金田一少年の事件簿(高遠×金田一)
獄中の再会
とある殺人事件の犯人に仕立てあげられてしまった金田一は、明智が真犯人を逮捕して事件が解決するまで刑務所に入れられることになった

「安心してください。すぐに私が真犯人を捕まえるので、それまでの辛抱です。そうそう、今なら彼がいるでしょうね」

面白がっているような明智の言い方に、ある男の姿が頭に浮かんだ

「それってまさか…」

金田一が露骨に嫌そうな顔をする

「君にはしばらくの間、見張り役も兼ねてもらいましょうか」



金田一が入れられた所は、殺人などを犯した凶悪犯が収用される刑務所だった

「入れ」

看守に言われるままに金田一は牢屋に入る

向かいの牢屋に目をやると、そこには予想通りの人物がいた

「やっぱり…」

予想していたとはいえ、ただでさえ苦痛な刑務所生活に天敵とも言える犯罪者が一緒となれば自然と溜め息が漏れるのも仕方の無いことだ

一方の高遠は金田一を見つけると珍しいものを見たとばかりに声を掛けてきた

「おや、誰かと思えば金田一君じゃないですか。妙な所で会いますね。どうしたんです?まさか君が逮捕されるようなことをしたとは思えませんが…」

「嵌められたんだよ。連続殺人事件の犯人にな」

「なるほど、それで君は大人しく此処へ?」

「ああ、向こうは明智さんに任せてある。俺は明智さんが真犯人を捕まえてくれるまでこっから出れないの」

アンタの見張りも兼ねてな、とは言えなかった

しかし高遠はどこか楽しそうだ

「それはいい。ちょうど退屈していたところです。君がいるならもうしばらくここにいるのも悪くない」

高遠の台詞にただでさえ憂鬱だった気分が、さらに憂鬱になった

「アンタ達知り合いか?」

突然、高遠の隣の男が話しかけてきた

「ん?ああ、まあ…一応ね」

「そうかい、そりゃ丁度良かった。隣の兄ちゃん全く話さないから暇だったんじゃよ。これからよろしくな」

そう言っておじさんは屈託無く笑った

刑務所でよろしくも何もないのだが、その笑顔に金田一の憂鬱だった気分が少し和らいだ

慣れない刑務所生活だったが、分からないことや規則などはおじさんが教えてくれた

ここが刑務所でなかったら、普通にどこにでもいる親切で面倒見のいいおじさんだったが、この人も何か大罪を犯したのだろう

ここはそういう場所だ

高遠は相変わらず何を考えてるのか分からなかったが、金田一がいる間はとりあえず脱獄する気は無いようだ





次の日、朝一で美雪が面会に来た

自分のことを心配してくれるのは嬉しいが、「このままはじめちゃんが一生出られなかったら私、私…」などと大泣きされては逆にこちらがあたふたしてしまう

本来なら抱き締めて頭を撫でてやりたいところなのだが、硝子が邪魔でそれも出来ない

必死に慰めてようやく落ち着いた美雪は「頑張ってね、」と残して帰っていった






「23番、出ろ」

朝一番の看守の大声で目が覚めた

23番はおじさんの受刑者番号だ

(いきなり出ろ、なんてどうしたんだろ…?)

考えようとした金田一に向かっておじさんが小さく笑った

「じゃぁな、兄ちゃん達」

「?」

意味が分からず首を傾げる金田一に高遠がポツリと言う

「刑が執行されるのですよ」

刑、即ち死刑だ――

「そんなっ…!」

「何を驚くことがあるんです?ここにいるのは皆重い罪を犯した者です。死刑になるのは当然でしょう?」

高遠の言葉にハッとした

「君も分かっていたはずです。ただそれを見ないようにしていただけだ。罪を犯した者には償ってやり直せる者とそうでない者がいます。彼も…そして私も、ね」

高遠の言葉に金田一は何も言い返せなかった

(そうだ、分かってた…高遠の言った通り、見ないようにしてただけだ。高遠の事も俺は助けたいと思ってたけど、捕まれば死刑になるのは分かってたはずじゃないか…)

自分の無力さに膝を抱えた





「いつまで落ち込んでるんですか?」

夜になっても膝を抱えたままの金田一に高遠が話しかけてきた

「君は相変わらず子供ですね。そうして膝を抱えてても何も変わりませんよ?あの男は自ら犯した罪を償ったのです、自らの命でね」

「分かってる。けど、俺は…」

(短い間だったけど、おじさんは俺に優しくしてくれた…。何をしたのか知らないけど、きっと根っからの悪い人じゃなかったはずなんだ。なのにやり直す機会さえ与えられないのかよ…)

おじさんの笑った顔が頭から離れなかった





ゴホッー―

高遠の咳に金田一は一気に現実に引き戻される

「っ…ゴホッ、ゴホッ…ゴホッ…ハァハァ」

急に何度も咳き込む高遠が心配になった金田一は、高遠の牢屋に向かって声をかけた

「おい、大丈夫か?」

「…大丈夫です…ゴホッ、ゴホッ…ハァハァ…何でも、ありません…ゴホッ」

口では何でもないと言っているが、遠目から見ても苦しそうなのが分かる

「高遠!」

喋ることも出来ない程激しく咳き込み出した高遠は、ついに吐血した

薄暗くてはっきりとは見えないが、おそらくかなりの量だ

「高遠!!しっかりしろ!おいっ、高遠!!聞こえてるなら返事しろよ!高遠ーー!」

金田一の大声に気付いた看守がかけよってくる

「どうかしたのか!?」

「看守さん!高遠がっ…」


薄暗かった廊下に電気がつくとベットに倒れ込んでぐったりしている高遠の姿が見えた

「高遠…?」

咄嗟に演技ではないと確信した

「早く高遠を病院に!」

「それが…直ぐには出来ないんだ」

看守の言葉に耳を疑った

「何でだよ!?早くしないと高遠が…」

「高遠遙一は凶悪犯で、しかも脱獄を繰り返している。上官の許可が無いとここから出せないんだ」

「そんな!何とかならないのかっ?…そうだ、明智さんなら?明智さんの許可があれば高遠をここから出せるよな?」

金田一の剣幕に看守が渋々頷く

「ああ、警視の許可があれば可能だが…」

「じゃ明智さんに今すぐ電話してよ。俺が説得するからさ」

「君は一体…」

「いいから、早く!!」

看守の電話口に明智が出たのを確認すると引ったくるように電話を奪う

「明智さん!高遠がっ…」

「落ち着いて下さい、金田一君。話は聞きました。しかし困りましたね…相手はあの高遠です、演技という可能性も十分考えられる」

「アイツは脱獄するのにこんなちゃちな演技なんか絶対にしない!それに俺がいる間はここにいるって言ったんだ」

しばらくの間ののち明智が口を開いた

「仕方ありませんね、君を信じましょう。ただし、君が高遠の安否を確認して下さい」

「え?」

「君が高遠の演技でないと確認した上で病院に運びます。」

まさかそうくるとは予想していなかったが、これがここに来れない明智が出した苦肉の策なのだろう

「分かった」

「くれぐれも気をつけて下さい。一歩間違えば君が怪我をするか、人質になる危険性もある」

「うん。ありがと、明智さん」

自分を信じてくれている明智に感謝した

「そこにいる看守に代わってください」

看守は明智の指示に従い、金田一を牢から出して高遠の牢屋の鍵を開けた



「なぁ、コイツは殺人を犯して刑務所に入れられた高校生なんだよな…?」

看守が隣にいるもう一人の看守に聞く

「ああ、そのはずだけど…高遠とも知り合いの様だし、この前は剣持警部と仲良さそうに話してたぞ。それに今だって、あの明智警視を説得するとは…一体何者なんだ?」

金田一のことをよく知らない看守たちは、さっぱり分からない、といった様子で互いの顔を見合わせた



金田一が恐る恐る中に入ると血の臭いが鼻をついた

遠くから高遠の様子を伺うが良くわからない

「高遠?」

声をかけてみても反応は一切無い

側まで近寄り身体を揺する

それでも何の反応も無いことに不安と安堵を同時に覚える

口元に顔を近づけると、いつ止まってもおかしくないぐらいの弱々しい呼吸を繰り返していた

「看守さん、急いで高遠を病院に運んで下さい!」

そうして高遠は警察機関直属の病院に運び込まれた

再び牢に入れられた金田一は、結局朝まで一睡もすることが出来なかった




翌朝、牢屋の前で足を止めた人物に気付き、金田一はゆっくり顔を上げる

そこには明智が立っていた

「金田一君、お待たせしました。事件は無事解決しましたのでここから出て構いませんよ」

「あ、明智さん!」

いつもなら嫌味な顔などなるべく見たくないところなのだが、今日ばかりは向かえに来てくれたのが明智さんで良かったと思う

「あのさ、明智さん…その、高遠は…?」

真っ先に心配だったことを聞く

「まだ意識が戻っていません。かなりの量の吐血をした様ですし…正直、あまり良くありませんね。ずっと病気のことを隠していたのでしょう。医者の話では、もってあと半年から一年だそうです」

明智の言葉に金田一は愕然とする

「下に車を回してあります」

明智を見ると仕方ないといった表情で金田一を見ていた

「気になるのでしょう?高遠の事が」

「ありがと…」

病院へ行くまでの間、金田一は一言も口を利かなかった

明智もそんな金田一の様子に幾分珍しさを感じながらも黙って車を走らせた



病院に着くと所々に警官がいた。さすが警察機関専属だ

高遠の病室の前まで来ると明智が立ち止まる

「私はそこの椅子で待っていますので、何かあったら呼んで下さい」

明智が気を使ってくれるのが今の金田一には嬉しかった

部屋に入り、ベッドに横たわる高遠に近付く

「高遠…」

ポツリと呟き側にある椅子に腰掛ける

(今まで散々俺達を振り回しておいて、突然いなくなるつもりかよ…)

「なあ、高遠!」

悔しさに唇を噛んで涙を堪える

「…金、田一…君?」

うっすら目を開けた高遠の瞳が金田一を捉える

「どうして…そんな顔をしているんですか?」

高遠の問いかけに急に恥ずかしくなった金田一は慌ててそっぽを向く

「別に、何でも無い。」

それを見た高遠が小さく笑う

「そう、ですか…っ…ゴホッ、ゴホッ…ゴホッ」

「高遠っ!」

咳き込む高遠の細い背中を擦ってやる

「大丈夫か?」

「ええ…ありがとうございます」

今の高遠の身体では、咳き込むだけでもかなり体力を消耗するはずだ

苦しそうな様子の高遠を見ていることしか出来ない自分に苛立った

「今、看護婦さんを…」

出ていこうとする金田一の手を高遠が掴む

「私は大丈夫です。もう少しここに居て下さい…」

高遠の言葉に金田一は大人しく椅子に腰掛けた

「君がここにいるということは殺人の疑いは晴れたんですね?」

高遠の問いにああ、と返事をする金田一だがその表情は暗い

「病気のこと、知られてしまいましたね…」

「あんたって本当に勝手だよな。散々人のこと振り回しておいて…」

怒りたいのか泣きたいのか分からない表情を浮かべる金田一に高遠は困ったように笑う

「金田一君、君を私のラストマジックに招待したい」

高遠の言葉に金田一が反応する

「ラストマジック…?まさか、また殺人を…」

「いえ、今回は純粋なマジックショーです。最後にマジシャンとしての私を君に見て欲しいと思いましてね」

「…分かった。アンタのマジック見に行くよ」

「それは良かった。では、今度招待状を送ります」

「ところで、もしかして早々に此所から逃げ出そうって思ってんじゃないだろうな?」

高遠を軽く睨む

「思ってませんよ。確かにここなら抜け出すのは容易いが、それだと君の面目が丸潰れだ。私も少し休養が必要ですし、刑務所に入れられるまでは大人しくしていますよ」

「出来ればずっと大人しくしててくれるとありがたいんだけどな」

「それは出来ません。何せ私にはあまり時間がありませんから」

「あんたがそう簡単に死ぬ玉かよ」

「金田一君、当日は君が驚くマジックを用意するので楽しみにしてて下さい」

高遠の笑みに金田一は微かに胸騒ぎを覚えたのだった





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