銀の絹糸



私は、彼の銀髪が大好きで。万人を魅了する作り物の笑顔ではなく、私にだけ見せてくれる純粋な笑顔をより一層美しくみせる銀髪は世界一の輝きをもっていると私は思っている。とは言っても、その持ち主であるセフィロスは髪の毛の手入れなんかしないし、そもそも美容なぞには無頓着もいいところだったりするから、代わりに私が無理を言ってメイドの如くセフィロスの髪に関しては一任しているわけです。
最初は、シャンプーさせられたり、トリートメントを浸透させる為の時間が勿体無いと言い、かなり苛々していたのだけれど、その時間を退屈させない為にマッサージを覚えたりアロマを焚いてみたり、とにかく頑張った。本当は私、神羅社員なんだけど、その勤務との両立は結構大変。でも、努力のかいあってセフィロスの髪の毛が以前よりしっとりするのがわかると、その多忙さも平気になってくる。


「さーてセフィロスさん。今日は長期任務お疲れ様でした」
「ああ。というか、何故敬語…」
「なんとなく、だからあんまり気にしないでおいてね」
「で、風呂か?」
「汗も流したいでしょ?行こう行こう」


私より遥かに長身なセフィロスの背を頑張って押して浴室へと向かう。これはセフィロスのイジメなのか、私に体重を掛けるように凭れてくるものだから、私は必死になって彼を押さなくてはいけない。辛いっす…。こっそりセフィロスの顔を見遣ろうと、視線を上へ向けると私の方を見ていた。意地悪く、尚且つ極上の笑みを。なんていうか、美人はずるい。


「あのね、外に出てるときぐらいは髪の毛結んで欲しいなあ。そのままにしてると傷みやすいし、返り血浴びた時とか酷いじゃないの」
「だったら***が俺の髪を切ればいいだろう」
「それは駄目です!」
「…これでも以前よりは気を遣うようにはしているつもりだ」
「確かに前は、べっとりだったからね…」


とは言え、ゆったりとした椅子に腰掛けて寛ぐセフィロスの髪を丁寧にお湯で洗えば、パリパリになるまで乾いた血がいつまで経ってもお湯に流れている。こういうときはセフィロスには申し訳ないけれど時間を掛けてシャンプーするしかない。そういうわけなので、一旦お湯を止めて、リビングに戻りセフィロスの為に作っておいたケーキと彼もお気に入りの曲がセットされているCDプレーヤーを持って浴室にもう一度向かう。


「なんだそれは」
「これならセフィロスも食べれるかなーと思って、作ってみたの」
「…チーズケーキか」
「そうそう。自分では気付かなくても、結構疲れてるだろうし、こういう時は甘いものを食べてリラックスしてね」


プレーヤーのスイッチを入れて、セフィロスがチーズケーキを口に運ぶのを確認してから私はシャンプーのポンプを三、四回押した。最初は泡が立たないのも仕方ない。とりあえず汚れを落とさなくては。今取った分のシャンプーは地肌や毛の根元用。ある程度洗ったら今度は毛の中辺りや毛先用にまたシャンプーを手に取る。セフィロス本人が洗えばさらに数倍はシャンプーを消費する…、というか一度の洗髪でボトル一本使い切ってしまうのだから余程洗うのが苦手とみた。髪にも悪いのに。


「…今更だが、いつもこんなことさせて悪いな」
「気にしないでよ、私は好きでやってることなんだし、ね?」
「まあ、そうだな。最初は本当に迷惑だったんだが、***の手が凄く心地良くて、今は感謝してる」
「ありがと」


お湯で一度目のシャンプーを流しながら、言われたセフィロスの言葉に嬉しくなって、小さく小さく鼻歌を歌っていた。彼からこうやってお礼を言われるなんて本当に珍しくて、それこそ国宝レベルだったりする。一通り泡を流してからもう一度、同じ要領でシャンプーをセフィロスの髪に馴染ませる。先ほどよりも大分泡は立つようになった。今度は少しマッサージするように地肌を洗っていると、本当に小さいけれど彼の口元から寝息が聞こえてきた。セフィロスは人前で寝るような事はしない。警戒しているのだ。だから、こうやって私のすぐ傍で肩の力を抜いて、こうやって歳相応な表情を見せてくれるのがとても幸せだったりする。
…睫毛長くて羨ましいな。セフィロスの髪の手入れにこだわっている場合ではないのかもしれない。


「よし、あとは数分置いてトリートメント流せば終わりかな」
「…ん…あ、俺…寝てたか?」
「ごめんね、疲れてる所。浴室じゃ大した睡眠なんてできないから、髪乾かすまで我慢してね」
「それは構わんが」


寝起きの微妙に呂律が回っていないセフィロスは存在そのものが、こう…女心をぎゅぎゅぎゅっと鷲掴みされるような感じで、ファンの子が見たら絶対に鼻から出血多量間違いなし。
しばらく、トリートメントを浸透させるのに時間をおいてから、丹念にそれを流し終えて、タオルで髪を包むと、セフィロスはゆっくり立ち上がって長い腕をぐっと天井に向けて伸ばした。私も少し体勢に無理があったのもあって体の筋肉が凝っているような状態だ。


「お疲れさん」
「セフィロスもね。じゃあ、最後に乾かして…」


その先は、セフィロスの唇によって遮られた。


「ちょっ…と…!」
「お礼な」
「いや、あのいいから!は、早く行って!」
「はいはい」


これからは、ほんのちょっとだけ、このお礼を期待して一層セフィロスの為に頑張ってしまいそうです。





過去拍手お礼でした。
20090502




 


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