相棒(神戸×杉下、大河内×神戸)
神戸、風邪をひく
ゴホッ、ゴホッーー



(参ったなぁ、杉下さんの風邪うつったかも・・・)



あの、杉下右京が風邪を引いた



そうそう滅多にないことだが、杉下が風邪を引いたからといって事件が無くなるわけでもなく、当然あの上司は風邪だろうが何だろうが自分が気になった事件には首を突っ込む

結果、事件は速やかに解決した

それは良かったのだが・・・



「うつさないで下さいよ?」

その日の朝、確かに自分は杉下に言ったのだ

しかし、案の定というかなんというか、

やっぱり風邪をうつされたのは言うまでもなく

(だから言ったのに・・・)

元々の体質のせいで風邪を引くと悪化しやすい神戸はげんなりとした

(今日は大河内さんと稽古の約束をしてるんだけどなぁ)

微熱はあったのだが、大したことはないだろうと思い、神戸は大河内との稽古に向かった



「大河内さん、お待たせしました」

すでに先に来て稽古を始めていた大河内を見つけ歩み寄る

いや、と短い返事を返した大河内に向かい合う形で神戸も防具を付ける

「じゃあ始めましょうか」

何度か打ち合ううちに大河内は違和感を覚えた

(おかしい・・・いつものようなキレがない)

どこか具合でも悪いのか、と大河内が声を掛けようとした瞬間、神戸の身体が傾いた

「っ、おい!」

大河内は思わず持っていた竹刀を放り投げ、神戸の身体を抱き止める

防具を外すと尋常じゃない量の汗をかいていた

「おい、神戸!しっかりしろ」

荒い呼吸を繰り返す神戸の額に手を当てた大河内は、途端に苦い表情を浮かべた

「ん・・・」

大河内の呼ぶ声で目が覚めた神戸は、目の前にある大河内の顔と自分の状況を見比べ「しまった、」という顔をした

「神戸」

明らかに怒っているだろう大河内の声が低く響く

「大河内さん、えっと、・・・」

次に続く小言に対してどう返そうかと考えていると、予想に反して大河内は何も言ってはこなかった

内心ホッとした神戸の心を読んだかのように、大河内は鋭い眼光を光らせる

「言いたいことは山程あるが、今はとにかく医務室だ」

有無を言わさない声音に神戸は素直に従うしか無かった





医務室で横になり額にタオルを乗せられた神戸はゾクリとした寒気に身体を震わせた

「寒いか?」

「少し」

大河内は手近にあった掛け布団を神戸の身体にそっとかけてやった

「しばらくここで休んでいろ。俺は荷物を取ってくる」

「でも、」

「どうせ熱と貧血のせいでまともに動けないだろう」

ピシャリとそう言われてしまえば返す言葉もない



大河内が出ていった後、神戸は自分の体調がどんどん悪化していってるのを感じ舌打ちした

(何やってんだよ、俺・・・)

大河内に迷惑をかけていることが分かっているだけに、自分の判断の甘さを呪った





「ん・・・大河内、さん・・・?」

「目が覚めたか。気分はどうだ?」

覗き込んできた大河内の労るような眼差しに神戸は笑みを返す

「おかげさまでだいぶ楽になりました」

そうか、と大河内は安心したように呟いた

「ところで、今何時ですか?」

「22時を回ったところだ」

「えっ!」

まさかそこまで時間が経ってるとは思いもよらなかった神戸は、慌てて布団から身を起こした

急に起きたことで目眩に襲われたが、いち早くそれに気付いた大河内が背中を支えたため、布団に倒れこむのは避けられた

「急に起きるヤツがあるか」

「すいません。でも、まさかそんなに時間が経ってたなんて・・・」

「別に構わない。それより神戸、今日は俺の家に泊まれ」

突然の提案に神戸は驚く

「いや、でも・・・」

「こんな状態じゃ運転をさせるわけにはいかないし、一人にしておくと食事もろくに取らんだろうからな」

大河内の読みは確かに当たっていて、神戸は反論の言葉をなくす

「でも、これ以上大河内さんに迷惑をかけるわけには・・・」

「俺の目の届かないところで倒れられた方がよっぽど迷惑だ。いいから大人しく面倒見られとけ」

そこまで言われてしまえば神戸に断る術はなかった





今までにも数回、大河内の家には上がったことがあるが、泊まるのはこれが初めてだった

「とりあえずシャワーでも浴びてろ。その間に簡単に食べれるものを用意しておく」

タオルやガウンなどをてきぱきと用意した大河内は、そう言うなり台所に消えていった

眠ったことにより少し回復した神戸は、言われた通りシャワーを浴びて汗を流した

(情けないな・・・俺、大河内さんに迷惑ばっかかけて)





「ありがとうございました」

風呂から上がった神戸は倒れたときより幾分かは体調が戻っているように見えた

「髪の毛はちゃんと乾かしたんだろうな?」

「乾かしましたよ」

まるで母親のようなことを言う大河内に苦笑する

(本当、大河内さんって外見に似合わず面倒見がいいんだよな・・・)

「簡単なものしか用意してないが、食べないと薬が飲めんからな」

そう言いながら大河内はテーブルの上にお粥を置いた

「えっ?あっ、ありがとうございます」

お粥には細かく刻んだ人参やササミが入っていて、彩りに三つ葉が飾られていた

「美味しい・・・」

一口食べてみると塩加減も丁度良く、食欲が無くてもすんなり食べることが出来た

「ごちそうさまでした。美味しかったです」

行儀良く手を合わせて挨拶をすると、「ああ、」と大河内が僅かに顔を綻ばせて食器を片付け始めた

「片付けくらい俺がやります」

「お前はじっとしてろ。」

「・・・じゃ、お言葉に甘えて」

大河内の気遣いに神戸は謝罪ではなく笑顔を返した





「これを飲んでおけ」

出されたのは市販の風邪薬だった

「効くかはいまいち分からんが、気休めぐらいにはなるだろう。明日の朝には病院に行ってちゃんとした薬を貰ってこい」

その言葉に分かりました、と返して神戸は薬を飲んだ





「神戸、今日はここで寝ろ」

大河内に連れられ部屋に入った神戸は、大河内が普段使っているであろうベッドをあてがわれ困惑していた

「そんな、俺がここ使ったら大河内さんが寝る場所が無くなっちゃうじゃないですか」

「俺はソファーで寝るから気にするな」

「でも・・・」

「気を使わせるためにお前をここに連れてきた訳じゃない。俺に悪いと思うなら、素直に言うことを聞いて早く風邪を治すんだな」

そこまで言われては、もう神戸に反論する余地は無かった

「・・・ありがとうございます」





眠りについた神戸の額にそっと手を当て大河内は熱を確かめた

(やっぱり熱が上がってきたか・・・)

一人にしなくて良かったと、小さく安堵のため息をこぼすと、神戸の額に冷やしたタオルを乗せた

額のタオルの冷たさに神戸の表情が少し和らぐが、まだ高熱にうなされ苦しそうだ

「お前は無茶をしすぎなんだ。もっと自分を大事にしろ」

寝ている神戸に向かって言うが、もちろん返事はない

大河内は神戸の熱が落ち着くまで看病を続けた





「う・・・ん・・・あれ?・・・ここ・・・」

目覚めた神戸は見慣れない景色に一瞬思考が止まった

「体調はどうだ?」

すぐ近くから聞こえる大河内の声に驚き、そして思い出した

「あっ、大河内さん・・・」

昨日熱を出して、そのまま大河内の家に泊まったのだ

「おかげさまで熱もすっかり下がりました。大河内さん、夜ずっと看病しててくれたんですよね?」

熱にうなされる中で大河内の大きな手が何度も自分の額に触れる度、安心感に包まれていたことを思い出し急に照れ臭くなった

「どうした?顔が赤いが、また熱が上がってきたんじゃないだろうな?」

「大丈夫です。それより、本当にありがとうございました」

「いつものお前に戻るなら看病くらいいくらでもしてやる」

普段から眉間にシワを寄せているため怒っているように勘違いされやすい大河内だが、実は優しくて面倒見の良いことを知っている神戸はくすりと笑った

「何がおかしい?」

「いや、大河内さん優しいなーと思っただけですよ」

「変な奴だ。まあいい、とりあえず今日は病院に行って医者に見て貰ってこい」

ついでに貧血の方もな、と付け加える大河内に「はーい」と子供みたいな返事をすると頭にポンと手を置かれた

「風邪が治ったら上手い酒でも飯でも連れてってやる」

「楽しみにしてます」





家を出る大河内の背中を見送りながら小さく笑みがこぼれる

(本当、甘やかされてるなぁ、俺・・・)

「今度何か大河内さんにお礼しよっと」

とりあえず、大河内の言いつけを守るべく病院へ行く支度をする神戸だった





fin.

[*前へ]

第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!