俺と私の我が侭


パソコンに向かっている俺の背後で声を上げて楽しげにゲームをしているのは凛央。できるとも思っていなかった俺の彼女だ。それまでは彼女は二次元にいるのだと宣言していた俺だが、出会ってしまったのだ、こいつに。

俺の行く一橋大学は当たり前だがエリート校。だから俺と話の合う奴はなかなかいないし、ましてやギャルゲーの良さをわかってくれる者なんて俺の知る限りでは見つける事ができなかった。が、ふとした瞬間に目の合った女…凛央に何かを感じた。その、今でこそわかる同属同士の直感というのだろうか。何気に話し掛けて数度会話を繰り返しただけで感じた。
こいつだ、と。
凛央は乙女ゲーをやるわけでは無いが、今の所俺の趣味の一番の理解者だ。だから、恐らくゆーちゃんよりも凛央の方が俺の部屋に居座る時間は遥かに長い。


「ったー!倒した!勝利、やっとラスボス倒したよ」
「ほう、お前随分時間掛かったな」
「なんか、敵もまた格好良くて情が沸いちゃって、こう…躊躇っちゃったといいますか」
「……なるほどな」
「勝利もさ、もっと筋肉付けたらいいんじゃない?ほら、この主人公の筋肉凄く綺麗でしょ!」


凛央の一言にムッとなっていた。彼女は綺麗に付いた男の筋肉が好きならしい。だから、乙女ゲーの男は美形すぎるし細すぎると言う。RPGのキャラの方が凛央のツボに入るようで。彼女の言う事には応えたい…と思わないことも無いが、こんな風に綺麗に筋肉はつかんだろう。
ゲームをしている時の凛央はとてもとても活き活きしていて、俺にとっちゃどんな美人なハリウッド女優でも凛央には負けると思っている。そう、だから俺は男ばかりが登場するRPGでも取り上げずにいるのだが、最近、その画面の中にいる男に苛々している。


「…よし、俺は決めた」
「筋トレするの?」
「そう…じゃなくてっ!しばらく俺の前でゲームすんのやめろ」
「なんで…あの、焼き餅?」
「ああそうだ、悪いか!」
「そんなの、不公平よ」


俯いた凛央は上目遣いにこちらを睨み上げた。お前は、俺の弱点を一々突いてくるのが上手だな。でも駄目なものは駄目だ、そう言うと、スッと立ち上がり俺の方へと歩いてくる。怒っているというか、拗ねているのか?
そう考えているうちに、凛央は俺を通り過ぎてマイパソコンを操作しだした。表示されているゲーム画面を何故か慣れた手付きで終了させ、あろう事か、アンインストール、し、やがっ……た!


「凛央!い、いくら仕返しと言ってもやっていい事と悪い事があるんだぞ!」
「仕返しじゃないよ」
「…じゃ、なんだ」
「私だって、ゲームだってわかってても、二次元でも、勝利が女の子にデレデレしてたら嫌に決まってるでしょ、」


…泣いてる?
だが、ギャルゲーも最近は以前に比べれば自重してるし、女の子の名前もリオ…とかにしちゃってるし、それの何処が悪いのだと俺は思った。


「貴方の考えてる事はまあ、大体わかるけどね、なんか嫌よ。私に不満あるみたいじゃない」
「不満なんてあるものか。愛着のある名前をつけようと思った結果だ。全く…」
「でも勝利がやめないなら、私もゲームはやるからね」


凛央の言うことはご尤もなのだが、俺は納得いかない。その内都知事、いや内閣総理大臣にでもなって、彼氏持ちの女性は乙女ゲー禁止なんていう法律でもつくってやるよ。そう言えば、凛央は彼女持ちの男はギャルゲー禁止だと反論してきた。ま、俺の単なる独占欲だけで考えた法律なんて採用されないだろうがな。


「とにかく、安心しろ。今まではゲームのリオちゃんが恋人だったが、お前には敵わんさ」
「約束してよね」
「お前もな」


ゆーちゃんがこの場にいれば、なんつー馬鹿馬鹿しい言い争いをしているんだと言われそうだが。ぎゅ、と華奢な体を抱き締めてやれば、弱弱しくも俺の背に腕が回された。ああ…、感触があるって素晴らしいな。ゲームをしていると偶に、この女の子は現実にいないのだと虚しくなることが幾度かあった。そんな感情が今は満たされている。マジで幸せだ。


「…リー」
「なにそれ、私の事?」
「勿論。ちょっと、しょーちゃんって呼んでみてくれないか?」
「し、しょー…ちゃん…?」
「くうっ!やっぱ堪らない!」
「……」


さすがに血縁関係があるわけでは無いから、お兄ちゃんって言うのは問題がありすぎる。が、この呼び名でも全然、いける。お袋に呼ばれる時とは大違いだ。何か俺、元気になった。根拠は無いが、今ならどこまででも全力疾走できるぞ。
決してモテなかったわけではなく、ただリアルに彼女が欲しいと思わなかったこの十数年の人生の中で今が一番幸せかもしれない。



******

法律がどうのこうのっていう会話をさせてみたかったのでした。
20090325




 


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!