彼と2号とボクと おもしろい。 彼にこんな苦手があったなんて。知らなかった。 それもそうか。こんなに恐がるんだから、知られないようにしてたに違いない。 「火神君、ほら、平気ですってば」 「ちょっ、ムリ! 黒子、待て、近い近い近い!」 ボクが拾ってきた犬はテツヤ2号と名付けられた。ほんの少し複雑な気分。 それにしてもおもしろい。本当におもしろい。 ボクがこの子を抱えて近付くと、火神君は逃げる。その繰り返し。 小さい頃、大きな犬に噛まれたと言う話だけど、そんなにトラウマなんでしょうか。この子はこんなに可愛いのに。比べる迄もなく、ずっと小さいはずなのに。それでも恐いなんて。 可愛い、と思うのはボクだけでしょうか。 大きな体を縮ませて、小さな犬に怯えている。 そんな火神君が、ひどく可愛い。 キミといい勝負ですよ、2号。 ねぇ? と、問い掛けるように見れば、同じような瞳でボクを見て一鳴き。 「わんっ!」 「ぎゃあっ!」 「……もう。大丈夫ですよ、火神君。この子がキミを噛んだりするように見えますか?」 「……見える。っつかそーじゃねぇんだよ、なんつーか、条件反射?」 首を傾げられても……。 さて、どうやって慣れてもらいましょうか。今日一日しかないのに、もうあと半分しかない。 それに、この子がボクに懐いてくれている以上、火神君はボクに近付いてこない。 それは少し寂しいし、けど慣れさせなきゃ意味がない。 ―そうだ。 テツヤ2号という名前の由来は、ボクに似ているから。それなら火神君も平気なのでは。 「火神君、ほら、この子をボクだと思えば」 「あ? コイツをお前だと思う?」 効果があったのだろうか。火神君が2号を見ている。 しばし、沈黙。 2号はじっと火神君を見て待つ。 いい子だ。 これまでの練習の時も思ったが、とても賢いのではないだろうか。 きちんと理解しているのだ。 あとは火神君が2号に心を開いてくれれば…… 「〜〜〜っ!」 「火神君?」 なんでしょう。奇声を発して逃げてしまいました。 何を考えたんでしょう、火神君は。 そっと溜め息を吐くと、2号も呆れた様子で逃げていく背中を見送っていた。 「黒子ー練習再開するまでに火神捕まえておけよー」 やりとりを見ていたのか、キャプテンの声。 「仕方ないですね、追い掛けますか、2号?」 「わんっ」 そっと2号を抱き上げ、火神君の逃げた方へ歩いていく。 ありがとう、キミのおかげでまた一つ、ボクの知らない火神君を知ることができました。 頭を撫でると嬉しそうにする。 あったかい。火神君みたいに。 きっとこの暖かさを知れば、火神君もわかってくれる。 彼がこの子と仲良くなれる日も、遠くないはず。 (っテメ、犬! お前今笑ったろオイ!!) (火神君、犬は笑いません落ち着いて下さい) ……遠くない、はず。 |