相棒(神戸×杉下、大河内×神戸)
支えてくれる誰か
眠レナイーー。



城戸の事件から2週間以上が経ったが、あの日からほぼ毎日のように夢を見る

夢の中で城戸はこちらをじっと見つめ、許さない、と呟くのだ

首を絞められる夢を見たこともあった

ビルの屋上から飛び降りようとする城戸を止めようと必死に手を伸ばすが、寸前のところで掴むことが出来ず、いつもそこで飛び起きる

身体中にはじっとりと汗をかいていて、その不快感に神戸は眉をひそめた

水を飲もうと立ち上がった途端、急な目眩に襲われベッドに手を付き屈み込む

「はぁはぁ・・・っ」

そんな状態の繰り返しだった



その日、いつもより体調の悪いことは自分自身で自覚していたーー

朝、目が覚めると同時に頭痛と吐き気に襲われ神戸は思わず顔を歪ませる

ベットから起き上がると、くらりと目眩がした

無理矢理それを押し込め、朝の支度をし始める

今日は昨日起きた殺人事件の参考人の女性に杉下と話を聞きに行く予定だった



「おはようございます」

特命係の部屋に入ると、紅茶を飲みながら新聞を読んでいる杉下に神戸は声をかける

杉下は新聞から目を離すことなく、おはようございます、と返事をした

とりあえず椅子に座りパソコンを立ち上げる

ニュースに一通り目を通すが、視界が時々ぼやけていまいち頭に入ってこない

視界をクリアにする為、目頭を押さえて頭を振る

また目眩がしたが、それをきつく目を閉じてやり過ごした

「どうかしましたか?」

いつの間にかこっちを向いていた杉下に尋ねられ、神戸はいいえ、と笑顔を作った

「そうですか。では、そろそろ行きましょうか」

身体は不調を訴えていたが、職務に支障の無い程度だと判断し、コートを羽織り杉下の後に続いた



車を走らせている神戸の横顔を杉下はちらりと見る

「神戸くん、体調が悪いなら僕だけでも良かったんですよ?」

杉下の言葉に神戸はやっぱり気付かれてたか、と内心舌打ちをした

「大丈夫です。ご心配には及びません」

片手をあげて杉下の言葉に返す

そうしているうちに車は目的のアパートへと到着する

古いアパートにエレベーターは無く、彼女の部屋がある3階までは階段を使わなければならなかった

2階まで上ったところで、神戸は先を行く杉下を見ながら荒い呼吸を繰り返す

「神戸くん、大丈夫ですか?」

杉下の質問には首を縦に振るだけで、直ぐには言葉を発することが出来なかった

「・・・杉下さん、先に行ってて下さい」

少し落ち着いた神戸は、杉下にそれだけ言うとゆっくりと階段を一段ずつ上る

途中で目眩に襲われるが、それを壁に手を付き目を閉じることで何とかやり過ごした

目を開けると足元の階段がぼやけて何重にも見える

「大丈夫ですか?」

突然近くで聞こえた声に顔を上げる

「・・・っ先に行ってたんじゃ無かったんですか?」

「君の体調が悪そうでしたので、途中で心配になって。顔色が悪いようですが、大丈夫ですか?」

杉下が神戸の顔を覗き込む

「ええ、大丈夫です。少し気分が悪くて・・・」

「そうですか、では今日はこれが終わったら早めに休んでください」

杉下の言葉に神戸は、ありがとうございます、と笑みを作って見せた



目的の部屋に着き、チャイムを鳴らすが返事は無い

「おや?空いているようですね」

勝手にドアを開ける杉下に神戸は思わずため息をつく

また勝手に入るんだ、と小さな声で呟いたが杉下は気にせず先へと進んだ

杉下に続いて部屋に入ると同時に血の匂いが鼻をついた

ーー嫌な予感はしていた

先に部屋に入った杉下が見たものは、頸動脈をバッサリ切られ血溜まりの中に倒れている女の姿だった

「杉下さん、一体どうし・・・っ!?」

神戸は血まみれの死体を見た瞬間、体内の血液が一気に下がる感覚とひどい吐き気に襲われた

足元がぼやけてぐらりと視界が歪む

「神戸くん!!」

意識が途切れる寸前、杉下が自分を呼ぶ声が聞こえた気がした



「また、特命係ですか」

死体発見の一報を受け、駆けつけた伊丹達は現場に杉下の姿を見つけてあからさまに顔をしかめた

だが、倒れている神戸に気付き、驚いてそちらに近づく

「神戸警部補!?」

「もともと体調が悪かったところに、死体がこの有様ですからね、見るなり倒れてしまって・・・」

横たわっている神戸の顔は血の気が失せ浅い呼吸を繰り返していた

「僕一人では神戸君の身体を持ち上げるのは些か難しいので、そのままここに寝かせてあります。すいませんが伊丹さん、彼をそこのソファーまで運んでいただけませんか?」

「分かりました。ですが別にここに居ていただかなくてもお帰りいただいて結構なんですがね」

伊丹は倒れている神戸の身体をソファーまで運ぶと杉下に嫌味を込めて言う

しかし、いつもながら杉下は伊丹の嫌味などには全く耳を貸さず、ありがとうございました、と言って勝手に現場を物色し始める

諦めたようにため息をひとつこぼし伊丹も捜査を開始した



一通りの捜査が片付いた頃、杉下が再び伊丹を呼んだ

「すいませんが、彼を運ぶのを手伝っていただけませんか?」

杉下の言葉に、何で俺がこんなこと、とぼやきながらも伊丹は未だ気を失ったままの神戸の身体を抱き抱えて車まで運んだ

明るいところで見ると、神戸の顔色はより一層悪く見えた

「医務室で構いませんかね?」

伊丹の問いかけに、杉下はお願いします、と答えて神戸のポケットから車の鍵を取り出した

「僕は彼の車を運びます。流石にこのまま置いとくわけにはいきませんからね」

「ったく、世話のかかる」

ブツブツと文句を言いながらも伊丹の手つきは優しかった





「ん・・・」

目が覚めるとぼんやりと白い天井が見えた

自分がどこにいるのか分からず、辺りを見回してみてようやくここが医務室なのだということが分かった

(あー、確か死体を見て気を失ったんだっけ)

とりあえず杉下に連絡を入れようとポケットから携帯を取り出す

「神戸です。杉下さん、ご迷惑をお掛けしてすいませんでした」

「体調は大丈夫ですか?」

「ええ、だいぶ良くなりました」

「そうですか。とりあえず今日のところは帰ってゆっくり休んでください。ああ、それと君を医務室に運んだのは伊丹さんですので、顔を見たらお礼を言っておくといいでしょう」

そう言うと杉下は電話を切った

(伊丹さんにも迷惑かけちゃったな・・・)

神戸は小さく息を吐くと、そのままゆっくりと立ち上がる

軽い目眩はしたものの、すぐに治まったので荷物を取りに特命係へと向かった

部屋には杉下がいて紅茶を飲んでいるところだった

「おや、神戸くん。もう動いて平気なんですか?」

「はい。ご迷惑をお掛けしました」

「君、このところちゃんと眠れてないのでは無いですか?」

杉下の質問に神戸は思わず言葉に詰まる

「僕がどうこう言うのもどうかと思うのですが、このままでは日常生活もままならないでしょう」

「心配していただいてありがとうございます。でも大丈夫です。病院にもちゃんと行きますし」

神戸はそう言って笑顔を向けた

「まぁ、君のそれは単なる貧血と言うより精神的要素によるものでしょうから何とも言えませんが」

「あまりご迷惑は掛けないようにしますので。それじゃ、お先に失礼します」

杉下は木札を返して去っていく神戸の後ろ姿をただ黙って見送った




病院で注射を打ってもらうと一時的には貧血の症状は治まる

しかし遅い時間になって薬の効果が切れてくると、また貧血の症状に襲われる。それの繰り返しだった





事件の調べものをしていて、いつもより帰る時間が遅くなってしまった神戸は特命係に戻る途中で突然激しい頭痛と耳鳴りに襲われた

「・・・くっ・・・!」

堪えきれず思わず壁に凭れかかる

薬の効果が切れたのだろう
どんどん酷くなる貧血の症状はもはや精神力だけでどうにかなるものではなかった

ーー気持ち悪い・・・

立っていられなくて、ズルズルとしゃがみこんで目をぎゅっと閉じていると、ちょうどそこに伊丹が通りかかった

「おい、大丈夫か!?」

「・・・っ伊丹、さん・・・?」

「アンタ顔色が真っ青じゃねぇか」

覗き込む伊丹に心配をかけないように無理矢理笑みを作るが、正直なところ意識を保っているのもやっとだった

「・・・大丈夫・・・ただの貧血、です」

支えていた伊丹の腕を掴み顔を上げ、小さく笑みを浮かべると神戸はそのまま意識を失った

「ちょっ、警部補どの!?」

突然のことに伊丹は慌てて力を失った神戸の身体を支える

「警部補殿!しっかりしてください!」

伊丹が声をかけても反応は無く、神戸は浅い呼吸を繰り返すだけだ

脈を測ってみると異常に速い

そんな状態のまま放っておけるわけもなく、伊丹は神戸を抱き上げ医務室に運んだ

「またかよ・・・」

つい先日、現場で倒れた神戸を運んだ時の事を思い出しため息をついた

「どうして、こんな無理ばかりするんですかね?」

問いかけてみても返事は無い

救急車を呼ぶか迷ったが、本人がただの貧血だ、と言っていたので医務室でしばらく様子を見ることにした





遅い時間だったので、案の定医務室には誰も居なく、伊丹はそのまま神戸の身体をそっとベッドに寝かせる

呼吸はだいぶ落ち着いたものの、その顔色はまだ良くない。額に手を当てて熱を測ってみると少し微熱もあるようだ

「ただの貧血でここまで体調悪化するもんなのか?」

貧血の経験がない伊丹には分からないのも無理はない

とりあえず、少しでも楽になれば、と濡れたタオルを額に置いてやることしか今の自分には出来ないのがもどかしかった





しばらくすると、神戸がぼんやりと目を開けた

「・・・ん」

「気がつきましたか?」

意識が戻った神戸は伊丹の顔を見るなり、バツの悪そうな表情を浮かべた

「また、伊丹さんに迷惑かけちゃいましたね」

「そう思うんなら少しは自重して下さい」

神戸は申し訳なさそうに、すいません、と謝る

「まぁ、でも別に迷惑だなんて思ってませんから」

伊丹の言葉に顔を上げた神戸は小さく微笑んだ

「・・・ありがとうございます」

「ですが、もう少し自分の身体を大事にして下さい」

真っ直ぐ見つめる伊丹の視線を受け止めた神戸は、胸がじんわりと温かくなるのを感じた




「たまにこういうことあるんですか?」

少しの間のあと、伊丹が唐突に質問を投げ掛けてきた

いくら慢性的な貧血と言えど、いつもこんな状態なわけでは無い

ただ今回は、城戸の件での精神的負担がこういった形で影響しているだけで

伊丹の質問にどう答えようか思案していると伊丹がそれを制した

「いや、答えたくなかったら答えなくていいです。まぁ、あまり無理しないで下さいよ、警部補殿」

ぽんぽんと肩を叩き出て行こうとする伊丹の腕を思わず掴んでいた

「どうかしましたか?」

「えっ、あっ、・・・ごめんなさい!何でもないです」

ハッとした神戸が慌てて手を離すと伊丹が神戸に向き直る

「?」

「いや、本当に何でも無いんです、すいませんでした」

苦笑する神戸の傍らに伊丹は再び腰掛けた

「やっぱりもう少しここにいても構いませんかね?」

心細くなって思わず掴んでしまったことはおそらく伊丹にはバレているのだろう

それでもなにも言わず側に居てくれる

今の神戸にとってはその優しさが素直に嬉しかった

「ありがとうございます」

「別に礼言われるほどのことじゃ」

少し照れ臭そうな伊丹の横顔に思わず笑みが零れる

自分には心配し、支えてくれる人達がいるということが今の神戸にとってどれ程救いになっているか

城戸の事件で犯した罪は決して消えないし、これからも神戸自身を苛むだろう

しかし、その罪を償うためにもここで潰れるわけにはいかない

改めて神戸は強い決意を胸に秘めたのだった





fin.

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