バ・ス・タ・イ・ム



セフィロスから、すっごく、良い匂いがする。私と彼は、所謂"そういう仲"だから、お泊りに行った時にシャワールームで見たセフィロスの使っているシャンプーに吃驚した。"バニラの香り"なんて使っていたから。でも、セフィロスはあの髪の長さ故に使用量も半端じゃないから銘柄とかにこだわりは無いそうで、どんなシャンプーでも別にいいらしい。でも、セフィロスから匂う香りはそのシャンプーのものではなくて、その…女性的な香水の香り。私も一応使うけど、私自身こういうのが苦手だからこんなにいかにも香水です!な物を使ったことが無い。…他の誰かの物だ。


「セフィロス、」
「どうした」
「…浮気とかしてないよね」
「は?何を突然…」
「でも、女の人のにおいがするんだけど」
「………あ、(!しまった…)」
「し、したの…ッ!?」


怪しい。におい、と言った瞬間にセフィロスは目を軽く見開いた。他の人なら気付かないと思う。たとえ観察眼がかなり優れているザックスでもこれは気付かない。セフィロスは見た目よりも堅実だから、今までずっとそんな話聞いたことなかったのに。
隠されるの嫌いだから、別な女の人抱いたりでもしたのならちゃんと言ってほしいと告げれば視線を逸らして 言えない 、とだんまりしてしまった。へー、神羅の英雄でもこんな表情するんだ、なんて感心している場合じゃない。信じられない!


「私は、ずっとセフィロスしか見えなくって、セフィロスが気に入らない所あったら、改善したいって思うのに…それでも駄目なの!?」
「違うんだ。***が悪いのではないんだ」
「なら、どうして」
「…」
「じゃあいいよ…。もう」
「!、ちょっと、待て」


去ろうとした私の手をがっちりと掴んだ。私は今更言い訳でもするんですか?と少しだけジト目になっていた。するとセフィロスは一言、すまん、と言ってから手を離さないまま歩き出した。向かった先は、エレベーター。押したボタンは1階で。無言のままの空間が少しだけ痛い。セフィロスは先ほどのことについて弁解をしようとしない。別れようとでも言うのか。




「……なんで、セフィロスの家?」
「風呂に入るぞ」
「は!?」


今日のセフィロスはいつにも増して喋らない。だから、いきなりお風呂って怪しすぎて仕方が無い。セフィロスはもしかして…疑われた事に怒ってる?この先浴室でされることを想像したら一番嫌な展開に行き着いてしまって、自然と震えだしてしまった。でも、セフィロスが引く手の強さは強引じゃなくて、いつも通りの優しさで、わからなくなった。先に行っている、逃げるなよ、とふたつ言葉を残してセフィロスは腰にタオルを装備して浴室へ行ってしまった。ここでもし、逃げると意外にしつこいセフィロスの事だから何されるかわからないので、大人しく衣服を脱ぎ捨てて、真白のタオルを巻いて中へレッツゴー。


「…あの、セフィロス」
「風呂の中くらいリラックス、だ。おいで、***」
「う、うん」


あれだけ私が怒っていたのに、なんだかセフィロスに主導権握られている様な気もするんだけど、彼のああいう誘うような言葉にはめっぽう弱くて、大人しく湯を体に浴びせてから湯船に浸かった。ふと、何かの匂いが漂ってきてその発生源を探すと、そのお湯の上にキャンドルが浮かんでいた。あっ、と声を漏らした直後にパチン、と機械音が鳴って浴室の電気が消えてしまった。…というかセフィロスが消したのか。キャンドルの灯りで平気ではあるんだけど。そう思った瞬間、背後から何かに包まれた。何かと言ってもすぐわかる、セフィロスの逞しい腕が自分の前まで伸びている。背中には彼の胸が当たって、…凄く安心する。私はなんで怒っていたんだろうって思うくらいに。


「***が感じた香りはこれだろう?…こんなアロマキャンドルなんて使ってる俺をお前に知られたくなくてな。勘違いさせて、悪かった」
「そうだったんだ…。私も一方的に怒っちゃってごめんね。でもなんで、アロマなんてやろうとしたわけ?」
「…ああ、」


― 仕事をしていて溜まるストレスは、戦って発散させる。肉体的な疲れは休めばなんとかなる。だが、精神的な疲れ、それを解消させる方法が無くて。こんな時***がいれば疲れを取るなど容易いが何をしてしまうかわからない。だから…。
セフィロスはそう言った。アンジールがオススメしてくれたらしい。セフィロスがアロマをやる、それは想像でも現実でもとても様になっていると思うんだけど、アンジールがアロマキャンドル浮かべたお風呂に入るってなんとなーく、想像がつかない。苦笑いと同時に、私は少し淋しかった。セフィロスは私を選んではくれなかったのか、と。


「…私、セフィロスが元気になってくれるなら、何でもするのに」
「それはマジ…か?」
「うん、マジ。痛いのは嫌だけどね、でもまあ…セフィロスならいいかなーなんて」
「***、おまえというやつは」


溜め息をつかれた。予想外で、え?と振り返った。すると口の片端を軽く持ち上げて笑った。これは、何か企んでる方の笑いだ。耳元で、セフィロスは、
覚 悟 して おけよ
と甘く囁いた。




(仕返しの、始まり!)


ヒロインちゃんが最終的にピ―――です。
なんだかんだでセフィロスが優位に立ってしまう、そんなシチュエーションが大好きです。
20090106








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