倦怠スターライト


俺は、故郷の幼馴染を護れるように神羅で強くなるつもりだった。今も変わるはずは無いのだが、それをも凌駕するほど強烈に憧れてしまった英雄がいた。一人はセフィロス。その名を知らぬ者は居ないほどあまりに有名なソルジャーだが、やっぱり強くて。
(俺もそれくらい強くなりたい、んだと思う)
もう一人、いる。セフィロスと同じくクラス1stで、女性であり本当に実力でそこまでのし上がったソルジャー。美しく舞う様な剣捌きが頭から離れない。それは憧れとは違うのかもしれないけれど。


「まあ、神羅兵の俺なんかじゃ***と会話なんて一生無いかもしれないけどな…」
「…おい何ぶつぶつ言ってんだ?明日早いんだからクラウド、さっさと寝ろよ」
「分かってるって。少し散歩したら寮に戻る」
「オッケー、じゃーな」


一般兵の中でできた数少ない友人と別れ、俺は中庭をゆっくり歩いていた。戦闘能力は決して悪くはない、そう評価されたが問題は身体の方だった。気弱なのは自分でもよく理解してるし、それに体質的に筋肉がつきづらくて、体力もある方ではなかった。その時点でソルジャーには不適切だと切り落とされてしまったのだ。
ふう、と一息ついた時、どこからか足音がこちらへ向かって近付いてくるのがわかった。軽い足取りから女性だと予想ができた。でも誰だろう、適当に歩いていて迷ってしまったのだろうか。あまり俺のいる此処は人が多く通る場所ではないのだ。


「あれ、先客?」
「あ…貴女は!***、さん…」
「うん。邪魔したならごめんなさい、去ります」
「い、いえ、俺は邪魔じゃないですから」
「そう?それなら」


憧れの女性が、そこにいた。まさかこんな所に一人でいるなんて誰が考えようか。いつもコートを羽織っているのだが、それを脱いでいる所為か若干幼く見える。確か俺とほぼ同い年だったはず。
そう、歳が近いから俺は憧れたのだ。


「その敬語やめてくれない、クラウド」
「え…っ、俺の名前」
「ザックスから聞いたよ。可愛い後輩だって」
「…俺は可愛くない、し」
「あはは!だよね、うん、クラウドは十分格好良い」


やはり女性だから俺よりも身長が低い。下から覗き込まれて、俺は思わず身を引いてしまった。やばい、凄いドキドキする…。俺が遠くから見ていた***はもっと大人で、完璧で、勝手にそういう人物像を描いていたのだが、こうして話すと思ったより歳相応なんだなって思った。
遠くなんか、ない。


「俺なんかカッコよくなんてないよ。それならザックスとか、セフィロス、とかの方が…断然カッコいいと思うけどな」
「 …うん、でもザックスはお兄ちゃんっていう感じだし、セフィロスは……次元が、違うかな」


俺はその名を口にした時の***の小さな肩がふるりと震えたのを見逃さなかった。でも薄着だし、ただ寒気がしただけだと思ったから、着ていたカーディガンを***にかけてやった。


「クラウド、寒いんじゃない?」
「俺よりも***の方が、な。風邪引いたらまずいんじゃない、任務とかあるだろうし」
「う、ううん…ない、ないから、別に風邪なんて引いても平気だし」
「…?」


俺は自分が案外洞察力の良いことにとても感謝した。***がカーディガンを羽織りなおした時、首筋に紅い痕が、ほんの少しだけ見えたのだ。もう血を吸うような虫は殆ど見かけない、から虫刺されなわけない。不自然に一箇所だけ見える。多分、誰かが残したキス、マークな、わけで。


「なあ、明日風邪引かないと何かあるのか?」
「っ、!?そ…な事は」
「じゃあこの痕は誰に付けられたんだ」
「ひ…、いっ、いや…クラ…」


それを問うた瞬間、***の目尻に涙が浮かんだ。つまり、誰かに無理矢理…?そう考えたら沸々と腹の底から黒い怒り、否、嫉妬のような、何かがわき起こるのが自身でもよくわかった。
やっぱり、俺、***に少なからず好意を抱いてたんだな…。
納得したら後は早かった。辛い事を溜め込ませるのは苦しい。だから少し無理をしてでも話を聞きたかった。


「誰、誰にやられたの」
「……―――― とか、」
「とか?」

小さく頷いた。

「女性ソルジャーとか騒がれてるけど、…あまり良いこと無いのね。誰も自分の実力を見てくれないし、何処に行ってもセフィロスと比較される。別にセフィロスを嫌ってるわけじゃないけど、ほんと…こんな事になるなら…神羅なんて」


隣に座る***は、きっと俺が思うより普通で、だからこそ重い責任や勝手に神羅のアイドルという位置に立たされているという事で疲れている。でも人前で見せないからこそ、その重荷が無くなる事がない。ただ強くなりたくて神羅に入社したのに、そんな感じなんだろうな。
無意識の内に抱き寄せていた。
ほんの数分前まで、ただの英雄でしかなかった***なのにその数分で沢山のことを知った気がする。


「いいよ、離して。あたしっ、シャワー浴びてないから、汚い…」
「そんな事ないって」
「でも、今日だけじゃなくて、ずっと前から」
「だけど俺、好きだよ」
「……は…?」
「うん。もっと好きになった気がする」
「…も、物好きめ」
「そんな事ないって」


***のいう汚す…そういう事をした奴、は、物凄く許せない。"あんな人"じゃなければ今すぐ殺してやりたかった。だけど、俺も未熟で、全然敵わないのはわかってて。
そんな奴には感謝したくないが、真っ白で純潔な存在で、強く気高く、まるで神の様な位置にいた俺の中の***より、(凄く言いたくないけどでも、)なんでだろう、今の***に愛しさが溢れてくる。
***は綺麗だ。だけど、汚さも知っている、それはまるで、堕落した天使のような。鈍く輝く光が俺を引き寄せたのだと思う。


「俺、歪んでるのかな…」
「……クラウド…?」


涙で濡れた***はとてもとてもうつくしいと、思ってしまった。



(大丈夫、俺がつけ直す!)
(ほんとに大丈夫なの…?)


こんなはず…では…
20090828




 


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