差し伸べられた優しさ:2



しばらく、ルーファウスが立ち去った方向を見たまま動けず、ぼうっと立ち尽くしていた。もしかしたら間抜けな表情をしていたかもしれないけど、ここの階は重役の人しか入れないフロアらしく、今の所私以外の人影は見当たらない。助かった…。ふと、ドレスに入っているスリットの間からあるものが見えた。護身用のナイフを留める為のガーターに、ゲストプレートが挟まっていた。思い当たるのはルーファウスくらい。これは…セクハラなのでは…ないの?あんな人に触れられて恥ずかしいと思いつつ、ちょっとだけ恐怖を感じた。こんなことを簡単にするような人なのか、と。


「…とにかく、ここから離れなきゃ」


彼のことが嫌いなのではなく、ただ、怖いだけで。次に会ったときに自分が何をされるのか。こう言う時、世間の常識をいまいち知らない私を恨みたくなる。わからないからこそ、どうされるのかと色んなことが浮かんできて我ながらなんていうことを考えているのだ、と恥ずかしくなる。なんていうか、ルーファウスは格好良いとも言えるけど、存在が卑猥だとも思ったりしたし。
とりあえず私は、下の階へ行こうと思って目に入ったエレベーターの方へと足を踏み出そうとしたのだが、父が言っていたことを思い出した。上の階は父の様な人物や重役しか使えないと。私は父と一緒に来たから勿論、ここのエレベーターを使えるはずもない。仕方ないから近くにあった階段から下に向かい歩く事にした。悶々とこれからのこと、ルーファウスへの嫌いなのか好きなのかよくわからない感情のことを考えているうちに、よくわからない階まで降りていた。自分は意外に集中力があるのかな、と思ったくらいで。


「ここは何のフロアかしら…」
「…ソルジャーフロア、だ」
「っえ!?…――!」


どこからともなく私の言葉に返事が返ってきて本当に驚き、その所為なのか階段に躓いて前のめりに転んでしまいそうになった。階段の終わりまではもうあまり段はないもののこのまま落ちたら痛いのだけはわかる。覚悟して目を瞑ると、ボスッ、とかた…くなくて寧ろ柔らかい感触が顔に当たった。


「考え事をしながら歩くな。危なっかしい奴だ」
「す、すみません」
「それで、お前が***か?」
「そうですけど…何故私の名を、」
「プレジデントに捜せと言われたからだ」


プレジデントの名を聞いた途端に体が強張るのがわかった。もしかして、ルーファウスが私の事を悪いように言ったのではないかと、不安になった。目の前にいる長身の男性はきっと、セフィロス。銀色の長髪なんて他にあまり見ないヘアスタイルだから。プレジデントに言われたということは、私は彼に連れ戻されるという事で…私は思い切って、思い切って拒否をしてみた。


「戻りたくないわ」
「なぜだ」
「だって、私…したくてルーファウスと婚約するわけじゃないもの!だから…いや」
「お前が、か?」


―奴の命令を断るわけにもいかず、俺は渋々ながらその女を捜す事になった。奴の向かいの席には別の見知らぬ男がいて、そいつの娘なのだと言う。案外あっさりと見つかったが。確かに俺から見ても端整な顔立ちをしているとは思うが、些かルーファウスの好みには見えなかった。となると、プレジデントとあの男が決めた話、か。***は、ぱっと見ただの女にしか見えないが、神羅にいる女とはまた違った不思議な感覚で、俺を見てもあからさまな態度を取らないという部分がなんとなく新鮮だった。少し、興味がわいた。


「父が言う事、嫌だなんて本当は言いたくないのだけれど…でも、嫌なものは嫌なのよ」
「俺がわかる話ではないが、そんなものなのか。…で、嫌がった所でお前はどうする気だ?」
「一緒に、来て。貴方、私と別れた後プレジデントに言うのでしょう」
「……少しだけだからな」


自分で言っておいて吃驚した。まさか彼が着いて来てくれるなんて思わなかったから…。エレベーターの場所を教わりながら横に並んで歩いた。元々の私の歩くスピードが速くても歩幅の違う彼に本当は追いつけるはずがない。それでも横を行けるのは彼―セフィロスが合わせてくれている、から?70階から階段でここまで降りてきたと告げたら目を丸くしてそして…溜め息を吐かれた。


「途中までは階段使うとしても、60階からはエレベーターがあるのだからそれを使えばよかっただろうに。それに、お前…***が持ってるそのパスなら60階からのエレベーターの利用も許可されるはずだ。それも知らなかったのか」
「そう…なの?本当、ここに来るの初めてだから知らなかったわ」


今度は苦笑い。父の話では、セフィロスというのはもっと無表情で、淡々と戦い続ける戦士だと聞いた。テレビでも見たことはあるけれど、やっぱりこんなに表情を変化させているところは少なくとも私の記憶の中では、無かった。大人びて見えた彼だけど今だけは年相応に見える。
2階のロビーでエレベーターを降りて、空いているソファを見つけてそこに腰掛けた。俯いて自分の手を見つめていると隣に人が座る気配を感じた。…セフィロスね。


「外に出るんじゃないのか」
「…出て良いなんて言われていないの」
「縁談話を拒否したくせにか?」
「そうね…、嫌よ。拒否したいわ。でも、今回の話は私と言うよりも父の為なのよ、きっと。だからここで私が嫌と首を振れば、私は父を悲しませる事になる。嫌われる」
「***は、己の感情より父親を優先させるのか」
「他人に嫌われて拒絶されるよりは、良いんじゃない?」


外の世界に出れば頼る人がいない。だからこそ、身内に疎まれるのだけは嫌なのだと思う。そこでお互い沈黙してしまい、私は頭に重石が乗っているような感覚に囚われて頭を上げられなかった。すると、別な横から伸びてきた腕が私の頭をぽふぽふと撫でていた。不思議な事に重かった身体がじんわり広がる温かさに軽くなってきて、自然とセフィロスへと視線を向けることができた。


「ありがとう、…セフィロス」
「…ああ」




(立ち去る彼が私の手に握らせた紙。中には数個の数字が並べられていた。それが彼の携帯の番号だと気付く私は、ようやく笑えるようになっていた)


やっとセフィロス来ました。
夢主さんは70階からソルジャーフロア(49階)まで階段で降りてきたそうです。
私には到底無理そうな話です…。
20090116








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