉人とされていても、当時の凛央はただの大賢者のマネージャーなんだから。俺がギュンターとヴォルフラムに、簡単に経緯を話した。転生の事、それから以後の扱いについて。安心してくれたらしい凛央は、俺の横でにこにこ笑っている。
あ、ちくしょ、そんな笑いかけんな馬鹿!


「事情はわかりました。ですが、やはりリオ様が双黒の美姫であることは変わりありません。陛下と同じように、持て成させて下さいませんか」
「それは構わないです。でも、公の場以外だったらできるだけ普通に話して欲しいな、と」
「だったら、貴女も敬語は使わないで下さいね」
「うん」
「……コンラート、お前、目が、本気だ」
「え?何か言った?ショーリ」


そう、これだよこれ。コンラートは有利と喋る時はなんか声があまーくなる。それと同じぐらいに、凛央と喋る時の声のトーンが甘ったるい。


「では!そうとわかれば、リオ様の分の黒いお召し物を用意致しましょうか!」
「お、おいギュンター。それってまさか…せ、制服か!?た、頼む!制服はセーラーの型で作ってくれ!絵があるから!」


丁度持っていた、学園モノのゲームのキャラクターカード。それをギュンターに手渡すと、喜んで用意しましょうと一足先に血盟城に吹っ飛んで行ってしまった。


「…なんか、バタバタしてるわね」
「有利やお前がいるから、皆嬉しいんだろ」
「勝利も、でしょ?」
「そーかな」
「そういうこと言わないでよ。やっぱり勝利は傍にいて欲しいもの」


俺を見上げ、はにかむ様に笑う凛央は、やっぱりどんなに偉い人物でも、俺の大好きな凛央に変わりない。
さて、これからまだまだ忙しくなりそうだ。



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キャラが沢山でてくる眞魔国。まとまりがなくなるかもしれません。どうかお許しください。
20090507




 


あきゅろす。
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