差し伸べられた優しさ:3



しばらくして、私は大人しく70階の対談室に戻る事にした。遅かった事、ひとりで行動したことを咎められるかもしれないけれど、ちゃんと従えばまた会えるかもしれない、セフィロスに。それに撫でられた時の彼の大きな手が、大丈夫だと後押ししてくれている気がして。
70階に着き、エレベーターの扉が開くとすぐに目に入るロビーのソファに見覚えのある金髪の男性が腰掛けていた。…自分の所為にはされたくないから、なのでしょうね。


「それにしても、待っていて下さるとは思いませんでした」
「待つ気はなかった。秘書が煩かっただけだ」
「…そうですか、申し訳ありません…」
「さっさと戻るぞ」


前向きになっていた気持ちが一気にどん底に落ちた気がする。今の話が本当だとしても、普通なら私、気に留めないのだけど。素の自分はこんなに弱弱しくはない。でもルーファウスは副社長と言えどそれらしい風格や威厳があってそれに合わさって刺々しい口調、さすがに初対面でこのように言われてはショックを受けない方がおかしいと思う…から。本当に、この先大丈夫なのかな…。ふと、目の前に手が差し出され、それがルーファウスのものだと知ると私は思わず目を見開いて驚いてしまう。


「私がこうするのが、そんなに変かね?」
「いえ…でも、」
「一応私たちは婚約者だろう?私がお前だけに特別優しいのだと思っているようだが。それに、こんなことで一々驚かないでくれたまえ」
「申し訳ありま…」
「生憎と私は女関係に貧しくはないのだからね」
「……ごめん、なさい」


それもそうよね、ルーファウスの様な整った顔立ちに、気品溢れる物腰、そして莫大な財産。惹かれない女性なんていないと思うけれど。そんな彼に言われると、自分がいかに魅力の無い女か思い知れ、と聞こえてしまって、もう何を喋っていいのかわからず。彼の差し出された手に静かに自分のを重ねて後ろを歩いた。
対談室に戻ると、心配していたらしい父に何をしていたんだ、と寄ってこられ、どう返せばいいか迷い困っている所でルーファウスが、珍しいものが沢山あって寄り道してしまったのだと、嘘を吐いていた。珍しいなんて思っている隙は無かったわよ。


「***。家の荷物をまとめておいただろう」
「はい」
「早速な話で悪いが、ルーファウス君の邸宅へ運ばせておいた。私は自宅へ戻るが***はそのまま、そちらへ向かってくれ」
「も、もう…ですか?」
「あまり家から出た事が無かったろう?折角だ、花嫁修業も兼ねてそちらに世話になってみなさい」
「そうですね。***、行くか?」
「……はい」


父の言葉を拒否なんてなかなか出来たものではないのに、それを嫌とは言わせないとばかりのルーファウスの言葉。首を横に振れるわけがない。確かに、荷物をまとめていた。でもそれは彼がこんな性格をしているとは思わなかったからで…。あんなに私を嫌悪するなら私の肩を抱かないでほしい。見上げたルーファウスの口は吊りあがっていた。



神羅のメインゲートではなく、出たのは裏口。そこには俗に言うリムジン、が止まっていた。中から黒いスーツを来た男性と、もうひとりパーマがかかった赤毛の女性が出てきた。名前を聞くと男性が、ツォンさん。女性がシスネさんというらしい。二人はタークスという組織に属していると紹介された。タークスという名だけ聞いた事がある。どんな部署なのかと昔誰かに尋ねたことがあったのだけど、教えてはくれなかった。多分、秘密と言うよりも知らなくていいことなのだと思った。


「我が邸まで向かってくれ」
「畏まりました」
「私は、***様のお手伝いをさせていただきます」
「よろしくお願いします、シスネさん」


些か様付けで呼ばれることに違和感を感じたが、今のポジションでは仕方が無いことだと割り切るしかない。シスネの後に続いて中に乗り込んだ。別段話すことも無いので、私はずっと空いた手に握っていた紙をこっそりと開いて、携帯をバッグから取り出し、その中に"彼"の携帯番号を登録した。バレてはいけない。だから登録名はS。
しばらくして車が止まった。私の脇に位置するドアが開かれるとそこに建っている邸宅に思わず口を開いてしまった。――…大きい…。自分の家だって一般からすれば豪邸とも言われるくらいだけれど、そんな自宅も軽く上回るような広さ。ここに自分が住むなんて信じられない。しかも父は言っていた、ルーファウスの邸宅と。彼ひとりがこの邸宅を所有している、と言う事よね。




(あるとすれば、この携帯電話くらいで)


鬼畜ルー様を一度書いてみたかったという欲があったりもするのです。
20090117








あきゅろす。
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