[通常モード] [URL送信]
もっと、触れて




暗い、いかにもやばいものが出そうな廊下。

あちこち壊れた廃墟。

ちゃり、とガラスを踏む音だけがよく響く中、前を歩いていた犬が口を開く。





「はーっどっこ探しても見つかんねーびょん」


「骸様……いないね……」

「柿ピーちゃんと探してねぇーらろ」

「探してる。汗かいたし」

「歩き回って汗かいただけびょん。探せてねぇんらよ!」

「犬だって見つけられてないのに」

「うるっせーびょん!柿ピらって眼鏡はなんのためにあるびょん!?」

「視力補うため。眼鏡で骸様が見えたらいいのにね」




はあぁと二人でため息を吐いた。



あぁ、シャワー浴びたい。

そういえば犬が前に入ったのっていつだっけ……?




ばふっと音がして、みたら犬が壊れかけてるソファにダイブしてた。



「疲れた…………柿ピーのせいら。柿ピーがちゃんと探さないから俺がこんな疲れるんら」

「こっちだって一緒。犬、ちょっと」


手招きをすると、怪訝な顔つきで体を起こし、ソファに座る。

くる気配はないから、諦めて犬の前までいく。


「前にシャワー浴びたのいつ?そろそろ浴びないと」

「……最近」


何だ?

犬が変な表情して顔を逸らした。



「犬の“最近”はあてにならない」

「ホントに最近らって!」


目線を合わせずに言い、そのまままたソファに倒れた。


きっと“最近”じゃないんだ。



「一週間前?二週間前?」


ホントは嫌だけど、確かめないとわからないから、髪を触ったり鼻を近付けたりしてみる。



……犬が固まった。


というか、変な臭いがしない。

本当に最近だったのか?



もう少し近付けてみようとしたら、犬がいきなり起き上がった。



―ゴンッ



額に後頭部が激突した。


痛い。



「ってえぇぇ……」



犬もかなり痛かったらしく、涙目で頭を押さえている。



「いきなり起き上がるから……」

「柿ピのせいら!!」



今のは僕のせいじゃないと思う。



「じゃあ次は動かないで」


ちゃんと確かめようと、肩に手をおき頭に顔を近付ける。


やっぱり、変な臭いはしなかった。



「〜〜〜〜〜!!!」



けど、犬がなんか奇声を発して逃げた。



「犬、何?さっきから」

「うるっさいお前がなんだびょん!!」



顔が赤くなってる。


なんで?



「“最近”がいつなのか確かめようと思っただけ。変な臭いしなかったから本当なんだ」

「あったりめーら!昨日浴びたんらからな」



昨日?


別に無理矢理浴びさせたわけでも、浴びればとも言ってない。


犬が自主的に浴びるなんて。



それとも昨日、なんかあった?



「珍しい。自分から浴びたんだ」

「柿ピのせいれな!」




また、柿ピーのせい。




「犬、さっきから何?なんでも僕のせいにしないで」


よくわからないけど、自分のせいだなんて言われるのは少し気に食わない。

近くまでいって、しゃがみこんだ。



「っ、そーやって近づいてくんな!」

「なんで?」

「らから……っ、柿ピが近いと、きゅうってヘンに苦しくなるびょん……むかつく」



こっちを睨んだ目は、いつもの殺気の半分の力もない。


ゆらり、昔押し込めた何かが蠢く。


「っ、昨日らって!柿ピが近いせいれヘンになって……水かぶってやっと治ったんら……」



そうか。

それで柿ピーのせい、なのか。


でも、それって。




「こうやって近かったら、苦しい?」

「か、きピー……?」



手を頬に当て、口付けた。

僕も、おかしくなったかな。



「なっ、ななな何、何っ、するんら!!柿ピ……!?」


犬は顔を真っ赤にして、逃げようとしてるけど、後ろが壁なのに気付いてない。


「犬、シャワー浴びようか」

「きゃうん!なんれそーなるんら!」

「だってそうしないと治らないんでしょ?」

「昨日も浴びたのに……っ!」



いやいやと顔を横に振る。


駄目だ。

封じたはずの何かが、溢れてくる。



止めなきゃ。

めんどくさいことになる前に。




「めんどくさいし手っ取り早く治す方がいい?」

「は!?なんらそれ……!!」



ぎゅっと抱き締めた。

犬がどきどきしてるのがわかる。


今にも涙が零れそうな目。

そっと目元に唇を寄せる。

そして鼻、頬、唇に。


「か、きピ……」



真っ赤な顔。狼狽えてる。

少し震えている体をより強く抱き締める。



自制が効かなくなりそうだ。



ほろり、犬の目から涙が零れた。


一つだけじゃなく、いくつも雫が頬を滑り落ちる。


驚いて腕を放した。



「犬……?」



犬はただ茫然とこっちをみている。



「ごめん。泣かないで」

「泣……?わ、何らこれ……」


気付いていなかったのか。

涙はまだ止まらない。



でも今ので目が覚めた。




「ごめん、もうしないから」


すっと犬から離れ、シャワーを浴びようかと歩きだす。



「柿ピー」



ふいに名前を呼ばれ、立ち止まる。
後ろは向かない。



「……何」



いつまでたっても続きがないからこっちから聞いた。



「治んねー。ぜんっぜん治んねーびょん!」



犬が飛び付いてきて、ソファに倒れこんだ。



「わ……! ちょっと犬、痛い」


ぎゅうぎゅうとしがみついてくる犬。



「柿ピー、いい匂いする……」

「……いつもシャワー浴びてるし。てゆーか退いて。重い」

「ん……」



胸元に顔を押しつけたまま、一向に退く気配がない。

そのまま目を閉じて動かない。



「犬?そのまま寝たりしないでよ?」

「柿ピ、あったかい……心臓の音……」



どうやらすっかり落ち着いて、しかも動くつもりはないらしい。

頬を擦り寄せてきて、涙の最後の一雫が流れて、そのまま寝息が聞こえ始めた。




「……寝ないでって言ったのに。めんどくさい……」



言いながら、笑みが零れた。

犬の背中に手をやり、ゆっくりと撫でる。



理由はどうあれ、自分からシャワーを浴びたご褒美として今日はこのままにしておこうか。





それにしても。




「はぁ……本当めんどくさい……」




可愛い、なんて。


昔封じた想い。



この温もりが、まるで泥沼。




犬、わかってないだろうな。
まさかこんな想い、ずっと持ってるなんて。



頬を撫でると、くすぐったそうに身を竦め、にまっと笑う。



仕方ないから、眼を閉じた。

狭いし重いけど、起こすとめんどくさいし。



あ、結局シャワー浴びてない。


まぁいい、明日犬もひっぱってシャワーを浴びよう。
嫌がっても浴びさせよう。

犬の好きな果物の匂いがする、シャンプーや石鹸を使って。



そしたらまた、この想いを封じよう。

犬を刺激しなければ大丈夫……



意識がゆっくり闇へ引きずり込まれていく。



もっと、触れたくて、触れて欲しくて。


すぐ近くにあるのに、この距離を壊したくないから。















(にしてもこんな時だけ無防備すぎ。抑えるのめんどくさいのに)

(柿ピーのばか……どきどき、してたくせに)











――――――――――


突発的に出てきた妄想です。

危うくエロ行きでした(ちょ

頑張って軌道修正した(笑)



でも好きだこの二人vV


あきゅろす。
無料HPエムペ!