相棒(神戸×杉下、大河内×神戸)
潜入捜査

「神戸警部補には潜入捜査をやってもらう」

「・・・は?」

突然呼び出された神戸は、内村部長の言葉に思わず目を丸くした

「潜入捜査、ですか?」

「そうだ。君には響″というホストクラブのホストとして潜入し、そこで被害者の浅間拓也の死亡動機を内密に調査してもらう」

内村部長の言葉に反論出来ぬまま、結局神戸は潜入捜査を引き受ける羽目になったのだった

「だからってどうして僕がホストに・・・」

廊下を歩きながらぶつぶつ文句を言う神戸

「仕方ありません、頼まれれば何でもするのが特命係。ですが、君には十分ホストの素質があると思いますよ」

少し面白がっている杉下に神戸はムッとする



面接も難なく通り、いよいよホストとしての潜入調査が開始された



もともと素質がある上にあの顔立ちだ。
入って一週間も経つ頃には、神戸はこの店のナンバー3にまで売り上げを伸ばしていた

それを面白く思わないのは店のトップのメンバーだ

その日、帰り支度をするため更衣室に入るなり神戸は言葉を失った

自分のロッカーが荒らされて、着替えの服もズタズタに切り裂かれていたのだ

「典型的なイジメ″ だよねぇ、これ・・・」

切り裂かれた服を拾い上げてため息をつく

その瞬間、背後からいきなりバケツに入った水を浴びせられた

全身ずぶ濡れになった神戸が振り返ると、数人の男達が中に入ってきた

確かNO.1ホストの啓とその取り巻きだ

「あれ、どうしたの?服がボロボロじゃん」

笑いを含んだ言い方だった

(やったのはこいつらか・・・)

「でもお前にはその方がお似合いじゃねぇの?なあ?それに水も滴るいい男ってか」

周りの取り巻き達も下卑た笑いを浮かべている

神戸はすっと笑顔を作り、啓に向かって微笑んだ

「人のことをこんなやり方でしか蹴落とせないなんて、NO.1ホストってのも大したことないんだね」

「なっ、コイツなめた口利きやがって!!」

殴りかかってきた啓の手を掴もうと、神戸は一瞬身構えたが、すぐに潜入捜査のことを思い出した

ーー今、自分が事を起こせば捜査は中断せざるをえない

神戸は殴りかかってくる啓に対して抵抗をやめた

勢いのある拳が鳩尾に入る

「ぐっ・・・!」

思わず息が詰まる

前屈みに倒れそうになるところを必死にこらえ目の前の啓を見据える

今度は腹を思い切り蹴られ、耐えられずに蹲る

呼吸がうまくできない

そうしている間に、取り巻きたちが神戸の両腕を掴み上げ啓の前に立たせる

しかし神戸は無理矢理に口角を上げて余裕を見せる

「そんな顔してられるのも今のうちだぜ?」

そう言うなり啓はその拳を神戸の鳩尾にもう一発食らわせた

「ぐっ・・・」

取り巻き達が掴んでいた腕を離せば、支えをなくした神戸の身体はその場に崩れ落ちた




「遅いな・・・」

大河内は神戸を家まで送るため、神戸が出てくるのを車の中で待っていたのだが、閉店時間はとうに過ぎているのに一向に出て来る気配がない

何かあったのかと急いで車を降りたところにちょうどホストクラブから数人の男が出てきた

「すいません、神戸という者がまだ中にいると思うのですが?」

大河内の言葉に男たちは互いに顔を見合わせ動揺する

「お、俺たちは知らないって!なあ?」

その様子に、大河内がより一層距離を詰めてさっきよりも低い声で尋ねる

「神戸はどうした?」

大河内に詰め寄られた男達は、その威圧感に思わず息をのんだ

「啓さんがまだ中で・・・その・・・」

言い終わらない内に大河内は店に乗り込んだ

更衣室を勢いよく開けると、倒れて蹲っている神戸が目に入った

「神戸!!」

床に倒れている神戸を抱き起こす

その身体はずぶ濡れで、氷みたいに冷え切っていた

「・・・っ・・・大河内、さん・・・?」

「大丈夫か!?何があった?」

「だ、大丈夫です・・・っ・・・」

お腹を押さえて顔をしかめる神戸

「痛むのか?」

「っ何度か、・・・殴られたり蹴られたりしましたから」

まだ室内にいた啓は突然現れた大河内に驚いていたものの、すぐ我に返り、大河内に殴りかかろうとした

「大河内さんっ・・・!」

それに気付いた神戸が叫ぶが、大河内はそれより一瞬早く目の前の啓の手首を捻り上げた

「いててて!離せっ・・・離せって言ってんだろ!」

「貴様か、神戸に手を出したのは」

鋭い眼光が眼鏡の奥で光る

「だったらどうしたって言うんだよ!」

「今後、もしこいつに手を出すようなことがあったらその時は俺が許さない。よく覚えておくんだな」

大河内の威圧感を前に啓は思わず、掴まれた手首を振り払って更衣室を飛び出していった

「大丈夫か?」

腕の中で微かに震えている神戸の身体に、大河内は自分の着ている上着をふわりとかける

「すいません、迷惑をかけて」

「そんなことはいい。それより抵抗しなかったのか?」

「一応、潜入捜査ですからね・・・下手に騒ぎにしたらマズイと思って」

大河内は思わずため息をつく

「だからといってお前はここまでやられても抵抗しないのか」

すいません、と言って神戸は苦笑する

「まあいい。とりあえず帰るぞ」

大河内が神戸を立たせて肩を貸す

「でも、大河内さんが濡れちゃいます・・・」

「そんなことはいい。そもそもその状態じゃ一人でまともに歩けんだろう」

大河内の言葉に神戸は返す言葉もなく大人しく肩を貸してもらう

「今晩はオレの家に泊まれ」

「えっ、でも・・・」

「神戸?」

有無を言わせぬ大河内の声に神戸は諦めて頷いた





大河内の家に着くと、まずはずぶ濡れで冷えきった身体を温めるために風呂に入らされる

「一人で大丈夫か?」

「やだなぁ、大河内さん。さすがににそこまでしてもらわなくても大丈夫ですって!」

まだ殴られたり蹴られた場所が痛んだが風呂ぐらい一人で入れる

神戸は時折痛むのを我慢しながら手早く身体を洗った

湯船に浸かると冷えきっていた身体が芯から温まっていくのを感じた

「ありがとうございました、おかげで身体もすっかり温まりました」

「そうか。今日は疲れただろう、もう休め」

時間はとっくに24時を回っていた

「はい。大河内さん、今日は本当にありがとうございました」

礼を言う神戸を大河内は優しい眼差しで見つめていた





「まだ潜入捜査は続けるんだろうがくれぐれも無茶はするなよ?」

翌朝送ってもらう車の中で改めて念を押されて神戸は苦笑する

「大河内さんってば、本当過保護なんだから」

茶化す神戸を横目で軽く睨む

「ちゃんと分かってます、大河内さんが心配してくれてるっていうのは」

「ならいい」

今日もあのホストクラブに行くのは正直気が重かったが、自分を心配してくれている人がいると思うだけで頑張れる気がした

まだ証拠は無いが、おそらく浅間拓也の死亡動機はイジメによる自殺

もし浅間にも心配して支えてくれる存在がいたら、あるいは死なずに済んだのだろうか

「神戸?どうかしたか?」

急に黙ってしまった神戸に大河内が声をかける

「ねぇ、大河内さん」

「何だ?」

「いつもありがとうございます」

「・・・どうした、急に。熱でもあるのか?」

突然礼を言う神戸に大河内が訝かしむ視線を送る

「もう、ひどいなー。人がせっかく真面目に言ってるのに」

口を尖らせて拗ねた振りをすると、途端に大河内がフォローに回る

その少し慌た様子が可笑しくて、時々こうしてわざと遊んでみたりするのは内緒だ

「この潜入捜査が終わったらどこか美味しいもの食べに連れてって下さい」

「ああ、分かった。探しておく」

「楽しみにしてます」

今は大河内との約束を楽しみに、もう少し続くであろう潜入捜査を無事終えることが出来るようにと神戸は心の中で小さく祈るのだった





fin.
〈/font〉

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あきゅろす。
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