相棒(神戸×杉下、大河内×神戸)
相棒
迂闊だった――

「杉下さんっ!」

突然のことに反応が一瞬遅れた

神戸の小さく呻く声が聞こえる

犯人がナイフで杉下を刺そうと襲ってきたのに気付いた神戸が、咄嗟に庇って腹部を刺されたのだ

カラン、とナイフが落ちる音がする

「神戸くん!!」

今にも倒れそうな神戸を支え、杉下は傷口をハンカチで押さえた

「…っ、大丈夫、です…それより…犯人を…」

「ええ、分かりました。君はここで少しだけ待っていて下さい」

杉下の言葉に頷くと神戸は近くの壁に背を預けゆっくり腰を降ろす

「…っ…はぁ、はぁ…」

痛みに顔を歪ませながら、なんとか呼吸を整えるが、傷口を押さえるハンカチも手も血で真っ赤に染まっていた





「神戸くん!しっかりしてください!」

沈みかけた意識を呼び戻したのは杉下の焦ったような声だった

「…杉下、さん…?」

「大丈夫ですか?」

「…はい、…それより、っ…犯人は?」

「手錠をかけてそこの階段の手すりに繋いであります」

犯人を逮捕したという言葉にホッとした神戸は良かった、と呟いた

そんな神戸をじっと見つめ杉下はポツリと呟いた

「どうして僕を庇ったりしたのですか?」

杉下の突然の問いに神戸は小さく笑みを浮かべる

「さぁ…?どうしてでしょうね」

本当に咄嗟のことで、犯人が杉下にナイフを向けた瞬間、考えるより先に身体が動いていたのだった





「神戸くん、寒いですか?」

神戸の身体が小さく震えているのに気付いた杉下が声をかける

「…ん…少し」

出血が思いのほか多く、普段から貧血気味の神戸の顔色は血の気が失せて蒼白になっていた

「では、これを着ていてください」

杉下はふわりと自分の着ていた上着を神戸に掛ける

「ありがとうございます」

少しの間があった後、杉下さん、と神戸が小さく呟いた

「あの時、言った言葉…」

「はい?」

「“君の事が信用に足ると思ったことなど、一度もありませんよ”って…」

「ああ、あれですか」

少し前に起きた事件で研究所にある物品を押収するために演じたお芝居

杉下は神戸に自分を殴らせるため、わざと神戸を怒らせる様な事を言ったのだ

「あれは、ああでも言わないと君は僕を本気で殴らないでしょう?」

それぐらい君なら分かってると思っていましたが、と付け加える杉下に神戸は分かっています、と俯いた

「それでも不安だったんです…もう一度、杉下さんの言葉で訂正してくれませんか?」

そう言った神戸の顔が捨てられた子犬みたいに見えて杉下は優しく微笑んだ

「君は特命係の一員で、僕の相棒です。今までも、そしてこれからも」

その言葉に神戸の表情が和らいだ

「良かった…」

そう言って笑みを見せた神戸だったが、急に激しく咳き込みだした

ゴホッ、ゴホッ

ゴホッ――!!

「神戸くん!!」

押さえた口元から血が零れる

何か言おうとするのだが声にならず、再び大量の血を吐いた

自分の名前を呼ぶ杉下の顔を見つめながら、神戸は「ああ、この人のこんな必死な顔初めて見るな…」とぼんやり思った

「…杉、下……さん…」

ゆっくりと手を上げると杉下がその手をしっかりと握り返した

そのことに安堵したように神戸は静かに目を閉じる

「神戸くん!?神戸くん!しっかりしてください!神戸くん!!」

杉下の神戸を呼ぶ声だけが建物に響き渡った





「杉下警部!」

杉下の声を聞きつけ伊丹達捜査一課と数人の警官が中に入ってきた

「大丈夫ですか!?」

杉下のもとに駆け寄ってきた伊丹は、血だらけでぐったりしている神戸の姿を見て絶句する

「ソン…!!」

「すみませんが救急車が来たら救急隊員をここへ案内してください。腹部を刺されて出血も多く、かなりの量吐血しています」

杉下の指示に伊丹はハッと我に返り、分かりましたと返事をして出入口へと向かった





その後、病院に運ばれた神戸は怪我と出血で一時危険な状態だったが、手術と大量の輸血により状態は安定した





次の日、病院のベッドの上で目が覚めた神戸はまだよく回らない頭で記憶を辿ってみる

(あー、俺刺されたんだっけ…)

自覚すると同時に刺された場所が痛む

「痛っ………はぁ、痛いの苦手なんだけどな、、、」

とりあえずナースコールで看護師を呼び、医師の診断を受けた神戸はしばらくの入院と安静を言い渡された





コンコン――

不意に響いたノックの音にどうぞ、と返事をするとドアが開き杉下が顔を覗かせた

「神戸くん、具合はどうですか?」

「杉下さん、すいませんご迷惑をおかけして…」

「ああ、まだ寝ていて下さい」

身体を起こそうとした神戸を杉下がやんわりと制す

「杉下さん、あれから犯人の方はどうなりましたか?」

「大人しく全面自供していますよ」

「そうですか。良かった」

神戸がホッとしたように言うと、杉下は「そうですねぇ」と呟いた

「あれ?もしかして落ち込んでます?」

「はい?」

「僕が怪我したの自分のせいだと思ってませんか?」

黙る杉下にやっぱり、と思う

「あれは、元はと言えば僕がちゃんと確認せずに油断したのがいけなかったんだし、そのせいで杉下さんまで危険な目に遭わせてしまって、すいませんでした」

謝る神戸に杉下は目を伏せた

「君まで…僕の前から居なくなってしまうんじゃないかと思いました」

その言葉と表情を見た神戸は杉下の心が涙を流しているような、

ふと、そんな気がした

「大丈夫です。僕はそう簡単に死んだりしませんから」

「ですが、もしあの時刺された場所が悪かったり、もう少し病院に行くのが遅ければ今頃君は…」

「でも、今はこうして生きてます。もしも、なんて考え出したらきりが無いですし、やめません?」

「君って人は…」

神戸の言葉に杉下は一瞬表情を崩したあと真面目な顔になった

「ただし、もう二度と僕を庇うなんて真似はしないで下さい」

「次はそんな事態にならないように気を付けます」

おどけて敬礼を返すと杉下の顔にもようやく笑みが戻った

最初は特命係に、変わり者の杉下右京に反感を覚えていたが、今は素直に特命係にいて良かったと思える

これからどんな未来が待っているかは分からない

けれど、もうしばらくはこの杉下右京の元で一緒に事件解決をしたいと思った

いつか別れるときがきても僕たちは“相棒”なのだからー――





fin.

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あきゅろす。
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