差し伸べられた優しさ:6



***の部屋は暗く、勿論ライトをつければ明るくはなるがカーテンもまだ夜でないのに閉めたままで。セフィロスが 電気をつけろ と言ったものの***がオンにしたライトはやはりぼんやりとしたものだけだった。どことなく心配になったセフィロスは隣同士でソファに腰掛けていた***の肩を寄せた。
―ここへ来るまでも思ったが、こいつ…痩せた…?
元々線の細い女性だとは思っていたセフィロスだが、触れた肩の骨がしっかりと出ていて手にその感じが伝わってくる。部屋が薄暗いのもあってか、表情も虚ろ気に見える。


「***、お前ちゃんと食っているのか」
「…え、ええ。食べてるわよ」
「その割にはやつれているんじゃないか?」
「そんなことないのに。…あ、そうだ、ちょっと待ってて」


セフィロスがここで一緒に部屋を出ては、万が一ルーファウスに目撃された時に問題があるからだ。頼りなく駆ける***の後ろ姿に不安を覚えつつ、それ以上に邪魔そうに靡くスカートが気になった。邪魔なら手で裾を上げておけばいいものを、と。それを気にしている余裕が無いほど、急いでいるのかと思うと自然にセフィロスの表情が緩む。幾分も経たぬ間に先程よりテンポの遅い…それでも足早な音が近付いてきた。


「……もう2人分作るの、やめようと思ってた…けど、止めないで良かった」
「ルーファウスの分だったのか」
「ええ。でも…結局1度も食べてもらえなかったわ」
「そうなのか。……―美味いと思うがな」
「有り難う、きっとルーファウスにとって私の料理を食べる事、いえ…彼の分の食事を作るという事自体目障りだったんだわ」


諦めたように笑む***。何故かわからぬまま胸を締め付けられるような気持ちになったセフィロス。とても悲しい笑みであるはずなのに退廃的な色香を漂わせ、以前見た彼女と違う雰囲気を纏ったそれに何時の間にかセフィロスは、***をぐいっと引き寄せていた。全体のライン、寄せた時に触れた腰、バランスをとるために胸板に添えた指。全てが硝子細工の様に脆く感じて、彼らしくもなく切なげに目を細めていた。


「…どう、したの」
「お前がルーファウスの元にいるのが不安で、嫌で堪らない」
「セフィロス…」
「仕方ない事も、お前の意思でないのもわかっているつもりなのだが…このまま俺が攫って行きたいくらいだ」
「……ッ」


セフィロスが言った言葉ひとつひとつが今にも凍り付きそうだった***の心にじんわりと染み込んできて、解けた緊張と共に涙となり頬を伝った。手で拭おうにも***の手は丁度セフィロスと自分の間にある為、上手く動かせず彼の服まで濡らしてしまった。それに気付いたセフィロスが***の顎に指先を掛け持ち上げるとそれを避ける術が見つからなかった***の泣き顔はそのまま見られる形となった。
恥ずかしい―…けれど見上げたセフィロスの瞳が不安定に揺れていることに気付いた。きっと、こういう感情を持った事が無いのだろう、仕草のひとつひとつは様になっているのに戸惑っているようにも思えるのだ。それを嬉しく感じた***は涙が止まらないのに、口元は笑みを浮かべていた。


「ありがとう、凄く嬉しい。本当に…婚約もあの人でなくて貴方だったら良かった」
「…俺も、そう…思う。いつかそういう意味で、迎えに来てやる」


言った後でセフィロスは***から顔を逸らした。耳がほんの僅かだが朱に染まっている。プロポーズ染みた事言ったのに気付いたらしい。何かあったら連絡しろよ、そう言うとセフィロスはまたテーブルに置かれた食事に箸をつけた。じっとセフィロスから視線を逸らさない***に本気で照れているのか、食事を摂るよう促され、わかったと返事を返せばその声は笑が混じっていて。こう言うのが普通の恋愛なんだと、***は感じた。



――――



青年はキッチンから何かを持って駆けて行く女の姿を見、首を傾げた。リビングを通り越しどこか別の部屋へ行くらしい。足取りの軽さにも疑問を浮かべ、客を待たせているにも関わらず彼は後を追った。
両手に何かを持っていた所為か扉が完全に閉まらず僅かな隙間が開いていた。そこから気配を消して覗けば追っていた女と、もうひとり銀髪のよく知った顔があった。地獄耳な彼は会話の内容もしっかりと聞き取る。


「(…柔らかい表情もできるのか)」


決して自分―…ルーファウスには見せなかった顔。あんなに砕けた口調も聞いた事がない。銀髪の…セフィロスに触れられても嫌な素振りひとつせずに寧ろ、それを受け入れ安心しているようにも見えた。それだけ自分は嫌われていたのだろうか。否、違う。ルーファウスのとってきた言動ひとつひとつが原因なのだ。ただ、親に言われるままに婚約をし、相手には嫌われ、自由も奪われた彼女を自分がそうさせたのに哀れに思っていたルーファウス。
聞こえてきた彼女の明るい声に、気付かぬ内に拳を強く握り締めていた。




(身体全部に染み渡る)


甘いお話が少なくなりそうだと思ったので。
20090124








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