ひとつだけ発展した事があるんだ



村田は珍しく焦っていた。凛央が眞王廟の何処にもいない。中庭の辺りを中心に色んな所を、もしかしたら自分で遊んでいるのかもしれないと、それはもう机のクロスの下もくまなく捜した。でも、いない。託宣の間はウルリーケがいるし、何かあれば村田の元へと報告に来るだろうから行かなかった。


「ねえ、今日リオは外に出て行った?」
「いいえ。姫は見かけていませんが…。いらっしゃらないのですか?」
「ちょっとね」


眞王廟の門番の女に聞いても見かけていないと言っている。それならやはりここのどこかにいるのだろうが、もしかしたら抜け出した可能性も高い。一応血盟城に白鳩を飛ばしておくべきか。村田があちらに行くには一々護衛等の準備が必要なので面倒なのだ。戦闘向きでない魔力は、やはり有利の魔力ブースターぐらいにしか役立てない。
魔力…魔力?そうだ、凛央も僕と同じぐらい魔力は高かったはず。それならばウルリーケにアレで視てもらえばいいんじゃないか。
そうとわかれば、村田は急いで託宣の間へと足を速めた。


「失礼するよ、ここにリオは…来て…って、何で君が!?」
「け、けん…」
「やっと来たか、おれの大賢者。遅かったな」
「リオの膝枕を許可した憶えは無いんだけど」


役目を果たしたのならさっさと消えてくれればいいのに。もしくはセクハラ、痴漢、強制猥褻の罪で逮捕されればいいのに。
村田は内心毒づいていた。こういう時、村田はよく自分の事は棚に上げてしまう。当時も眞王のセクハラから凛央を守りながら、やる事はしっかりやっていた。恋仲ではないと公言はしているのだが、傍から見れば、見ているほうが恥ずかしくなるようなバカップルとしか受け取れないような様子だった。
せめてこの場から出て、小さな手乗りサイズになってもらえれば幾らか眞王の厭らしさがなくなる。それなら、凛央の膝に乗るようなことも見逃せるかもしれないが。いや、小さくなったらなったで悪戯するという事も考えられる。それこそ服の中にお邪魔します、も…或いは。


「とにかく離れてよ。じゃないと、本気で渋谷を呼んで今度こそ君を消してもらうよ」
「猊下!それはお止め下さい!眞王陛下はこの眞魔国にとって…」
「ウルリーケ、君もだよ。なんで僕にこのことを知らせてくれなかったの」
「そ、それは…眞王陛下に、他言無用だと言われましたので…」
「そうなんだ」


口止めをしたということ、それは眞王が村田にこの状況を知られたくなかったわけで。イコール、凛央を自分の良い様に扱うつもりだったのだ。僕だってリオの膝枕なんて片手で数えられるくらいしかやってもらったことないんだぞ!眞王の柔らかな金髪が揺れるたびに擽ったそうに身を捩る凛央は少し、…いや、かなりこう、クる。
村田は慌てて眞王と凛央を引き離し、己の後ろに彼女を隠した。


「四千年経ってもお前の行動パターンは相変わらずだな」
「それは君が悪いんだろ。僕のリオでからかってさあ。それに、リオもリオだよ、嫌なら半殺しまでなら許すから」
「でも、眞王様ですよ…?さすがに私だってそれは出来ないっていうか…」
「じゃあ、命令。彼が君にセクハラしそうになったら即、拒絶してね。受け入れでもしたらどうなるかは…、ま、考えておく」


村田が、ブラック時特有の笑顔で命令なんて言えば、それに凛央が逆らえるはずもなく。が、凛央はおびえるどころかそれすらも、あれだ、格好良いとフィルターが掛かって見えるのだ。
眞王は、二人を取り巻く桃色なオーラに気付き、呆れ顔で溜め息を吐いた。あれだけ、僕は賢者の記憶を持った別人だと言ったって、これは当時と全く変わっちゃいない。


「とにかく、眞王。君はどれだけ僕が言っても懲りないのはわかっているけれど、リオには手を出すなよ。言っとくけど僕ら、めでたくお付き合いすることになったからね」
「何だと?俺は聞いてないぞ」
「…眞王様には言ってませんしね」
「そうそう」
「ちっ…、お前からリオを掻っ攫って駆け落ちでもしてやろうと思ってたんだがな」
「駆け落ちしたら、君は手乗りサイズになるだろ?無駄だよ」


満更でもない眞王の表情に、こいつはマジだと村田は直感した。本当に眞王は人で遊ぶのが好きだ。凛央は村田だけでなく眞王の事も心から尊敬している部分がある。眞王の見目麗しい、胸中では何を企んでいるのかわからない素敵なスマイルで迫られれば凛央は拒否なんてできないだろう。村田が幾ら言った所で。村田が今できる対策は、とりあえず凛央を一人で託宣の間に向かわせない事だ。


「ま、でも俺もいつになったらお前等がくっつくのかと、苛々していたからな。いいんじゃないか」
「棒読みでお祝いされても嬉しくないね。とりあえず結婚式には呼んで上げるよ」
「あの眞王様、来て下さいますよね?」
「勿論。リオの花嫁姿は拝みたい」
「やっぱり君は消えたほうがいいよ…」


村田の苦労は尽きない。




眞王は悪戯っ子だといいです。
20090403




 


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