紙一重の関係



幼い頃に両親が殺されてしまった私。偶然出会い、そこから仲良くなった私は彼、ルーファウスと兄妹のように育っていった。プレジデントが私のような孤児を引き取ってくれたのは、親切心ではなく将来神羅に入社させるためだったそうで。世話になったお礼もあったからそれを拒絶はしなかったけど、基本的に私はルーファウスの部下として働いている。
プレジデントに下心があってもなくても、私はきっとルーファウスのところを離れはしなかっただろうけど。


「え?八番街に!?」
「ああ」
「行っていいの?ていうかそれ、任務?」
「いや、俺直々の命令だ。気になっていたアクセサリーがあるものでな、買ってこい。釣りは***にくれてやる」
「いや…それで喜んで行くほどお金に飢えてはいないよ?それに、ルーファウス、今日の仕事が終わってから買いに行けばいいんじゃ…」
「いやだ。この俺が申し出ても取り置きしてくれない宝飾店なんだ、売切れてしまっては困る」


平静に会話をしているように装っているけど、私の居場所、この副社長のお膝上で。なんでこの人は私を玩具のように扱うのかがよくわからない。昔馴染みだから、肩の力を抜いていられるのは、私にとっても嬉しいことだけど、それでもこれは一歩間違えるとセクハラになるのでは…。
それに性格が悪くても、見目麗しい容姿をしているからこれだけ至近距離で頼まれると断るに断れないというか、その前に一応私勤務中なのにこうやって遊ばれてていいんだろうか…。


「副社長、もう降ろしてくれませんか。首元に息がかかってくすぐったいです」
「それは気持ちいいの間違いではないのか?」
「違います!」
「…ちっ」
「舌打ちすな!」
「口が悪いぞ。そうだな…、買いに行ってくれるのならば離してやろう。行かなければ…」
「…い、行かな、ければ?」
「この場で押し倒し」
「行ってくる!ルーファウス!楽しみにしててねっ!」


ルーファウスの着ているスーツの中に手を突っ込んで、中ポケットから財布を奪った。値段がわからないけど、どうせ彼はこの財布には小遣い程度しか入れてない、なんて言うのだろう。借りて行きます、と言ってから部屋を出た。
神羅の社員玄関を出た辺りで、後ろから変な視線を感じた。悪寒とも違うんだけど、不思議に思って振り返ってみたらその視線は消えた。

「なんだったんだろう?」

ちらりと赤いものが見えたような気がした。まあ、いいかと私は言われた宝飾店を目指した。八番街っていうより、ラブレス通りじゃないの?あの店って…。絶対申し出たなんて嘘だ。行ってはいないはず。

「…でも、一人で出掛けるの本当久し振りだなあ」


いっつもルーファウスがくっついてくるし、帰りは寄り道厳禁だと言うので、勤務日は家と会社の往復しかしていない。家といっても相変わらずルーファウスの家でお世話になっているので、買い物に行かなくても何も不自由がない。だからこそ、こんな生活が続けられているんだけど。ね。

ドンッ、と誰かの肩がぶつかったことで私はハッと我に返った。


「す、すみません!」
「あぁ、平気です、こちらこそすみません」


私はタークスやソルジャーのように訓練を受けていないので生身で戦ったら絶対勝ち目はない。ぶつかったのが女性で助かった。
少し歩いて、ようやく目的の店が目に入り、私は速度を上げて向かった。入り口の自動ドアが開いた瞬間、来た道の方から大きなバキッという音が聞こえた。反射的に振り返ると引き摺られるようにビルの影に消えてゆく男の人の足が見えた。そして、また赤い物が見えた。血じゃない。神羅で見たあれと同じものだった。


「いらっしゃいませ」
「(まいっか) … あの、期間限定のシルバーブレスレットがあるって聞いたのですが」
「はい、ございます。少々お待ちください」
「はい」


カウンターに立っていた女性が店の奥に行った。その間に私は財布を出して待っていようと思い、着ていたスーツのポケットに手を入れた。
ごそごそ、ごそ…ごそ…
ない。入っているのはハンカチとティッシュと自分用のメモ帳とボールペンだけ。他のところに仕舞ったのかもしれない、胸と内ポケット、パンツスーツのポケットも調べたけどない。

(落とした…!?)

折角店員さんが取りに行ってくれているのに外に出るのも申し訳ないし、どうしよう、と半ば混乱状態で辺りを眺めていると、肩にポンと誰かの手が乗せられた。人が焦っているのに話しかけないでよ!もう!


「なんですかっ」
「おお、これ、あんたの財布だろ?さっき外でぶつかった後落としてたぞ、と」
「え、…そうだったんですか。てか、あのレノじゃないですか。もしかしてずっと着いて来てた?」
「まーな。副社長のパシリ」
「はあ?なんで、レノもついにストーカーし出したのかと思った」


人が折角本物のストーカー退治してやったのによぉ、とぼやきながらも財布を手渡してくれた。本当にストーキングされてたのか、私は。そんな体験一度も無いから、考えてみたらゾッとした。そう思えばレノが着いてきた事には感謝しなきゃいけないのかもしれない。

無事、ブレスレットを購入し、帰りはレノと横に並んで本社に戻った。ルーファウスの護衛として何かと一緒に行動する機会が多いので、レノとはまあまあ仲の良い友人なのだ。扱き使われて可哀想だなと思うこともあるけど。


「ルーファウスーただいま、」
「そこを動くな、レノ」
「うぉあ!?ちょ、副社長!?なんで俺銃向けられなきゃいけないんですか、っと!」
「貴様、宝飾店で***の肩に触っただろう。その行為は死罪に値する」
「ちょ、ルーファウス!やめてあげて!レノは助けてくれたんだよ!?ていうか何で知ってるの!?」


ルーファウスの右手に構えられているのはいつもの銃。その先はレノの首元。口は笑ってるんだけど、目が本気で。私は必死に彼の右腕にすがり付いて下ろさせた。ルーファウスは溜め息をついてから銃を懐へしまい、レノのスーツの胸ポケットの辺りへ手を伸ばした。


「それは?」
「CCDカメラだ」
「…全部見てたってわけですか。俺の事信用してくれないんだったらご自分で行かれればよかったのに、と」
「俺はいつも着いて行ってやってるからな、一人で行ったら寂しくなるんじゃないかと試してみたまでだ」


そのために高価なブレスレット買ったわけですか。そこまでするルーファウスに私は思わず脱力してしまった。だけど、少し一人は心細かったよ。


「…次は、一緒に行こうね」
「当然だ」





ルーファウス夢
過去拍手お礼でした。
20090502




 


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