金田一少年の事件簿(高遠×金田一)
最後のマジックショー (獄中の再会続き)
高遠遙一脱獄の一報を聞いて何ヵ月か過ぎた頃、金田一の元に高遠から一通の封筒が送られてきた

中には手紙とチケットが1枚

手紙には「君を私の最後のマジックショーに招待したい――」とだけ記されていた

同封されていたチケットには場所と日時、それに座席が書いてある

マジックショーの舞台はあの死骨ケ原ホテルだった

近宮玲子が亡くなった場所、そして高遠が自らの復讐を行った場所――

全ての始まりの場所となった場所で最後のマジックショーをすると言う高遠に金田一は一抹の不安を覚えた

(まさか、また殺人が…)

そんな思いを抱えながら、金田一は死骨ケ原ホテルへと向かう列車に乗った


会場に着くと客席はすでに大勢の観客で埋め尽くされていて、金田一は送られてきたチケットの番号と座席を照らし合わせながら前へと進む

金田一の為に用意された席は舞台の真正面、高遠のマジックを一番近くで見れる場所だった

(高遠のやつ…)




時間になり照明が落とされると会場は一気に静まり返った

舞台にスポットライトが当たると、先程まで何もなかったそこに高遠遙一が姿を現した

「本日はお忙しい中、お集まり下さりありがとうございます。是非最後まで楽しんでいって下さい」

そう言って深々とお辞儀をする姿はただのマジシャンで、とても冷徹で残忍な殺人犯だなどとは思えない

高遠が繰り出すマジックはどれも奇想天外で素晴らしいものだった。まるであの近宮玲子の様に――

彼女が生きていたら今の高遠の姿を見てどう思うのだろうか…

金田一も目の前で繰り広げられる見たこともないマジックに釘付けだ

「さて、次はどなたかにお手伝いしていただきたい」

高遠の視線が金田一とぶつかる

「そこの君、こちらへ上がって来て下さい」

「えっ、俺?」

驚きながらも指名された金田一は舞台へ上がる

「来てくれたんですね。ありがとうございます、金田一君」

「あんな招待状貰ったらな。それにまた殺人でも起こされたら敵わないし」

「それは心外ですね。言ったでしょう?今回はそんなつもりは無いと」

「どうだかね」

「それはそうと、私のマジックは楽しんで頂けてますか?」

「ああ、どれも見たこともないマジックばっかだな。アンタやっぱりすげぇや」

金田一の言葉に高遠の表情が少し和らいだ

「君に褒めていただけるとは光栄ですね。是非とも最後まで見ていって下さい」

「ところで、最後のマジックショーってどういう意味だ?まさかこれが終わったら出頭する…訳無ぇよな?」

「それはその時がきたら分かりますよ」

高遠は微かに笑みを浮かべた

「さぁ、ここに入って下さい」

高遠が手に持っている剣に目をやって思わず顔が強張る

「まさかそれで俺をグサッと刺すんじゃないだろうな…?」

(まさか最後って俺の最後って意味か!?いや、高遠なら有り得る…)

「ええ、刺しますよ」

返ってきた答えに嫌な汗が背中を伝う

「フフッ、やはり君は面白い。大丈夫ですよ、刺すのは君が脱出した後です」

いまいち信用しきれ無いが、ここまで来て止めるわけにもいかない

金田一が恐る恐る用意された箱の中に入ると高遠が扉を閉めて鍵を掛ける

「おい、高遠!どうやって出るんだよ?」

しかし高遠からの返事が無い

(まさか本当に俺を殺すつもりなんじゃないだろうな…?)

「金田一君、1分以内に出口を見つけて出てください。でないと串刺しになってしまいますよ?」

外から高遠の楽しそうな声が聞こえた

「マジかよ!?高遠のヤロー覚えてろよ!」

毒づきながらも30秒程で出口を見つけ外に出ると、係員に案内されて2階に用意された特別席に向かう

金田一が歩きながら舞台を見ると、丁度高遠が箱に剣を突き刺したところだった

その瞬間、観客が一瞬息を飲む

だが、高遠によって開けられた箱はもちろん空で、特別席へと辿り着いた金田一にスポットライトが当たる

「勇気ある少年に拍手を!」

高遠の声で会場に拍手が響き渡る

「いやー、なんか照れちゃうなー」

頭を掻きながら椅子に腰を降ろす

なるほど、この高さから見る眺めも悪くない

「さあ、次はいよいよ最後のマジックです。その名も“無重力岩天外喪失”」

(え…?それってまさか)

金田一は耳を疑った

高遠が口にしたマジックのタイトルは幻想魔術団・左近寺が地獄の炎に焼かれて死んだ、あの近宮玲子の欠陥トリックだったのだ

金田一の脳裏に炎に包まれて苦しみ悶える左近寺の姿が鮮明に甦る

「やめろ、高遠!」

思わず叫んだ金田一だったが、その声は観客の拍手にかき消されて届かない

何とか下の階に行こうとするが扉には鍵がかかっていて開かないようになっている

「高遠!ふざけるな!」

焦る金田一をよそに高遠はついに岩の形をした大きな箱に入って、徐々に天井に吊り上げられてく

「やめろー!!!」

金田一が叫んだ瞬間、箱が炎に包まれた





その後、箱の中から一人の焼死体が出てきた

歯の治療痕から見ておそらく高遠遙一に間違いないだろうとのことだった

「高遠…アンタ最初からこの場所で、近宮玲子の欠陥トリックを使って死ぬつもりで…」

金田一は怒りと悔しさで唇を噛みしめた





あれから3日、すっかり塞ぎ込んでしまった金田一の元に一通の手紙が届いた

差出人は書いていない

金田一が慌てて手紙を広げるとやはり高遠からの手紙だった



金田一君へ

君がこの手紙を読んでいる頃、私はすでにこの世にはいないでしょう

さすがに最後のマジックは君にはショックが大きかったかもしれませんね

ですが、私は最後にマジシャンとして舞台に立ち、母の残したあのトリックで死ぬことを望んだ

復讐を誓ったあの時から私は冷徹な殺人犯になった

そのことに後悔はありません

しかし、君には私のマジシャンとしての姿を覚えていてほしかった

私の立てた殺人計画をことごとく見抜く君に、光の中にいる君に、闇の私はどうしようもなく惹かれていった

病で永くないと分かったとき、真っ先に君の顔が浮かびました

君を私のマジックで喜ばせてみたいと思ったんです

そして最後はマジシャンとして死にたい、と…

私のマジックは楽しんでいただけましたか?

少しでも楽しんで頂けたのなら幸いです



good rack 金田一君、君に幸運を――‥

           」


         fin.

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