誤解しないでね!


私が言えば、美しい筋肉っていうのは見て美しく、触れてもまた美しいと感じなくてはいけないものであって。それを確かめるにはやはり私自身がその体に触れる必要がある。だからね、言っておくけど私は欲求不満じゃないわよ、これは私の好奇心です。ゲームのキャラクターの様に綺麗な体をした人なんて現実世界にはそうそういないけれど、でも触れて、体温を感じるというのは二次元でできることではない。そう、だから、勘違いしないでね、勝利。
面倒くさい事は言いたくないけど、きっと私がお願いすれば勝利は、ああん?何言ってんだ随分積極的だな溜まってたのか、ん?どうなんだ、ぐらいは言われそう。


「っていうわけで、服脱いで下さい」
「ぁあ?」
「…勝利用語っぽく言えば身体検査がしたいのです」
「凛央…おま、なんつープレイだよそりゃ」
「プレイじゃなくて!」


わかりやすく言うと、勝利の体に触りたい、になってしまう。それこそ私変態扱いされるけど、そうじゃなくて本当に筋肉フェチとしての好奇心なのだ。


「じゃあれか、お前もしかして溜まってんのか欲求不満なのか。積極的だなオイ。いや、俺としちゃそれを拒む理由も無いしな?寧ろ有り難いんだが…女としてそれでいいのか?」
「だから違うって言ってるでしょ!この間、勝利の怪我治した時に興味が沸いたから、もうちょっと鑑賞してみたいのよ。ここで脱ぐのが嫌なら一緒にお風呂入るついでとかに見せてもらえばいいよ」
「…そりゃもっといかんだろう。自覚ないのかよ」


勝利が何か呟いた。でも、渋谷家の皆さんが外出中とは言え、リビングで何の目的もなく、ただ見られるために服を脱ぐなんてそんなの、簡単にできることではないだろう。それならシャワー浴びるついでで、いいじゃないか。ということで、レッツゴー。勝利の背中を押して。お風呂お借りします。




「……な、なあ…凛央」
「なに?」
「ハッキリ言っとくが、見られるととても体が洗いづらい。俺なんぞプロアスリートに比べりゃそれはもう貧弱な体格だぞ、俺のを見て何が楽しいんだ」
「…何だろう…」


確かにテレビなんかのスポーツコーナーで登場するプロの野球選手だったり、あとはボクサーとか、凄くしっかりした体格で格好良い!なんて思うけど、何か違う。…勝利の背中見てると何か、安心する。超インドアな勝利は本人も言ったとおり、あまりがっちりしているとは言えないし。


「好き、だからかも」
「なにを」
「勝利を」
「…そういう事はさらっと言うな、馬鹿。照れるだろ」


お互いタオルはしっかり巻いてあるので問題はありません。先に入っていた私が浴槽の端に移動すると、空いたスペースに勝利が入る。BGMはお湯の揺れる音のみ。こういうゆったりした時間は、好き。隣をちらりと見遣ると、勝利は緊張しているらしい。耳が少し染まっている。
…もう少し、野外で体動かした方がいいのかもしれない。勝利の肌は白い、から。私はと言えば、日に焼けているとまではいかないけど、青白くはない。でもこのままだと私、そのうち勝利より日焼けしてしまうかもしれない。なんかそれは嫌だ。だからやっぱり、勝利…外に連れ出した方がいい。


「しょーりー、ちゃんと外で遊びましょうね。有利君みたいに日焼けすべき」
「…紫外線はあんまり体に良くないんだぞ」
「そうだけど、なんか…、折れそうなほど細い腕、月光を浴びて散り行きそうな白く儚い後ろ姿、とか形容されるよ」
「俺、そんなに頼りなく無いと思うが」


じゃあ、外で元気に遊びなさい、釘を刺しておいた。
温めに沸かした湯にしばらく浸かっていると、浴室の扉を越えた向こうから足音が近付いてきた。勝利情報によれば美子さんは近所のご友人の家に遊びに行っているらしいし、勝馬さんも今日は帰りが遅いらしい。なら、来るとしたら有利君?でも、脱衣所に服が置いてあるのだから気付くだろうし、ここまでは来ない、だろう……け、ど…
刹那、バンッ!と大きな音を立てて目の前の扉が開いた。


「……って、え、えええええ!?しょ、勝利と…凛央さん…!?」
「こら、ゆーちゃん!勝手に入っていいなんて言ってないだろ!」
「ち、ちがっ…。そうじゃなくて、」


顔を赤くして弁解する有利君。その背後からいないはずの美子さんの声がした。それを聞いた途端に有利君は肩をびくつかせてあからさまに驚いていた。


「ゆーちゃん!勉強やりなさい!今回ばかりは、ちゃんとやり終えるまで外に出しませんからね!」
「ってわけなんだよ…ッ!」


それなら、大人しく勉強をすればいいだけの話じゃないのか。有利君はよっぽど勉強が嫌い…らしい。でも、だからと言ってなぜ今にも此方に突っ込んできそうな勢いがあるのだろう、理由が思い浮かばない。…そう、考えていたら有利君が行動に出た。本当に浴槽へ飛び込んできたのだ。しかも服を着たまま。何がしたいの、そう聞く時間もなく。まして、え、と声を上げる隙もなく。
湯がいきなり渦を巻き始めた。私は、この体験をした事が無いから、何が起きるのかがわからない。刹那、体を引っ張られ、その抗いようの無い力に息を吸っておく余裕も無かった。苦しい、泳ぐのは得意じゃない、このままお風呂の中で溺死してしまうのか。


「凛央」
「?……っ、あ」


意識の途切れる寸前、お湯のせいであまり開けられない目蓋を頑張って押し上げて。微かに映ったのは勝利の口元。唇に感じたのは、彼の…かな…。
そうだったらいいんだけど。



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さわってなかっ(…
20090413




 


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