永久の絆



眞王廟の中庭。有利君と大賢者様の三人でこちらにスタツア。迎えに来たコンラッドやギュンターたちに有利君だけ連れて行かれ、残った私たちは着替えだけして噴水の縁に腰掛けてのんびりしていた。


「大賢者様、あの、こっちに来たなら眞王様にもご挨拶しに行きませんか?」
「えー、リオまでそんな事言うの?大体、眞王の所に行けばリオも僕も彼の玩具にされるのわかってるのに、行くの?」
「行かなくても、手乗り眞王様が来るかもしれないですが…、あ、でもそっちの方が性質が悪いなあ」
「きっとこの会話も眞王に聞かれてるんじゃない?もう別にいいじゃない」


過去とは違い、村田健である今の彼。あの頃は私よりも身長も高かったし格好良いと表現するよりも、美しいとか麗しいが似合う方だったから、私も、彼が好きではなく、慕っているという感じで。でも今の大賢者様は、魂は同じだけど年齢も一緒で身長も私より数センチ高いぐらいで、もっと砕けたような印象だった。今の彼は凄く柔らかい表情をする。格好良いがとてもしっくりくるし、慕っているではなく、好き、がぴったり。
ちょっと前に彼から、こんな僕が大賢者だったって知って失望した?と質問をされた。私はそんなこと絶対無いと、誓って言えた。どんな大賢者様でも、私は好きなのだから。


「ところでさ、眞魔国の皆は僕の事を"猊下"って呼ぶのになんで君はまだ大賢者様、なんて呼ぶんだい?」
「えっと。なんで、だろう…」
「ま、何でもいいけどさ。僕はもう隠居した身だし、眞王や現魔王の渋谷ならともかく、僕のこと主とか思わなくていいよ。ご主人様なら別だけど!それにさ、僕は大賢者の記憶はあるけど大賢者じゃない」


切なげに目を伏せた彼は上目遣いにこちらへ視線を向けた。ご主人様は遠慮しておきます、と言うと苦笑いしながら私の方へ両腕を伸ばした。私が気付いた時には身動きが取れなくて、視界は一面闇色に染まっていた。漂ってくる香りは大賢者様だけど、でもちょっと違う、村田健という彼のもの。抱き締められた私は少し照れながらも、唯一動かせる顔だけを上へ向けて彼の表情を覗き見た。
とても悲しく、孤独な瞳をしている。どうして。


「記憶が残ったまま魂が転生したとは言え、なんていうか他人の記憶が丸ごと僕の中にあるって言えばいいのかな。だから僕にとって四千年前の僕は他人なんだよ」
「それは、わかります」
「だからリオが僕を通して大賢者の時の僕を見ているのって、凄く妬けるし、辛いし、正直嫌だな」
「…でもそれは違う!私、貴方が自分の事を大賢者様だと明かす前は、その事を知らずにただ前世の記憶だけを持って生きていました。でも、やっぱり村田健として、ずっと好きでした」
「ほんと?」


頷いてみせると、背に回されていた腕が離れて、両肩を掴まれた。こんな時にまで私はこの方が格好良いとドキドキしてしまうのは可笑しいのだろうか。末期だなあ…。


「じゃ、さ。僕の事は健って呼んでよ。大賢者の"賢"でも良いし、村田健の"健"でも。それなら許す」
「…健ちゃんじゃ、駄目?」
「だぁーめっ!健ちゃんは渋谷のママさんが呼んでるから!」
「そんな事言ったら健って皆呼んでるんじゃないですか?」
「でも、やっぱ好きな子にはこう…シンプルに名前で呼んでもらいたいじゃん」


そんなものなのかな、と首を傾げてちょっと考えてみた。そういえば以前彼の家で一緒にギャルゲーをしていた時(私は見ていただけだけど)、恋人関係になったら絶対に彼女に自分の事を名前で呼ばせるのって、いいけどなんかベタ過ぎてやだとか言ってなかった…かな…。い、いや、ちょっと待って、ベタっていうか…。


「あの、け、健…。もしかしてなのですが、私は貴方と付き合う事になってるんですか?」
「違うの?ていうかイヤなの?」
「イヤ…じゃ、ないです…」
「じゃあいいじゃない。そうとなったら眞王に報告にレッツゴー!」


手を握られて、強制的に連れて行かれる事になった。先ほどまではあんなに会いたくないと言っていたのに。ずるいな、なんて思いつつもそれすら愛しく思えてしまう自分は余程この方が好きなのだと思い知らされる。四千年前から、ずっと彼を想い続けてきたのだから当たり前…かな。大賢者様の優しい眼差しも私は好きだったけど、強引な、でも頼れる健の事だってやっぱり好き。
私はね、貴方の魂に心から惚れているんですよ。




難産でした…。大賢者様って語りでも言うのってなんか変ですね。自分で書いておきながら。
20090402




 


あきゅろす。
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