もっと、もっと、


パンデモニウムへ赴いた私の目の前には、フリオニールの仇敵である皇帝殿がいる。別に彼の罠に嵌まった訳でもなく、己が意思でここへ来た。私一人、敵意も見せずに皇帝殿の前に立っている事に彼も少なからず疑問を抱いているようだ。


「貴様、フリオニールの女だな」
「そうね」
「何故此処に?その様子だと私を討ちに来た様にも思えぬが」
「…貴方の下に就きたいと思って」
「何?」


自分でも馬鹿な事をしてるという自覚はある。今まで、私たちの倒すべき敵と、刃を向けてきたから。これを知られたらフリオニールも失望するかもしれない。もしかしたらティーダやセシル達に敵だと認識されるかもしれない。それでもいい、と、皇帝殿の所へと来た。フリオニールが嫌いなんじゃない、私が我が儘なだけ。私を見下ろす皇帝殿の元へ一歩ずつ歩みを進める。それができたのは相手も私に殺意を抱いていないから。


「ほう…。貴様は彼奴から私へ乗り換えるつもりか、今まで私に剣を向けてきたにも関わらず」
「それは、フリオニールが貴方に剣を向けたから。それだけ。私自身が貴方を敵視していたわけでは無いのよ」
「…まあ、知ってはいたが」


もう一歩、足を前へ出せば皇帝殿との距離はゼロになる。それでも彼が杖を振るう様子はない。私も武器を出していないからだろうか。私だって魔法を使えるんだけど。でも、少なからずそれに嬉しさを持った私は躊躇う事も無く皇帝殿に触れ、身を預けた。直後、頭上から彼の見下すような笑いが聞こえた。こういうの、嫌いじゃない。


「私を選ぶとは貴様も随分物好きだな」
「…自分で言う?」
「本当の事であろう。―…理由を聞こうか」
「確かに、フリオニールは貴方と違って優しいわ。でも、なんだか物足りなくって。優しすぎて隙間を感じてしまうのよね。だから、身も心も束縛してくれるような人……、貴方の所に来たわけ」
「………本当に、変わっている。だが、悪くは無い」


その後に背中に添えられた皇帝殿の手に、爪が喰い込むほどの力が籠められた事を素直に嬉しいと感じて、頬を彼の胸元に摺り寄せた。変わってる、物好き…―好きに言えばいい、変態のマゾヒストと言われても構わない。それでも、優しくて温かいフリオニールのところでは満足出来なくなってしまった。上から刺すような物言いの皇帝殿に惹かれてしまったのだ。


「私も、元々貴様に興味が無かった訳ではない。光栄に思え、逃げようものなら殺す」
「…首輪でも付けておいたら?」
「クク、それもそうだな」


私が見上げればキスをしてくれた皇帝殿に、じわじわと思考が麻痺していくのを感じた。…私が求めていたのはこういうの。別に、コスモスの皆と敵対する訳ではない、元々その争いに興味は無かったから。いいでしょ?


「では、私の事を二度と皇帝とは呼ぶな。マティウスだ…―***よ」
「はい……マティウス、」
「それでいい…」



(ちなみに、私奴隷じゃないから)
(……)
(…そのつもりだったのね)


…すっ、すみまっせーん!!
20090209




 


あきゅろす。
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