I'm changing today!


私は昨日からずっとセブンスヘブンに入り浸り、唸り続けていた。クラウドが荷物の配達で一日いなかったのはラッキーだった。でもそのラッキーを全く活かせなかった私は、今日、彼の誕生日当日を迎えてしまった。何をプレゼントしたらいいか、わからないのだ。毎年プレゼントをあげているから、もうネタ的なものが尽きてしまった…とかそうじゃなくて。


「ティファー…どうしよーうー」
「何悩んでるのよ、そんなの私がアドバイスするまでもないでしょ?クラウドは***がなにをプレゼントしても喜ぶだろうし」
「でも…お菓子とかなんて自分の柄じゃないっていうか」
「…それは惚気?それとも私に喧嘩売ってる?」


ハッとしてカウンターに伏せていた顔を上げた。そうだった、ティファはいつもと同じ顔で、笑顔で私といてくれるけど、私よりもずっとずっと前からクラウドに想いを寄せていて。本当ならクラウドの隣にはティファがいるはずだったのだ。私だって譲るつもりはない、けど、ティファに見せ付けるためにここに来ているわけじゃない。
ごめん、とすぐに謝った。
私とクラウドが恋人という関係になった後、ティファはクラウドとマリンちゃんとデンゼルくんと家族という関係でいることを決めた。クラウドを支えるために、そう納得したらしい…けど、あまりその話に触れた事はない。そういう話をすると決まって私は気まずくなって口を開けなくなるから。


「いいのよ、でもどうしてそこまで悩むの?クラウドよ、相手は。アクセサリーでもあげれば喜ぶと思うけど」
「そうかなあ、なんかね、自信がないの。普段からプレゼントとか記念日を祝うとかするようなマメな性格じゃないから、改まってクラウドをお祝いするのが恥ずかしくて」
「照れてたら何もできないでしょ!そんなに悩んでると私がクラウド奪っちゃうからね」
「っ!」


冗談よ、と笑ったティファ。あんまり冗談に聞こえなかった。心臓に悪いです…。すると、その間を狙っていたように入り口の扉が開き、クラウドがバイクのキーをくるくると回しながら入ってきた。


「ただいま」
「あ、お帰りなさい」
「クラ……っ、あの、お、おかえり」
「?***、何て顔してるんだ」
「あ、いや、なんでもないっていうか」
「ふふ、わかってるくせに。クラウド、今日は貴方の誕生日でしょ、***とゆっくりデートでもしてきなさい」


濁さずに言うものだから、クラウドと目が合った途端に顔が熱くなるのがわかった。同じく、視線の先の彼もほんのりと頬が赤い。照れてるのかな…?ほんと、私そこらの可愛い女の子みたくお洒落しないし、スカートなんてはかないし、よくボーイッシュだよねって言われるくらいだから、こんな風にもじもじするなんて自分じゃない、おかしい!
今日はいつも通りのテンションになれない。そう、クラウドにお誕生日おめでとう、って祝福することさえ自分らしくないと縛っているからだ。きっと。


「とりあえず、俺の部屋来るか?」
「えっと…!?」
「ティファにからかわれるのはご免だからな。シャワー浴びてくる」


クラウドの言いたい事がよくわからなかったけど、今、この半パニック状態の私は彼の意図なんて考えてる余裕もなくて、階段を上り始めたその後ろ姿を見て慌てて追った。シャワーを浴びるっていうのは本当だったようで、部屋で待ってろと一言告げられた私は、クラウドが浴室から戻るのをそこで待つこととなった。
なんとなく落ち着かず、そわそわと部屋を見渡していると偶然全身ミラーを見つけた。そもそも今日はクラウド、こんなに早く帰ってくるとは言ってなかった…はず(ティファ談)そう、だから今自分が身に付けている服は普段着で、英字のプリントが入ったTシャツと太腿上くらいのレザーパンツという格好なのだ。クラウドが帰ってくる前に着替える事を考えていたのに…、一人になった今、少し惨めな気分になってしまう。


「あ、クラウド、ふ…ッふく!」
「ん…ああ、いいだろ?別に」
「よくないっ!です!」
「……わかった」


バスタオル一枚、腰に巻いた姿で戻ってきた。何を考えているのだと、つい強く言ってしまった。ごそごそと服の生地の音が聞こえて、ようやく私は瞑っていた目を開けた。心音が落ち着きそうになった途端に、座っていたソファの隣にクラウドが腰を下ろすものだから、再びどきどきと動き出した。


「あのね、今日はちゃんとクラウドの誕生日、何かしようって考えてたのに、全然思いつかなくて、」
「だから唸ってたのか」
「うん、まあ…。全然なかったわけじゃないよ、でも、クラウドにお菓子作るのも…私が作ったんじゃ嬉しくないかもしれないし、そもそも甘い物とか美味しい物ってティファが作ってくれてるだろうから、要らないかなって…思って」

つまりティファに少なからず嫉妬しているのだ。ティファはなんでもできる、私からみても尊敬できる女性だから。

「そんなことは無いと思う。必死に悩んでたんだろ?それだけで俺は幸せ者だな。只でさえお洒落に興味ないお前が寝間着と変わらない服で今いるんだから、それがいい証拠だ」
「っ!!!!!!う、うるさいな!仕方ないでしょ!余裕なかったんだから!」
「わかってるわかってる」


クラウドがクスり、小さな笑い声を漏らし、それを耳に入れてしまった私は思わず俯いた。こんなドジな性格じゃなかったはずなのに、どうして今日に限って上手くいかないのか。恥ずかしくて、いっそ今日祝うのはやめてしまおうか、と考え始めてさえしまった。
頭に彼の手が乗せられた。子供扱いされてる…。ぎゅっと固く握った拳を見つめていたのにそれがぼやけてきて、肩が震えた。……え…なに、私泣きそうなの…?情けない、クラウドにだけは見られちゃいけない、必死に我慢しようとしてるのに頭に感じる別な体温がそれを許さないと言っているようで。

だから、不意に離れたそれになぜか今は安心した。


「…クラウド?」
「ずっと欲しいプレゼントって言うのであってるかわからないけど、うん、欲しい物があって」
「私がそれをプレゼントできる…」
「ああ、***だけだ」
「う、うん」


今度は、気恥ずかしくて、俯いた。あんまりこれが欲しいとか言わないクラウドの欲しいものって一体何なのだろう、想像がつかない。
そう考えていると、後ろから何かを掛けられた。ばさっ、という音とともに結構な重さの…布?


「これ、なに?」
「服」
「なんで」
「***の普段着てる服も嫌いじゃないが、俺が選んだ服も着て欲しかった…というか…駄目か?」
「そんな、ことは」


背中にある、その服をどうにかして全部脇に降ろして、見てみるとふんわりとしたシフォンのワンピースや女の子らしい可愛さともまた違うけれど、私じゃ絶対選ばないような、上品な可愛さが漂う服が数着、あった。靴もあった。鞄も、全部揃っていた。


「え、やだやだこんなの、もらえないし…私着たらおかしくなる!」
「ならない。それに言ったろ、欲しいものって」
「でも、私何もあげてないよ?クラウドから貰うだけになるよ」
「俺が選んだ服を着てもらえるのは俺にとっての最高のプレゼントなんだ。つべこべ言わず、着ろ」


クラウドの手が私のTシャツの裾に掛かった。何をするのだ、とそれを目で追っていると、躊躇いもせずにTシャツの裾を捲り上げた。つまり、着ないなら無理矢理、着せると言いたいのか…!もう選択肢はひとつしかなかった。クラウドの手を払いのけて、空いてる個室を借りて、私が着れそうな、なるべくシンプルな服を選び着ることにした。
とは言え、スカートしかないこの洋服バイキング。どれも私が選ぶには勇気が必要。可愛すぎないように、でも本当はクラウドの期待に応えたいって、少なからず思っている自分がいるわけで。膝上十センチは軽くある黒のスカートとそれから少し風が吹くとひらりと揺らめくような柔らかいキャミソールに袖の短いジャケットを手に、服を脱ぐ事を決めた。


「…着替えました」
「お……… おお」
「え、なに、…ヘン?」
「いや、違う、逆。もっと早くに着せてれば良かった。凄い似合ってるよ」
「っ、ほ、本当に?お世辞とか私嫌いだからね」
「お世辞なわけあるか」


ふわり、といつも人前じゃ見せないほどに柔らかく笑ったクラウド。似合うわけが無い、と思っていた私でさえ、意外にこういう服も着れるんだって自信がもてるくらい。ずっとどきどきして、いつもみたいになれないけど、でもなんだかその擽ったいような感覚も今日はいいなって思えた。
女の子らしくいれてる、かな…?


「クラウド…誕生日おめでとう。私、こんなだけどもっとクラウドのために頑張るから、ずっと一緒にいて、ね」
「…そんなの当たり前だろ、馬鹿」


ぎゅ、と握られ部屋を出て行こうとするクラウドを見上げて私はこっそりと微笑んだ。デート行くか、と言ったクラウドはこんな服着せておいたくせに、ちらりと見えた頬を赤く染めていた。



I'm changing today!
(これ、持って行って)
(?なんだこ……れ……ティファ!!)
(真っ赤な顔でクラウドが怒っていた)


遅ればせながらはぴばでした!おめでとうクラウド!
20090813




 


あきゅろす。
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